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眠る記憶

 

第7章 混迷(2)  ― 朝井 龍 ―






”ピンポーーーーン”
誰もいないのか・・・・・・・?
あ・・・萌ちゃんは来週末ごろに帰って来るんだったかな?
昨日宮ちゃんと別れてからずっとメールしてるし、電話もしてるのにハナに繋がらない。
よくわかんない胸騒ぎがする。
ひょっとしたらこれは、自分の気持ちに気づいたことで起こっているだけかもしれないけど。
”ピンポーーーーン”
・・・やっぱりいない?
いや、あいつのことだからもしかしたらまだ寝てるのかも。
えっと・・・10時か。あり得るな。
電話も繋がらないし合鍵使って入ってから起こせばいいか。









「ハナー。 入るぞー」
靴を脱いで玄関にあがる。
まだ熟睡してるのか全く反応がない。
なんか入りなれた家なのに人の気配がなくて、シンっとしてるだけで全く違う家にいるみたいに感じる。
ハナをおそらく好きらしいことに気づいて、だからってあいつに会うのが恥ずかしいとか緊張するとかそんな感じではない。
やっぱり同じ時間を過ごしてきたからかな。
「ハナー?」
自分がサラジュだった時は、シオンに対して少なくてもこういう感覚じゃなかった。
コキアで話している時、確かに安らげたし、癒されていた。
だけどそれだけじゃない、何か。
心の奥底に眠っている記憶。
・・・何か、忘れている大切な何か。
それはオレがオレとしてここにいる理由と繋がっている。

「ハナー? ったくいつまで寝てんだよ」
リビングの左側にあるハナの部屋のドアを起こすためにワザと勢いよくあける。
「おーい! いつまで寝てんだ・・・」
いない。
なんだ、起きてもうどっか出掛けたのか。
だったらメールの返事くらいしろよな。
ま、あいつが帰ってきてからでいいか。
・・・でももしかして愁哉さんと一緒なのかな。
ケータイをジーンズのポケットから出してハナのアドレスを探す。
・・・なんかやっぱりハナのこと好きなんだな。
うん、こういう行動は今までとは違うし。
余裕がない。
相手がシュンランだから?
だったら譲りたいってサラジュは思うのか?
ここは地球だ。
オレは朝井龍っていう一般人であって神じゃない。
手に入れたいものがあったら、諦めたりしないで最後まで精一杯努力する。
・・・?
ま、いっか。
ハナの電話番号に発信する。
”プルルルルルル”
え・・・?
ハナのベッドの枕もとからケータイの着信音がする。
画面は当然オレの名前だ。
・・・なんだろう。
さっきとは比べ物にならないくらい嫌な予感がする。
・・・・・・・・・・!?
「ハナ? いるのか?」
あいつの声が一瞬聞こえたような気がする。
けどオレの声に対する反応はない。
気のせい?
・・・名前、あいつがオレの名前呼んだ。気がする。
「ハナ・・・?」
家の中は静まり返っている。
どう考えても人の気配がない。
「ハナ!! ハナーーーーーー!!」
何かよくないことでも起きてる気がする。
不安で、最悪のことばっかりが頭の中に浮かぶ。
周囲を見渡してもさっきと何も変わらない。
誰もいないシンっとした室内。
怖いくらいに静かで、どうしてさっきまでハナが寝てると勘違い出来たかが不思議なくらいだ。



・・・・・・・・・・。
ハナの身に何かあったのか?
愁哉さんと一緒にいるのか?
じゃあ、シュンランとシオンが何かしてる?
・・・そんなわけがない。
オレは神じゃない。
そんなことわかるわけがない。
違う、オレの気のせいだ。









”プルルルルルル”
ハナ!?
慌てて画面を見る。
けど当然・・・そんなわけない。
ケータイ忘れて出かけてるんだし。
「もしもーし、宮ちゃん。どうしたの?」
着信画面に出ていた人物は、昨日飲みに行った宮ちゃん。
心配でもして電話してくれたのかな。
『朝井! お前、愁哉と一緒じゃないか?』
「え・・・? 一緒じゃないけど」
さっきにも増して嫌な予感がする。
『そうか・・・そうだよな。悪い、変なこと聞いて』
「愁哉さんに何かあったの? ・・・ひょっとして」
家に帰ってないとか・・・?
そう聞こうと思ったけど言葉がでない。
きっと当たってる。
体が震えて止まらない。
2人ともお互いの今と過去が交錯しながら、戸惑いながら会ってた昨日までとは違う。
『朝井? どうした?』
「え・・・? あ、いや。・・・なんでもない」
帰ってこない。
きっと。
『お前・・・何か知ってるのか? 愁哉が家に昨日から戻っていないことの理由を』
「え・・・」
膝が砕け散ったみたいに力が入らなくて、部屋に座り込んでた。
周りの音とかが一瞬にして聞こえなくなって、全身の震えが益々酷くなる。
辛うじて口から出た言葉も雪みたいに一瞬でこの部屋に溶けてしまった。
『朝井! 今どこだ? 何か知ってるなら今からそっちに行くから話してくれないか!?』
いつもは優しい宮ちゃんが大きな声をあげてる。
きっと愁哉さんの奥さんから何か聞いたんだ。
声・・・声を出さなきゃ。
『朝井! 彩ちゃんは愁哉のこと全くの別人みたいだったって言ってた。お前何か知ってるんじゃないのか?』
全くの別人・・・。
どうしてだ。
どうしてここで平凡だけど、幸せに暮らしてきたオレ達がこんな目にあわなきゃいけない?
今更全くの別人になって過去の記憶に縛られてその全てが奪われなきゃいけないんだ。
どうして・・・。
どうしてだよ!!
『朝井! お願いだ、何か知ってるなら話してくれないか!?』
オレもいつかサラジュに取り込まれて、サラジュとして生きて行くのか?
この地球で?
そんなのふざけてる。
オレは散々苦しんだんだ!
もうあんな思いはしたくない。
自分の気持ちのまま、何にも縛られない、誰かのためじゃない、自分のために生きていくんだ。
「・・・宮ちゃん、信じてくれる? オレの話。普通じゃないよ。それでも・・・?」
『もちろんだ! 今どこだ、すぐ行く!』
「家・・・住所は――――」




――――――絶対にハナを取り戻すんだ。











 

 

Update:3.30.2005

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