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恋愛の法則

−恋の法則 続編−






「はぁ!? や、やっちゃった?! ―――」
「ちょっとー!! 真紀、声大きいって!!」
いつもの居酒屋は騒がしくてうるさい所だけど、さすがにこの言葉を大きい声で発するのはやめてほしい。
あんまり考えたくないけど、もう27才なんだから・・・。
真紀の口に手をやり、それ以上言うのを止める。
「あ、ごめん。あまりにも麻美っぽくないことを言うから驚いて」
「・・・自分でもそう思ってる」
本当に本気でそう思ってる。
若い女の子なら分かるけど、大人の分別のある27才の大人の女がする行動じゃないってことくらい理解してる。
「まぁ、その状況じゃそうなる気持ちもわかんなくはないけど」
「・・・うん」
自分でも始めての経験。
あんな状況だって初めてだった。
何にも出来なくて、辛くて、痛くて、自分は27才の大人の女だって自分に言い聞かせて。
でも心の中なんて中・高校の頃からそんなに変わったわけじゃない。
ただ『感情を口や態度に出す』か、『心にもないことを笑顔で言える』か、それが大人と子供の境目なのかもしれない。
たくさんのことを『大人の笑顔』で隠しても、実際のあたしは中学生みたいな恋しか出来なかった。
そんなあたしの27才の大人の恋愛って・・・?
「とにかくその日のことをもう少し、順を追って話してくれる?」
「・・・うん。あのね、1週間前のあの日―――――」











―――― 1週間前のあの日。



パパパパーン、パパパパーン、パパパパ、パパパパ、パパパパ、パパパーン!!
結婚式でよく聞くメロディー。
年々聞く機会が増え、もう少し飽きてきた今日この頃。
それでも毎回聞かされる幸せのメロディー。
いや、それにしたってこんなに虚しくこのメロディーが耳に入って来たのは初めてだ。
「上村さん、マジでキレイっすねー。花嫁さんって!」
「そうだねー」
隣の席の井上くんは、まだ23歳。しかも早生まれらしく23歳になったのは3月末。
まだ2ヶ月くらいしかたっていない。
ちなみに4月生まれのあたしは、さっそく27歳になった。
あー嬉しいなぁー!!
ま、それはいいとして結婚式に出たのはこれが始めてらしい井上くんはすっごく感激した顔。
そのうち嫌ってほど見れるっつーの。
という冷たい言葉は胸の中に留める。
だって井上くんにこの虚しさをぶつけたって仕方ないから。
「塚田さんの彼女がキレイだっていうウワサはよく耳にしましたけど、ここまでとはビックリっすねー!」
「そうだねー」
今日は結婚式。
あたしの恋のお相手、塚田真人(つかだまこと)31歳の。
まぁ、恋のお相手って言っても片思いのお相手だけど。


約1年前、大嫌いだった塚田さんにささいなきっかけで恋してしまった。(恋の法則参照)
その時にもらったヨーグルト味の飴は(どう考えても1個の値段に換算すると10円くらいの)、溶けてしまうギリギリまで大事にとっておいて、親友の真紀に大笑いされた。
あたしだってこんな中学生みたいな恋がしたかったわけじゃない。
イヤ・・・実際あたしの中学の頃ってだけで今の子たちには既に負けている可能性もあるけど。
ってそんな話はおいといて・・・。
毎日同じ会社、同じ部署、斜め向いの机で顔を合わせていて気持ちを打ち明けることすら出来なかった。
だからきっと塚田さんの結婚式を見て、奥さんに嫉妬する気持ちや、虚しい気持ちになる資格すらあたしにはない。










「上村さん、井上、今日はゴールデンウィーク中に、悪いな。来てくれてありがとう」
「全然っすよ! かなり感激しました。キレイな奥さんで羨ましいっす!」
2次会会場に移動する前、奥さんより一足早く着替えを済ませた塚田さんに会ってしまった。
いや、塚田さんの結婚式なんだから会わない方が難しいけど。
井上くんは相変わらず大感激、塚田さんもいつもと違って晴れ晴れして見える気がする。
いつもは人(あたし)をからかって遊んでいる以外マイペースだからなぁ。
「本当におめでとうございます」
「ありがとう」
27才の大人の笑顔を作って頭を下げる。
こんなもんかなぁ・・・?
全然おめでとう、なんて思ってない。
けど、年齢だけは「大人」だから心にもないことを笑顔で言えてしまう。
「じゃあ、また後でな」
「はい!」
元気に返事する井上くんの横で笑顔で会釈する。
正直2次会にだって参加なんてしたくない。
けどね・・・。
「2次会の幹事って早めに行った方がいいんっすよね? タクシー使いますか?」
「うん、そうしようか」
幹事だから仕方ないんだけど。




タクシーの中でも井上くんの感激話は続く。
正直もーいーっつーの!! と思いながらも、気づかれたくなくて相づちをうつ。
大人ってイヤだ。
こんな中学生みたいな恋をしながらも、変なトコで大人のフリをする。
いくつになっても傷つくのは同じで、痛みだってなんにも変わらない。
ただ失恋に対する免疫が出来ていることと、人前でなんて絶対に泣きたくないっていうプライド。
特に年下の後輩くんの前でなんて無理中の無理!!
それだけが今の自分に上手な作り笑顔をさせている。
あーぁ! バカバカしい! 
27才の大人の女がこんな恋して勝手に傷ついて、後輩相手にムキになって大人のフリするなんて!
早くこんな場所から帰りたいよ・・・。












えーっとココどこ??
あたしは誰?
あたしは上村麻美(うえむらあさみ)27歳、失恋したての恋人いない歴2年・・・ってそんなこと思い出したくなかったけど。
それはどーーーでもいいとして。
ここは、本当にドコですか?
・・・・・!? 何!? この久しぶりの生暖かい感触は!?
せ・・・背中?
広い、そして何も着てない背中・・・?
ってあ、あたしも裸じゃーーーーーーーん!!
一体何がどーなってんの??
「いったーーーぁ」
事態に驚きすぎて慌てて起き上がると頭がクラクラして、ガンガンする。
こりゃ、久しぶりに3日酔いコースだ。
ってだからそんなこと今はどーだっていいんだって!!
隣に寝ているこの人は・・・この人、下もやっぱり裸だよーーーーーー!!
一体何が起きたんだろう??
これってよくテレビとかである、見知らぬ人と一夜をみたいな??
どうせドラマやマンガの世界なら、塚田さんの時みたいなキレイなシーンにしてくれーー!!
とにかく服を着よう、このままじゃダメだ!
布団の中とベッドの下に落ちている自分の服と下着を拾い集め、慌てて身支度を整える。
あたしの横に寝ている人は全く起きる気配がない。
よっぽど酔っているのかな? この人も。
ここ、きっとこの人の家だよね?
どの辺りなんだろう?
カーテンに手をかけ外の様子をさぐる。
残念ながら全く見覚えのない住宅街。
あぁ、すっごーーぃ自己嫌悪。
27歳と1ヶ月で人生で初めて見知らぬ人と一夜をともにしてしまった。
たしかに無理してたし、痛かったし、辛かったけど、それにしたって最低だよ。
とにかく記憶を辿ってみよう・・・って記憶がないしーーーーーぃ!





「ん・・・っ」
!?  お、起きた!?
一体どんな顔してるんだろう。
あまりの恐さ&せめて自分の好みの人であってほしい、という期待から顔を見るのはさけていたけどどうやら無理みたいだし。
ゆっくりベッドの方を振り返る。
心臓の音は、すごい。
・・・二日酔い気味だからちょっと不整脈かも。
「「えぇ!?」」
驚いてこっちを瞬きも出来ずに見ているのは・・・。
「いっ、井上くん!?」「上村さん!!」
ほぼ同時にお互いに言葉を発する。
井上くんはその瞬間布団を勢いよくめくって、ベッドに正座するような体制になった。
「ちょっ! ちょっと待って! あの、せめて布団をかぶってくれると嬉しいんだけど・・・」 
「え・・・? はっ! な、なななななぁ!? ○△¥☆×●!? す、すみません!!」
ほとんど意味のない言葉を発して井上くんは慌てて布団を身体にかける。
「あ、うん。ごめんね。慌てなくていいから、ビックリさせちゃったね」
自分が年上っていうだけで、どうしてこんなに冷静な顔を装えるんだろう。
本当は相手が井上くんってことですっごい動揺してるのに。
もしかしたらあたしの方が状況を理解できてないかもしれないのに・・・。
「い、いえっ。あの・・・すっ、すみません!! オレ、全然覚えてないっす、けど。えっと・・・」
残念!!
ここまでの過程は一生ナゾに包まれたままってことかい!
ま、仕方ないか。
あたしだって全く記憶なんかないし。
そもそも井上くんだって記憶に残る程度の酔い方なら、あたしとエッチなんてしなかっただろうし。
「オレと上村さんやっちゃったんっすか?!」
「えぇ!?」
井上くんの余りにも単調直入な言葉に思わず変な声を出してしまった。
だっていつもは、素直で爽やかで礼儀正しくて。
頑張っているけど、井上くんの同期はあたし達の部署に一人もいないから常に指導を受けているイメージだし。
こんなにストレートに直球を投げてくる人だったとは・・・。
やっぱりあたしの方がこの状況に動揺してるんじゃないかな。
ひょっとしてこういう状況に慣れてるとか?
あ、だったらあんな風に声かけるんじゃなかったかなぁ。
ってだから今はそんなことどーでもいいんだってば!!
あたしっていっつもピンチになるとどーでもいい事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡るなぁ。




「えぇっと・・・。ごめんなさい、正直あたしもよくわかんないんだ」
自分より井上くんの方が慣れているかもしれないけど、一応大人の女として冷静さを保つ。
けど彼の方に近づくことは出来ない。
まぁ、彼の格好のせいもあるけど、少し怖い。
それに自分のした信じられない行動に、あたし自身がすごく驚いてるってこともある。
今のあたしはすごく弱っている。
それでも一応27才として、会社の先輩として年上としての平気な顔を作ってる。
まるで昨日の結婚式みたいに。
「そうっすか。あの、起きた時って上村さん服着てましたか?」
「えぇ!?」
なぜだぁぁぁ!!
そんな言葉を次から次へとどうしてストレートに発することが出来るんだろう?
やっぱり若いから?
大学出てまだたった1年だから?
それとも慣れてるから?
「正直にいうね。着てなかった、今の井上くんと一緒」
なんだかますます自分の焦りや動揺、弱さを見せるわけにはいかなくなってきた。
学年は3つ、でも年齢はほどんど4つも離れている井上くんよりも焦っているなんて絶対に思われたくない。
それにここを上手く乗り切らないとゴールデンウィーク明けの金曜日からの仕事に差し支える。
こんな状況でも一応そんなことを考えられる。
やっぱり年取ると違うなぁ。
「すみませんでした!! オレマジで最悪っすね!! かっこわりーなぁ」
そのまま勢いよく土下座しだしたから、布団がベッドから落ちてしまいそうでかなり動揺してしまう。
ってそっちじゃないか。
井上くんは心底悪そうな顔をして、それに相応しい言葉を言う。
本当に素直な子なんだなぁ。
慣れてるなんて思ってちょっと悪かったかも。
「ううん、あたしも記憶ないし同じだよ。ごめんなさい」
さっきまでの自己嫌悪は井上くんの言葉で少しなくなった。
しかもちょっと一夜のお供が井上くんで良かった気もする・・・。
「いや、男のオレが一番悪いっすよ! マジですみません」
「いやいや、本当に年上のあたしがシッカリしてないの悪いし。あたし全く気にしてないから、井上くんも気にしないで」
気にしないでっていうのも変だよね。
慣れてるとか思われそうで言ってからちょっと後悔・・・。
けど、こういうことを心の中で案外冷静に考えられているのが本当に不思議。
あたしって実はこういうこと平気で出来る人だったのかな?
それとも井上くんの行動に誠意を感じるから?




「すんません!! マジですんません!! オレ今から最低なこと言ってもいいっすか?」
「え・・・?」
最低なこと? 
本当に最低なら何も聞きたくない。
けど・・・。
「う、うん」
一応年上としてはここで動揺するのもどうなのかなぁ、というわけで顔を仕事モードにしてみる。
「実は、前から上村さんのことなんか気になってて、そんで昨日結婚式でわかってしまったことがあって」
「は・・・? わかってしまったこと?」
ってまさか!!
すっごーーーくイヤな予感。
「上村さんって塚田さんのこと好きだったんだってことがわかってしまって」
「あ、えーっと。あれ? うーんと」
ヤバイ!
とっさすぎて年上の女の余裕なんて全く見せれない。
「それでオレが上村さんのこと好きだってことも分かってしまって」
・・・・・・・・・・・。
「はい?」
耳でもおかしくなったかな?
なんだか急に胸がドキドキする。
「それで昨日結婚式の間中、奥さんのこと誉めまくって。それでたぶん上村さん飲み過ぎてしまったんじゃないかなーと」
そのとーーーり!!
案外わかってるんだ。
ってか確信犯かよ!
侮り難し23歳、男子井上。
「それに上村さん仕事の時って先輩って感じで、すっげー頼りになるんすけど、普段あんまり年上って感じがしないっていうか・・・」
「・・・はい?」
今何気に結構キツイこと言わなかった?
ちょっとショックなんですけど。
「今だって、オレに気を使って優しい言葉かけてくれたり気にしてないふりしてくれてますけど、ずっとこの微妙な距離保ってるじゃないっすか。こーいうとこ、大人だけど、素直で可愛いっていうか・・・」



今約1年前、親友の優子と真紀に言われた言葉が頭の中を走った。
「麻美はいっつも第一印象の悪い人! 後から実はいい人だったーっとか言ってさ」って言葉。
二人のこの言葉通り、あたしの恋の法則は『第一印象が悪かった人の意外な一面を見ると好きになってしまう』ってこと。
その法則通りにあたしは塚田さんを好きになってしまった。
けど・・・。



「つまりこの状況ちょっと嬉しくて、でも卑怯な感じで辛いんすけど。しかもこんな格好で・・・。でも今言わないと後悔しそうなんで言っていいっすかね?」
「あ・・・うん」
もう年上の余裕なんてどっかに行ってしまった。
「上村さんのこと好きなんで付き合ってください!」












「で、つまり?」
真紀がすっごい呆れた顔でこっちを見てる。
心配して損したと顔に書いてある。
「つまり! 好きになってしまったわけ、井上くんのこと」
その言葉を発してからすっごーく恥ずかしくなってジョッキーに半分残っていたビールを一気に飲み干した。
「だってね。何か男らしく感じたの、こう熱意が伝わってきて会社にいる後輩くんって感じじゃなくて」
「別にー。言い訳なんてしなくていいんだよー」
全く心がこもっていない言葉を真紀が発する。
くっそーーー!!
いいじゃん、たまにはノロケくらい。
妊娠4ヶ月でつわりが酷いために今日この場にいない優子のリアクションも想像できてさらに悔しい。






「でも第一印象かなり良かったのにね、井上くん。ま、ちょっとは成長したんじゃない? エッチしてから付き合うっていうのが高校生とか大学生みたいで駆け引きなしって感じで」
「ぐ・・・。中学生レベルから成長したって聞こえるけど」
「さーねー」
からかってる!!
あたしで遊んでる!
悔しいーーー!!
けど嬉しい。
「そう言えば彼のフルネームくらい知ってるんでしょうね? 爽やか以外の話題聞いたことなかったけど」
「・・・知った? 1週間前」
思い出すと恥ずかしくて、嬉しくて何時間でも話していたい。
「は? どういうこと?」
「うふふ、あのね―――」












「まじっすか!? うわー、マジでかなり嬉しい。嬉しすぎてちょっとヤバイっす」
井上くんの告白に返事したら、すっごく喜んでくれた。
なんかあたし、自分に母性本能っていうものがあるって今始めて気づいたかも。
すっごーーーく可愛くて愛しい。
「あ、そういえば上村さんってオレの名前知ってますか?」
「え? あーうんっと」
突然の言葉に動揺してしまう。
さっきまでの大人の女はどこに行ったのかな?
それはいいとして、記憶を探る。
確か会社でつけているネームには『井上祐(いのうえゆう)』って書いてあった。
「祐(ゆう)・・・だよね?」
「ぶっぶーー。違うっすよー。祐(たすく)って名前です」
「えぇ! 何か現代っ子って感じ」
かっこいいかも。
何か好き度がまたアップしてきた気がする。
「何っすか? 現代っ子って」
井上くんが笑ってる。
あたしを抱き寄せてギュってしてくれる。
あーーーーっ、何かすっごいキュンっとかしてる!!
「ま、いーや。これからはちゃんと覚えてくださいね。麻美さん」
あ、ヤバイ!!
耳元で囁かれた声に心臓が飛び出した気がする。
あたしってば、すっごい好きになってしまう予感がする。
スタートラインに立った瞬間に70メートルくらい走ってしまった感じ。
・・・一応27才として100メートルっていうのはやめておきました。
それにしても27才になってもキュンってするし、こんなにドキドキしたりするんだ。
この感覚、クセになりそうっ!







「みたいな感じーーーっ!!」
「・・・バカ。麻美の高校時代を思い出したよ」
「うるさいなぁ」
そう言いながらも祝福してくれているのを感じる。
新しくテーブルに上がっているジョッキーをもって乾杯する。







27才の大人の恋愛。
キュンっとか、ドキっとか、とにかくクセになりそうな感覚。
どっしり構えて大人をアピールなんてきっと出来ない。
ハマるのはたぶんあたしだ。
あたしの恋愛の法則は・・・?










A.井上くんといる時は、27才でも大人でもないただの女の子。(中学生レベルからホンの少しだけ成長!) 









・・・・・・・自分で言ってて我に返ると恥ずかしいけど、幸せだからいっかぁーーーー!!








終わり


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2005.05.05


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【後書】
壊れていくけど、恋ってこんなもんですよね?
(まさかあたしだけ?)
いつかまた続編を考えています。
どこまで麻美が壊れるかが勝負!?

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