番外編 青春泥棒。 高校2年生の宮坂錬くんは今毎日がすっごく幸せです。 それと言うのもずっと気になっていた女の子に告白されて付き合うことになったからです。 彼女の名前は『朝倉芽衣(あさくらめい)』ちゃん。同じクラスの女の子でクリクリした大きな瞳が印象的な美少女。 錬くんの通う美並山学園高等部は成績優秀、スポーツ万能の文武両道の大学までのエスカレーター式の名門。 彼はその学園で中でアメリカンフットボール部に所属しています。そのため放課後彼女と一緒に帰ったり週末デートしたりなんてことはほとんど出来ません。3ヶ月経った今でもたったの3回です。 しかも彼の実家は宮城県。なので美並山学園の寮で暮らしています。 だから付き合ってるとはいってもほとんどが部活の後寮の近くの公衆電話で話すくらいのものです。 その電話も寮生活の錬くんは門限があるので、部活の後ともなるとせいぜい週に2回が限度です。 それでも彼にとっては十分満足な交際です。 でも最近、同じ部活で親友の愁哉くんから芽衣ちゃんと別れるように進められています。 愁哉くんは現在D組で芽衣ちゃんとは1年生の時同じクラスだったようです。E組の錬くんとは隣のクラス。 「錬・・・昨日オレ部活の帰りにまた見ちゃったんだよ、朝倉がB組の飯田と手を繋いで歩いてるのを」 また、というのはこれが1回目じゃないということですよね。愁哉くんは今月に入って3回その現場を目撃しているのです。 「でも、オレが直接見たわけじゃないし・・・もしかしたら愁哉の見間違えかもしれないだろ?」 錬くんは愁哉のことを信じていないわけではない、けど毎日幸福感でいっぱいにさせてくれる彼女のことをそれ以上に信じているのです。 しかも彼はドのつくくらい人が良い、おまけに顔もいい。 当然女子生徒からの人気は群を抜いています。 「・・・まぁ、お前がそう言うなら仕方ないけど。一応本人に聞いてみたら?」 愁哉くんは本心は『アホかぁぁぁぁ!! 3回も見間違うわけないだろ!! どれだけお人よしなんだ!』と言いたかったが、親友の恋人をこれ以上悪く言うのは失礼なので止めておきました。彼も中々良い人ですね。 「わかった、ありがとう。本人に聞いてみるよ。何か事情があるかもしれないし」 錬くんはそんな愁哉くんのアドバイスを素直に受け入れることにしました。 だけど、心の中では全く彼女のことを疑っていないようですね。 「錬くん・・・あたしのこと信じていないの? あたしは錬くんが好きなのに・・・」 芽衣ちゃんは錬くんの問いかけに涙ながらに無実を訴えます。 「ご・・・ごめん。そういう意味じゃないんだ。ただ飯田と手を繋いでたって話を聞いたから理由がしりたくて、でももういいんだ」 泣きじゃくる芽衣ちゃんにすっかりどうしていいか分からずオロオロしてしまう錬くん。 「飯田くんって誰? ・・・そんな人知らない」 そう言って錬くんの胸に飛び込む、こうなったら完全にお手上げです。 これ以上聞くことは情に厚く優しい錬くんにはできません。 「ごめんね・・・信じてるよ」 芽衣ちゃんの勝ちです。 「愁哉さん、オレ見てはいけないものを見てしまいました・・・」 そう言ったのは錬くん、愁哉くんのアメフト部の後輩で1年生の健志朗君。 学年は違いますがとっても仲良しです。ちなみに錬くんと同じ寮に入っています。 今日は珍しく二人で買い物に来ました。いつもならこの中に錬くんもいるのですが、本日は不在。大切な用事があるのです。 街中はホワイトイルミネーション一色、そう今日はクリスマスイヴです。 恋人達が幸せな1日を2人で過ごす素敵な日。 そんな日に男2人で買い物中の愁哉くん、健志朗くんは・・・まぁお察しの通りです。 「・・・何を見たの?」 愁哉くんは話そっちのけで服に夢中。 「錬さんの彼女が他の男とキスしてたんっすよ!」 ん? どこかで聞いたことのあるフレーズですがそれは置いといて。 「まじで!? それ、他に誰かに言ったか?」 クールな愁哉くんが珍しく大声を上げます。これには健志朗くんもすこし驚きました。 「言えるわけないじゃないっすか。だから愁哉さんに言ったんすよ」 「そうか・・・なら良かった」 愁哉くんはどうしようか悩みました。 自分の彼女のことを悪く言われて喜ぶ人はいません。 しかも人の口から聞かされても錬くんの性格的に信じないでしょう。 「なぁ、健志朗。そのこと錬に言った方がいいのかな・・・?」 結論の出せない愁哉くんは健志朗くんに相談しました。 「オレが錬さんなら知りたくないっすね。でも愁哉さんから言われるなら他の人の口から聞くよりはいいんじゃないっすかね」 『確かに朝倉は不用意過ぎるほど現場を目撃されている。・・・もう少しバレないようにやれよぉぉぉぉぉぉ!!』 っと愁哉くんは思いました。顔はクールなままです。 「少し考えてみるよ、とりあえず今は買い物するか」 今悩んでも結果は出ないので彼らは久しぶりの買い物を楽しむことに決めたようです。 同じ頃、久しぶりのデートに錬くんは幸せをかみ締めていました。 自分の腕にしっかりと腕を巻きつけてくる芽衣ちゃんにドキドキしっぱなしです。 大きな瞳で目を見つめられたりなんかした時には心臓も飛び出しそうです。 あっという間に楽しい時間は過ぎていきます。 いつの間にかここは芽衣ちゃんの家。 まだ時間は7時で門限まで3時間あります。でも家に着いてしまったので錬くんは少しガッカリしました。 「今日お父さんとお母さんが二人でデートしてくるって出掛けていったの。・・・帰ってくるの12時過ぎるって」 大きな瞳で上目使いをする芽衣ちゃんに奥手の錬くんもさすがにドキドキします。 でも真面目な錬くんは自分の良からぬ考えをぐっとこらえます。 「上がっていってほしいな、まだ早いし・・・」 そう言って恥ずかしそうに俯かれては錬くんもかないません。 奥手で優しくて真面目でも一応男の子です。 ・・・・・・・・・!? ・・・・・・・・・・!!!!! 錬くん今日人生初の甘〜い素敵な体験をしたようです。 体験後一気に距離が縮まった気がしてますます芽衣ちゃんが大好きになりました。 それもそうですよね、お互い全部をさらけ出すわけですから。 錬くんは寮の部屋に戻ってからもドキドキが治まることはありませんでした。 愁哉くんは決心しました。 『オレが錬ならハッキリ聞きたい。浮気されていて知らずに付き合うなんてオレはイヤだ。オレだったら聞いて別れる(たぶん・・・)』 A型の愁哉くんらしい意見です。 年末のため錬くんは明日から実家に帰るようなので、今日の自主トレーニングの後に言うことに決めました。 「錬、ちょっといいか?」 愁哉くんの胸はすごく緊張しています。 前に芽衣ちゃんとのことを忠告してから3ヶ月経っている上に、浮気レベルがアップしてるので何倍も言いづらいです。 「何? オレこれから芽衣と会う約束してるんだ」 この錬くんの幸せそうな顔を見て愁哉くんの決心は大きく揺らぎました。 『わざわざ言ってオレの価値観で錬の幸せを奪っていいんだろうか? 錬が幸せなら傷つけずに黙っててもいいのかも・・・』 愁哉くんはホンの数秒の間に色々なことをシュミレーションしています。 「愁哉? どうした?」 何も言わない愁哉くんに錬くんは戸惑っています。 そこへウエイトトレーニングを終えた健志朗くんがやってきました。 「あ、愁哉さん錬さんにあのこと言ったんすか? やっぱり錬さん別れた方がいいっすよ。愁哉さんも心配してるし」 『!!!!!!!!!!!!!!!!! (このバカやろう!! オレはまだ何も言ってないんだよ!)』 愁哉くんのクールな顔も台無しです。 見る見るうちに顔から血の気が引いていきます。 「え? 何のこと? ・・・ひょっとして・・・」 錬くんは健志朗くんの言った意味がちょっぴり分かったようです。珍しく顔を強ばらせています。 「え? ・・・言ってなかったんすか?」 健志朗くんは自分の言ったことの重大さにやっと気づいたようです。 焦りましたがマイペースな健志朗くんは『言っちゃったもんは仕方ないよなー』と思い見たまま打ち明けました。 重たい空気が流れました。 錬くんは愁哉くんが中々言い出せなかった様子を見ていたので彼の気持ちを理解できました。 「愁哉・・・わるい、心配かけてたな」 黙ったままの愁哉くんに錬くんはそう言いました。 芽衣ちゃんを信じたいです。だけど2年近くも親友の愁哉くんがあれだけ言い出せないということはウソではありません。 健志朗くんも8ヶ月の付き合いとはいえ同じ寮で毎日一緒にいるのでこんなことで嘘つく人間じゃないことは知っています。 しかも愁哉くんが錬くんを傷つけてしまうのではないかと言うのを躊躇っていたこともちゃんとわかっています。 健志朗くんのせいで台無しでしたが・・・。 けれど錬くんは素直にどちらのことも信じられずにとても戸惑っています。 「錬・・・」 愁哉くんはそれ以上何も言えなくなってしまいました。 錬くんは帰省するための新幹線に乗る前に芽衣ちゃんの家に寄りました。 電話より会って直接話したかったのです。 「芽衣、本当のこと聞かせてくれないか?」 錬くんは冷静に芽衣ちゃんに尋ねました。 「あたしのこと信じてないの? ・・・あたしには錬くんだけだよ」 そう言って泣き出す芽衣ちゃんにまた何も言えなくなってしまいました。 『信じたい、だけど愁哉のことも健志朗のことも信じてる。どうしたらいいんだろう・・・。芽衣の言葉が信じられなくなってきた』 錬くんは実家に帰る新幹線の中で何時間も悩みましたが結論は出ません。 どちらかを信じるとどちらかが嘘をついてることになります。 『愁哉や健志朗のあの顔は嘘じゃない、だとすると芽衣? けどそんなことをするとは思いたくない』 お正月いっぱい悩みました、そしてやっと結論にたどり着きました。 『どっちも嘘をついてると思えない。だから自分の目で見るまで芽衣のこと信じてみよう。その代わり見たときは泣かれても絶対に別れよう』 錬くんは悩んでばっかりで今年のお正月は満喫できませんでした。 それでもたどり着いた結論に満足していました。 「そっか・・・錬がそう決めたならオレは何も言わないよ」 冬休みが明けて最初の授業の日のお昼休みに錬くんは愁哉くんに結論を伝えました。 『まじでぇぇぇぇぇぇ? そんなんでいいの? まぁ、錬が決めたなら仕方ない。(オレなら絶対! 別れるけど)』 愁哉くんは錬くんが決めたならもう何も言わないと心からそう思いました。 ・・・たぶんそう思いました。 今日から部活も再開です。 まだ1月なのでグラウンド内を長距離・短距離走った後にウエイトトレーニング等の体力をつけるメニューが中心です。 「あっちーなぁ、ウエイトの前に着替えないか? このままやったら風邪引くよ」 グラウンドを走ってすっかり汗をかいてしまった錬くんと愁哉くんはTシャツを着替えることにしました。 「あっ・・・オレ教室に着替えの入ったカバン置いたままだ。取って来るから先に着替えてて」 錬くんは着替えを取りに教室に向かいました。 今の時間は夕方の6時40分を少し回ったところ、教室の中は真っ暗です。 「も・・・よう」 教室の中からボソボソと人の話し声がします。 錬くんは廊下から教室の中を覗きました。 『あ、芽衣だ。・・・ともう一人は、飯田?』 中の話し声は芽衣ちゃんと浮気相手としてなんども名前があがっていた飯田くんでした。 錬くんは金縛りにあったように動けなくなってしまいました。 「宮坂と付き合ってるんだろ? 今まで知らなかったよ。それならオレのことは何なわけ?」 忘れてるかもしれませんが【宮坂】は錬くんの名字です。 それはいいとして、飯田くんは錬くんと芽衣ちゃんが付き合ってるのを知らなかったようです。 それもそのはずです、一緒に帰ったり週末デートしていたのはほとんど飯田くんの方だからです。 だけどどこからか飯田くんはその噂を耳にしたようです。 「付き合ってる? 宮坂くんと? あたしのこと信じてないの?」 芽衣ちゃんは泣き出しました、大きな瞳に大粒の涙を浮かべて。 「じゃあ付き合ってるのはオレ? オレのことが好き?」 飯田くんは泣いている芽衣ちゃんに対してきちんと結論を聞こうとしています。 錬くんとはここが違います。 「・・・陸だけだよ、信じてくれる?」 ちなみに陸とは飯田くんの名前です。 「じゃあ、宮坂とのことはただの噂だよね? 信じていいよね?」 相手がモテモテの錬くんだけに飯田くんは必死です。何度も確信を得ようとします。 「信じて・・・あたし、宮坂くんとは同じクラスってだけだよ。好きよ、陸」 上目使いの芽衣ちゃんにプラス涙、飯田くんの健闘もここまでです。 「わかった、芽衣のこと信じる」 「陸・・・大好き」 そし教室の中は一気に甘い雰囲気に・・・芽衣ちゃんと飯田くんはめくるめく官能の世界へと旅立っています。 全く、ここは教室ですよ!! あ、忘れては行けません、この様子を廊下からずっと見ていた人の存在を。 『・・・女って怖い・・・』 錬くんはそう思いました。 『今までのことすべてがウソだったんだ。何もかもが信じられなくなっていく・・・』 結局何も言えないまま教室を後にしました。 錬くんの頭の中は真っ白になりました。 次の日着替えの出来なかった錬くんは高熱を出し学校を休みました。 その熱にうなされながら錬くんは芽衣ちゃんと過ごした時間に恐怖を覚えていきました。 「錬くん、あたしのこと信じてくれないの?」 芽衣ちゃんの涙です。 優しい錬くんは泣いてる女の子を責めることはできません。 『信じるも何もハッキリ見たって言ったのにな・・・』 だけどそう錬くんは思いました。 そして『今まで何度もこの手に引っかかっていんだ・・・』と改めて思いました。 「あたしは錬くんだけよ」 芽衣ちゃんはそう言って上目使いで大粒の涙を浮かべて錬くんを見つめます。 錬くんは何も言えませんでした。けれど心の中は 『女って怖い、女って怖い、女って怖い、女って怖い、女って怖い、女って怖い、女って怖い・・・』 と叫んでいました。 しばらく泣き止むのを待って決心していた気持ちを伝えました。 泣き落としが通じなかった芽衣ちゃんは泣きながらその場を立ち去りました。 錬くんが追いかけて来てくれると思ったのでしょう。 でも彼にはもうそんな気は全くありませんでした。 いや、そんな気力はもう彼の中に微塵もありませんでした。 優しくてかっこよくて奥手で真面目な女の子に人気のあるスーパー高校生錬くん。 錬くんを独り占めに出来るチャンスを自らの手で投げ捨てた可愛らしい悪魔芽衣ちゃん。 彼はその出来事をきっかけに女性不信に陥りその後6年以上の青春を奪われてしまったのでした。
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Update:09.12.2004
素材:1キロバイトの素材屋さん
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