2000Hit記念 番外編
『天使が僕に舞い降りた』
今から8ヶ月ほど前、オレ達が大学を卒業して2年が過ぎた頃のこと。 オレとやっちゃんと愁哉で久しぶりに集まって居酒屋で飲んでいた時にそれは起こった。 学生時代と全く変わらない笑顔と話題で男3人で飲んでいた最中に鳴った愁哉のケータイ。 そのケータイの画面に映し出された文字を見て、愁哉の顔は学生時代には見たこともないくらい深刻な顔になった・・・。 「「えーーーーーーーーーーーっ!!」」 愁哉の発した言葉にオレとやっちゃんは大声を上げた。 しばらく3人揃って黙り込んだ後、やっちゃんが口を開いた。 「え〜っと〜・・・出来たって当然・・・赤ちゃん・・・だよね〜?」 やっちゃんは混乱した顔になって愁哉に再度確認をしている。 オレは固まったまま動けない。 まるで金縛りにでもあった気分だ。 この出来事は今までの人生の中で最大の驚きだったと思う。 やっちゃんの言葉に愁哉は静かに頷いた。 ・・・・・・こういう場合なんて声をかけたらいいんだろう。 愁哉は普段口数は少ないけど、単純な性格だから考えていることはわかりやすい。 けど・・・この状況はお互いに初めてだからどうしていいのかわからない! えぇっと・・・一先ず・・・。 「おめでとう・・・って言っていいのか?」 うわ・・・愁哉の顔がホンの少し引きつった。 「よく・・・わかんないんだ」 下を向いたまま愁哉はボソっと言った。 この時オレは愁哉が今どんな言葉を欲しているのか、どんな言葉をかけるのが正しいのか必死で考えた。 けど、正しい答えは全く見つからなかった。 「やっちゃん・・・もし今はつみちゃんに子供が出来たらどうする? 喜ぶ?」 「え〜っ!!」 やっちゃんは大声で驚いた後、真剣に考え込みこう答えた。 「・・・オレは今は喜べないかな〜。まだ仕事始めて3年目だし一人前でもないし〜。でも、それはあくまで実際に出来たわけじゃないから言える事で、その時になってみないと本心はわからないな〜・・・」 やっちゃんは今、芸能事務所でマネージャーの仕事をしている。 芸能事務所を受けている間、何社かから「マネージャーじゃなくてタレントとして!」という申し出があったらしいが、丁重に断り今の会社で働いている。 「そうか・・・そうだよな。うん、そうかもしれない」 愁哉は小さく答えた。 何度考えても愁哉が欲っしている答えが見つからない。 何年も一緒にいるのに・・・申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「愁哉・・・とにかく今考えてること全部言ってみたら? とにかく心で思うよりも吐き出した方が、整理しやすいんじゃない?」 色々考えた結果まず、愁哉の気持ちを確認した方がいいという結論に達した。 聞いたところで何が出来るかはわからないけど、とにかくそうした方がいいと思った。 愁哉は小さく頷いた後、ボソボソと話し始めた。 「オレ・・・彩のことはすごく大切に思っているし、いつか結婚したいとも思ってた。けど・・・」 「けど〜?」 言葉に詰まった愁哉にやっちゃんが笑顔で続きの言葉を促がした。 「オレ今年25才になるってのに恥ずかしいけど、親になれるほど大人じゃないっていうか。1人の人間を育てるに値するほどきちんとしてるか、って考えたら全然そんなんじゃなくて・・・。だからこのメール見て今は頭が真っ白なんだ。それはきっと、自信がないんだ。1人の人間の親になるってことが・・・」 「「・・・・・・・・・・・・」」 オレもやっちゃんも完全に言葉に詰まってしまった。 親になる自信・・・そんなこと考えたこともなかった。 たぶん、それは子供が出来て初めて考えることなんだろうけど・・・。 確かに、一人の人間を育てるっていうのはその子供の一生に責任を持つってことだ。 当たり前のことだけど、簡単な気持ちでは親になれない。 愁哉が不安なのもわかる、なんて言ってはダメだろうけど少しだけ分かる・・・気がした。 オレが高校教師になったばかりの頃、そういう不安を感じた。 自分が教師として生徒に何かを教えることが出来るほど立派な人間だろうか、って。 今は毎日無我夢中で生徒に接している。 それはあれこれ考えるより、生徒とたくさん時間を共有することが大切だと思うようになったからだ。 今はまだ若くて、生徒よりたかだか7〜9年しか長く生きていない。 そんなオレが大人ぶって何かを言うより、生徒の目線で接することで理解し合えることもあるんじゃないのか、そう思っているからだ。 だけどオレと生徒は他人だ。 そう思って接しているわけじゃなくても生徒には本当の親がいて、オレは一定時間を過ごしているに過ぎない。 愁哉の不安と比べようっていうのが無理なのかもしれない。 ・・・何かモヤモヤする。 なんだろう、何かこう上手く言葉に出来ないけど、大切な何か・・・。 「錬ならどうする?」 「・・・え?」 オレなら・・・って全く想像つかない! 彼女どころか好きな相手もいない。 ・・・けど、オレを愁哉として置き換えるのなら・・・。 「オレは・・・」 愁哉が彩ちゃんをずっと大切にしてきたことは十分に知っている。 そして彩ちゃんが愁哉を大切に思っていることも、見ていて十分伝わってくる。 もし、オレが愁哉だったら・・・。 「産んでもらうかな・・・、きっと。オレの場合、所詮想像だけど」 オレが愁哉くらい誰かを思えるなら、きっとそうする。そう思った。 「なんで想像の中で産むって考えにいたったの〜?」 やっちゃんは少し不思議そうにそう言ってきた。 「うん・・・愁哉が彩ちゃんを思うくらい好きな人がオレに出来たとしたらの話だけど・・・。その子供に会いたいし、きっと大切な存在になると思ったから・・・かな」 オレはやっちゃんの顔を見て思った通りのことを言った。 やっちゃんは少し考えた後、満足そうに「そうかも〜」っと笑った。 愁哉はずっと黙って考えたままだった。 しばらく経った後、彩ちゃんが一体どういう気持ちでいるのかが気になった。 やっちゃんも同じ事を考えたらしく、愁哉にこう聞いた。 「ね〜愁哉。彩ちゃんは何て言ってきてるの〜?」 愁哉は黙ってポケットからケータイを出して画面をオレ達に見せてくれた。 『赤ちゃんが出来たみたいなんだ。彩』 メールの文章はそれだけだった。 その内容から彩ちゃんの気持ちはオレには全く分からない。 「話してみたら? 彩ちゃんの考えも書いていないし、一人で悩むことじゃないよ」 オレの言葉に愁哉は静かに顔を上げてこう呟いた。 「・・・・・・・・・彩は、産みたいと思う・・・」 愁哉は疑問でもなんでもない質問をされたような顔をしてる。 「なんで〜?」 やっちゃんの意見オレも同感だ。 「だからメールしてきたんだと思う。・・・オレの反応を直接見たくなかったんだ・・・と思う」 うわ・・・・こんな時に不謹慎かもしれないけど、すごい! って思う。 今さら分かりきったことだけど、なんか二人の絆を感じてしまった。 そんな風に気持ちを理解し合えるなんてオレには想像もつかない。 本当にすごい! って思う。 しばらくオレはそんなことしか考えられなかった。 さっきからモヤモヤしていた事の答えがすぐそこまで出ている気がする。 「・・・彩ちゃん、今どんな気持ちでいるんだろうね〜」 しばらく続いていた沈黙を破ったのはやっちゃんだった。 「え・・・?」 愁哉は驚いた顔でやっちゃんを見ている。 「だって〜・・・こうしている間にも、赤ちゃんは育っているわけでしょ〜? 男には実感ないけど女の人の場合、誰よりも近くにいるわけじゃない? だからどんな気持ちかなって〜」 ・・・・・そうだ、さっきからずっと思っていたモヤモヤした気持ちがはっきりと今晴れた。 親になる自信もなにも、もう親なんだ愁哉は・・・。 まだ手で抱きしめることは出来なくても、もう彩ちゃんのお腹にいるんだ。 あれだけ愁哉が大切に思っている彩ちゃんとの間に出来た子供。 男はダメだな・・・。 選択肢があるなんてことをまず最初に考えた時点で女の人に劣っている気がする。 「愁哉・・・今どんな気持ち? 言葉に出してみて何か変わった?」 愁哉は静かに頭を振った。 「彩が大切だ・・・これからもずっと側にいてほしい。何もかわんない」 下を向いたまま、それでもしっかりとした言葉で言った。 「でもさ〜・・・よくわかんないオレが言ってもなんの説得力もないんだけど〜・・・自信って親になって、家族を大切に思って・・・その結果で後からついてくるんじゃないかな〜」 やっちゃんがビールを飲みながらそう呟くように言った。 自信・・・自信ってそもそも何なんだろう? よく考えたら立派な親の定義ってなんだろう。 いつから大人でいつまで子供なのか。 オレにとって親は親で屁理屈みたいだけど、親からすればオレは一生子供だ。 親は自分が最初に出会う人間であり、絶対的な大人。 この歳になっても、親を子供だと思ったことなんて一度もない。 ・・・・・・・・・そうか。 なんとなく、ぼんやりだけど分かった気がする。 その結論はあくまでオレの考えに過ぎないけど。 「愁哉・・・オレはまだまだ子供だ」 あ・・・二人揃って驚いた顔してるよ。 確かにいきなりこんなこと言ったら驚くよな・・・。 ま、続けよう。 「・・・でも仕事をして自分の力で生活してる。自分で生活できるけど、どこかで親って存在にどこかで支えられてるし、それは甘えなのかもしれないとも思う。 親は自分が最初に出会う大人だけど、他人からすれば違う。もしかすると他人から見たら子供に見えるかもしれない。母さんなんてよく父さんのこと「子供だ」とか言うし。でも、オレから見たら二人とも親で大人・・・。オレは一生二人の子供なんだよな。 あ・・・何か上手く言えないけどさ、愁哉は彩ちゃんのお腹にいる子供が出会う最初の大人の一人だろ? 自信がどうとかじゃなくて・・・もう親なんだよ、お前は」 なんだか言い終わってオレは経験者でもないのに何を好き勝手言っているのだと少し思った。 でも今日こういう今まで考えたこともない話をして、ぼんやりだけど親って存在のことが少しだけわかった気がした。 オレはどんな親が正解でどれが不正解かは知らない。 だけど少なくとも自分の両親を間違っているとは思わない。 親はこの歳になっても・・・きっといくつになっても、心のどこかで甘えられて支えられてるたった二人の大人なんだ。 「あは、ははははははははは」 !? 愁哉・・・壊れたのか!? ・・・・・・お腹を抱えて笑っている。 「ごめん・・・なんかあれこれ考えててバカらしくなってきて」 急に真っ直ぐにオレとやっちゃんの顔を見た。 さっきまでと違って、何かがふっきれた顔になってる。 「二人とも悪い! オレ、かっこ悪いな・・・。一番大事なことわかってたのに・・・」 そう言いながら席から立ち上がった。 「オレ行くわ! 結婚式には二人とも来てくれ、キレイな奥さんを自慢してやるよ」 愁哉は嬉しそうにそう言って金も払わずに、店から飛び出した。 オレとやっちゃんは一瞬あっけにとられたけど、顔を見合わせて笑った。 それから二人で、愁哉と彩ちゃんの幸せを願ってビールで乾杯をした。 という口実かもしれないけど、朝の4時まで飲み明かして次の日の仕事は少し二日酔いだった。 でもすごく幸せなお酒だったと思う。 その日オレ達は大学時代のアメフトの話とかして、相変わらず子供でしかなかったけど少しだけ成長したような気がした・・・・・かな。 ま、こんな話をするような歳になったのだと少し寂しくもあったけど・・・。 それから愁哉と彩ちゃんは6月の初めに結婚式を挙げた。 お腹に子供がいたので急いで準備した結婚式だったが、さすがに6月ともなると式場は空いてなかった。 教会で結婚式を挙げた後、矢沢の実家が経営しているレストランでパーティーをした。 いたってシンプルな式だったけど、すごく幸せそうな二人を見てカメラマンをかってでた健志朗の歓喜の声がテープに残っていた。 やっちゃんは式の途中「ちょっと結婚したくなってきた〜」とボソっといつもの笑顔で呟いていた。 そして今日12月5日、愁哉と彩ちゃんの赤ちゃんが無事に誕生した。 2800グラムの女の赤ちゃんだった。 愁哉は予定日の今日に合わせて有給をとっていた。 どの道彩ちゃんが立会い出産はイヤだと言ったので、分娩室の外で待ってることしか出来なかったみたいだけど・・・。 けど明日から出張で今日を逃すと出産後の彩ちゃんと赤ちゃんに当分会えないので、昨日の夜から何度もお腹に向かってお願いしたらしい。 ちょっと信じられなかった。 予定日の通りに産まれてきた我が子に「生まれるときから親孝行の娘なんだ」っとさっきから何度も言ってくる。すでにかなりの親バカだ。 オレは仕事を終えて面会時間までまだ1時間あったので病院に見に行った。 4人兄弟の1番上のオレは、赤ちゃんを見るのは初めてではなかったけど愁哉達の子供ってこともあっていつもとはまた違う感動があった。 目が大きくて彩ちゃん似だった。 将来美人になる! っとこれもまたさっきから何度も聞かされている。 「じゃあ、9日の夕方出張から戻ったら会いに来るから」 面会時間になり、愁哉はなごり惜しそうな顔で彩ちゃんと赤ちゃんに言った。 彩ちゃんはすっかりお母さんなのか、オレがいたからなのか「バイバイ」っと手を振るだけだった。 「寒いな・・・息白いよ。もう8時過ぎだもんな」 色々なことを思い出しながら今愁哉と病院の駐車場に向かっている。 息が白くて病院の周りの木にはクリスマスのイルミネーションが飾られている。 「そういえば、愁哉もうすぐ25才の誕生日じゃない? いいね、娘と一緒にお祝いできるね」 オレはからかうように言った。 「いいだろー! でも、一緒にお祝いしないんだ。12月は我が家はイベント三昧なんだ」 からかったはずなのに幸せボケの愁哉には通用しなかったか・・・。 まぁ、今日はきっと愁哉の人生で彩ちゃんと付き合えた日くらいの幸せな日のはずだから仕方ないか。 オレもなんかつられて笑顔になってしまうし・・・。 「月・・・キレーだな」 幸せ自慢をしていた愁哉が突然静かになったと思ったら、空を見上げて呟くように言った。 その言葉にオレも空を見上げてみた。 12月ということもあって空気が冷たくて空はすごくキレイだ。 この辺りはそんなに車通りもないし、比較的暗いこともあって愁哉の言うとおり月がきれいだ。 「そうだな・・・オレの実家で見る月みたいだ・・・」 宮城の実家の牧場から見る月は季節は関係なくいつもキレイだ。 さすがにこの街はそうはいかない。 ・・・けど、今日の月は本当にキレイだ。 親友に子供が出来た日だからそう見えるのかもしれないけど・・・。 「そうだ、名前決めたの? 前から女の子ってことは知ってたんだよな?」 「うん・・・けど、今決めた」 ・・・・? 「は? 今って今?」 愁哉は当然オレ以上に感動しているはず・・・。 でもなんだか空をぼーっと見上げていてなんだかキャラが違う気がする・・・。 健志朗に見せたらショックを受けるかもしれないな・・・。 まぁ、あいつは今それどころじゃないかもしれないけど。 「オレ、錬とやっちゃんと話して彩に会ってなんていうか・・・」 突然呟くように話し始めたかと思ったら、嬉しそうに思い出し笑いをしながら黙った。 「なんていうか?」 「彩のことが今まで以上に身近に感じて、ますます大好きになった」 「・・・・・」 言葉を失った。 付き合いだしてから約5年の恋人(もう夫婦だけど)がそんなに嬉しそうに相手について語るものなのかと驚いたからだ。 けど、正直少し羨ましかった。 愁哉が自分より何十歩も人生の先を歩いている、そんな気がした。 「それから、彩の中にオレ達の子供がいるんだと思うと本当に嬉しかった・・・。あんなに不安だったのにおかしいよな」 「いや、そんなことないよ」 結婚式も幸せそうだったけど、今日の愁哉はオレが出会ってから今まで見た中で一番幸せそうだ。 あ・・・彩ちゃんと付き合うことになったって翌日聞いたときも相当なもんだったけど・・・。 「なんていうか・・・あ、親バカとかじゃないんだけどさ。こんなに幸福を運んでくるオレ達の子供は天使なんじゃないか、とか本気で思ったんだ。・・・オレなんかキモイよな。自分でもそう思うけどさ」 親バカだろ・・・。 そう思ったけど愁哉があまりに嬉しそうに笑っているから、オレまでつられて笑ってしまった。 「なんか、彩に出会ってから『今までオレはこういう人間なんだ』って思っていた自分と違う自分が次から次へと出てきてさ。・・・なんていうか今日って日が来ていることすら信じられないんだ。変だよな」 ・・・・・・・・・・・なんか愁哉がすごく大人に見えた気がする。 「天使なんじゃない、少なくても愁哉と彩ちゃんにとってはさ。親の愁哉が言うんだからさ、きっと間違いないんじゃない? ・・・それにオレもそう思うよ」 オレの言葉に愁哉「ありがと」と照れくさそうに笑った。 「あ、錬! オレあの子の名前・・・羽月(うづき)に決めた」 「ウヅキ・・・? どんな字?」 「羽に月で羽月」 羽に月・・・? あ・・・! 「なるほど、天使だから羽かぁ。じゃあ、月は・・・今夜の月がキレイだから?」 オレはもう1度空の月を見た。 本当にキレイに輝いている。 「羽はあってるけど、月は違うよ」 「じゃあ月は?」 「今日、こんなキレイな月の日にあの子が産まれて錬がここまで来てくれて、幸せな時間を過ごしたこと忘れたくないなって思ったんだ。それに、あの日2人に背中を押してもらえたから今日があると思うし・・・。本当にありがとう、やっちゃんにもお礼言わないとな」 照れているのか・・・? こっちの方が少し照れてしまうけど・・・。 でも何か、メチャメチャ嬉しいな。 「別に何もしてないよ、オレは。・・・それに幸せなのは彩ちゃんがそれだけお前を大事に思っているからで、それは愁哉が・・・愁哉だからだろ?」 愁哉が彩ちゃんにとって最高の男だからだろ、って言おうと思ったけどそれはさすがに恥ずかしい。 男同士で誉めあうっていうのも少し気味が悪いし。 だから・・・止めて置いた。 「あ、そうだ錬! お前あと少なくとも20年は独身でいろよ。信用できない男に絶対に羽月はやれないから仕方ないから錬にしとくわ」 ・・・・・・・・!? 「はぁ? バカかお前」 「だって、お前あんだけ可愛いんだよ。生まれるときから親孝行だし! 早めに手を打っておかないと!」 愁哉は真剣な顔でオレを見ていたけど、顔がフッと緩んだ。 オレもつられて笑ってしまった。 「あははははは・・・大丈夫だって、そんときオレかなり叔父さんだから相手にされないよ」 「そんな娘に育てないから大丈夫・・・って、オレ絶対甘やかしそう・・・」 2人でしばらく空に浮かぶ月を見ながら笑っていた。 「あ、そうだ愁哉。前言ってた父親の自信ってどう? 出てきた?」 幸せそうな愁哉を見てちょっと意地悪なことを言ってしまった。 「それは・・・・・・ない! 全然ない!」 「は? そんなに断言することか?」 愁哉はオレを見て苦笑しながら言った。 けどすごーく幸せそうな顔だ。 意地悪にもならなかったみたいだ・・・。 「でも、彩と結婚して日々大きくなるお腹を見て、実際に生まれてきてくれたのを見ると父親の実感はわいたよ」 「そうか」 なんだかオレもちょっと結婚したくなってきたな・・・。 ってまず相手か。 「何か、父親としての自信はいつ持てるのか全然検討つかないんだけど・・・彩と羽月を守っていく自信ならずっと前からあるよ。自分の命を投げ打ってでも絶対に二人を守るよ・・・ってそんな危ない目には合わせたくないけどね」 「そうだな」 おれ達はまた声を出して笑った。 なんか、信じられないくらいクサイ言葉を発しても全然平気なくらいハイな気分だった。 「これから『こころ』言って飲まないか?」 「いいねー。ま、今日は愁哉の親ばかっぷりでも聞いてやるよ」 「悪いな。錬も早くいい子見つけろよー、ってダメだった錬はオレの息子になるんだから」 「オイオイ・・・」 「あははははははは」 愁哉の笑い声は昔と全然変わらないけど、その顔は幸せな父親の顔になっていた。 ・・・・・・それにしても愁哉・・・冗談だよな? 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2004.10.18
photo:evergreen
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