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続編→恋愛の法則へ





の法則





「上村さん、何か問題あったの?」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「はい、すみません。この製品の・・・・――――――」
なんでこの人ってイチイチ勘に触る言い方しか出来ないんだろう。
あーイライラする!!





大学を卒業して4年。
大学卒業後化粧品会社に就職し、1週間前、念願の企画開発部に移動になった。
新しい名刺に書かれた『上村麻美(うえむらあさみ)』の名前もキラキラ光って見える!



あいつの存在さえなければ、もっとキラキラするはずなのに・・・。







26歳の現在、周りの友達は徐々に結婚していくけどあたしは全くそんな予定はなし。
恋人も・・・1年前からなし。
恋の予感・・・もなし。
仕事は充実、プライベートは・・・すこし寂しい今日この頃。
あ、そうだ。
今日も家を出る時にお母さんから「昨日届いたわよ」っと高校からの親友、優子の結婚式の招待状を渡されたんだ。
学生時代から10数回結婚式に参加しているけどご祝儀に使ったお金はいつか回収はできるのだろうか?
っとホンの少しケチなことを考えてしまう。
やりがいのある部署に移った今は結婚したいという気はほとんどないけど、恋人くらいは欲しい。
けど、そんな兆しすらないまま今日も終わっていく。


最近こうしてベッドに横になって眠りにつくまでの時間に、自分の人生について考えたりする。
そのほとんどは恋愛についてだけど・・・。
この歳になって好きな人が出来た場合、どうやってその恋を恋愛に発展させるんだろうか?
例えば、中学生の頃は片思いの男の子からもらったガムを、大事にとって置いたなんてことがあった。
・・・大事にしすぎて結局傷んでしまったけど。
その恋は結局友達に呼び出してもらって告白して、卒業するまでママゴトのようなお付き合いをした。
なんだかすっごく素敵な思い出!! っとは思うけどこの歳でお菓子とか貰って大事にとっておく人はいない。
26歳の恋は好きな人から貰ったものはなんでも宝物!って喜べるものじゃきっとない。
じゃあ、26歳の大人の恋は一体どんなものなのかな?
例えば・・・「気がついたらなんとなく」って感じで付き合いだして、デートはもちろん夜景のキレイなホテルのレストラン? とかなのかな。
だけど「気がついたら」って、言葉がないのにどうやってお互い思いあってるって気づけるのかな?
あたしは全然わかんないな、きっと。
だからってこの年になって中学生の頃のように、どこかに呼び出して「好きです!」っとか言うのにも、なーんか無理がある。
・・・・・あの頃のような爽やかも熱意もないし。
みんなはどうやって恋を見つけてるのだろうか。
あたしはどうやって見つけていたんだっけ?











「上村さん、何か問題ない? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です。すみません、いつもご迷惑をかけて・・・」
「気にしなくていいよ、仕事だから」
「・・・すみません」
あーーーー!! っホント勘にさわる男・・・塚田真人(つかだまこと)30歳。
何っていうか一言多い男だよね。
しかもその髪の毛の色はいいの?!
ったく誰か注意しなよー。
ま、お局様たちに大人気だから誰も注意しないかー。
でもさ、サラリーマンって自覚あんのかな?
あたし達の部署は確かに外部の人と合うことがほとんどないからってあれはどうなの?
あたしが上司なら絶対クビ!
・・・・・でも仕事は出来るんだよね、悔しいけど。
あたしの指導係になってるから確かに迷惑はかけてる・・・けど。
でもでも、こっちが選んだわけじゃないし・・・あの態度はどうなんですかね?
あーもうイライラする!!







塚田さんとの出会いは本当に!!最悪だった。
今から2週間前、人事異動になった日、時間の確認のために製品企画開発部へかけた社内の内線電話。
「っはぁー!・・・製品企画開発部、塚田です・・・」
って電話に出た!! 
いくら内線電話だからってありなの? 普通思いっきりため息つくかなー!?
上司からの電話だったらどうするんだろう。
・・・・あ!? 
もしかして、きちんと内線の番号を確認してからため息ついたんだろうか??
だとしたら初対面から人をばかにしてんのかいぃーーー!?
・・・・・・・・なんかアホらしい。
塚田さんのことなんかどうでもいいや、仕事仕事・・・。
今日は仕事の後、友達の真紀と飲みに行く約束だから残業は出来ない。
しかもせっかくの週末に塚田さんの顔を長時間見ていたくない。
あーぁ、早く来月末にならないかなー。
そしたら一人立ち出来るから、イライラする日々も終わる。
塚田さんの「何か問題ある?」も聞かなくて済む。













「「今日もお疲れー」」
真紀と行きつけの居酒屋で乾杯する。
あたし達はかなりの量を飲むので、オシャレな店よりがっつけるところが定番だ。
真紀は優子と同じで高校からの友人。ちなみに残り少ない独身の一人。
「ね、麻美。優子からの招待状見た? 来月の最後の日曜日だよね」
「見た見たー。優子が結婚だよー。なんか月日が過ぎるのはめちゃくちゃ早いよね」
手元にあるビールの飲みながら手羽先を食べる女二人の姿は、いかにも独身のオーラを出している。
でもいいんだー。仕事で疲れている時の唯一の栄養剤なんだから。
「相手、31歳だっけ? 結婚式に旦那の友達とかでいい男来るかもねー? どう麻美? 出会いのチャンスかもよー」
「えぇー? その31歳っていう年齢イヤなんだよね。大っキライな人と同世代ってのが何か縁起悪い気がするー。 それよりあたしは年下がいいな。癒し系の年下の子」
31歳といえば、塚田さんと同学年もしくは1個上。
なんだか嫌な感じがする、その年代は・・・。
まぁ社内に他に何人も塚田さんと同期で彼のような嫌味なやつは一人もいないけど・・・なんか嫌!
「そう? 嫌な人がいるんだ・・・。その人も少し気になるけど、年下にいい子でもいるの? 新入社員とか?」
「あー・・・いる、って言えばいるかな。新入社員の歓迎会ですっごく爽やかに自己紹介してた井上くん」
大学卒業したばっかりって感じで、なんだか初々しいんだよね。
「へー・・・。じゃあ、その嫌な人っていうのは会社の人?」
「そう、あたしの指導係の塚田って人。もう最っ悪なの!! 毎日何か問題ある? から始まって・・・――――――」
あたしは延々20分以上もの間、塚田さんの内線電話の出会いから今日の出来事まで真紀に話した。
お酒が入っているから、次から次へと嫌な記憶が蘇ってくる。
「・・・―――――ってわけなのー。本当毎日あの顔見ると憂鬱でさー。ま、仕事は出来るんだけどね」
あー、スッキリした。
これでまた来週一週間も塚田さんの嫌味に耐えられる。
「へー・・・そうなんだ。でもよくそんな日常の些細なことまで記憶してるね。嫌なのはわかるけど、あたしなら逆に嫌いな人のことなんて毎日忘れるけどねー。・・・ね、麻美さー。その人のこと好きになったりしてー」
「えー! やめてよ、ないない! あたしは塚田さんのストレスを飲み会で発散するから、それまでは頭から離れないだけ! 明日には忘れるよー」
週末は買い物行ったり、のんびりして心をリセットするんだ!
「そうかなー。だって、麻美ってさー・・・」
「麻美って・・・何?」
なんか意味ありげな顔。
「いつも通りだと・・・」
「いつも通りだと?」
お互いにジリジリ顔を近くに寄せて顔色をうかがってる風になってる。
酔っているとこんな変な行動も26歳になってもできてしまう。
「やっぱやめとく! 麻美真面目だから人の意見に左右されやすいし、単純だし。それに意地っ張りだし」
「えー! 何それー。しかも酷いんですけど。でも確かにあってるしいっかー! あ、それより真紀はどうなの? 彼氏とうまくいってんの?」
真紀は26歳にしては童顔の可愛らしい顔で、学生の頃からもてていた。
性格と一致してないけど!
あの頃はわりと短い期間で彼氏を変えていたけど、今の人とは1年くらい続いていたはず・・・。
「あー・・・別れた。一昨日ね。でもその話はもーいんだ! ビールのお代わりお願いします」
うわー。ビール一気飲みしてるし。
何かあったんだな、きっと。
真紀は素直じゃないから今聞いても何も答えないだろうから、そっとしておこう。













あーあと2週間でやっと塚田さんの指導期間も終わる!
このイライラからもやっと開放されるんだー!
ま、最近は塚田さんに聞かなくても自分で解決できることが増えてきたから「何か問題ある?」って言われることもなくなってきたけど。
「上村さん、散歩行かない?」
「は・・・はい?」
安心したそばからなぜ塚田さんが!?
心の声でも聞こえてたのかい!
・・・それにしても何言われるんだろう。
しかも散歩って何? ここは会社ですよー?
あ!! あたしなんか塚田さんに注意されるようなことしたっけ?
だとしても、注意ならここでしてほしい。
どこに連行されてるかわかんないからメチャメチャ恐いんですけどー!!
うわ・・・心臓がドキドキしてる。
どうせドキドキするなら、久しぶりに恋愛でドキドキしたい。
って、そんなこと考えてる場合じゃないー!
・・・けど別のこと考えないとこの沈黙に耐えられないし!!
何か話してくれーー!!
こんな広い背中ばっかり見せられると恐いんだって!!
どうして会議室に入っていくのー?
・・・・・・・・・・・何言われるんだろう。
顔上げられません! 恐くて。




「上村さん、はい、これ」
恐る恐る視線を上げると塚田さんの手にはうちの会社の商品?のサンプルが上がっている。
「あの、これは・・・?」
「これね、オレが先月企画書を出した製品なんだけど、良かったら使ってみて感想聞きたいんだけど」
え・・・?
何? 感想?
そんなことのためにあたしは恐怖に耐えていたの?
「あの・・・何かご注意をうけるんじゃ?」
「え・・・? あ、オレは注意うけることあっても、注意できるような偉い人間じゃないから」
何か笑ってるし。
じゃあ、何で今まで沈黙だったわけ??
「はぁ。良かったです。ほっとしました・・・」
本気でほっとした。
悪いことが起きると思って起きなかっただけなのに、すっごい嬉しいかも。
ん・・・? 何かがおかしい・・・。
感想なら最初からそう言えばいくない!? 
なんで「散歩」っとか言うわけ??
人をからかってる??
この人は一体何者ーー!?










「ってことがあったのー。絶対あたしをからかって面白がってるとしか思えないんだけど!」
今日は優子と真紀の3人で結婚のお祝いという名目の飲み会。
来週末に結婚を控えている優子は、明日から仕事をお休みしてエステとか引越しの準備をするらしい。
恋さえしてないあたしは、ただでさえ羨ましいんだからノロケなんて絶対聞いてやらない。
「確かに・・・。ちょっと反応を楽しんでるのかもね」
優子があたしの話を聞いて頷きながら言った。
「でしょー? 全く人をおもちゃだと思ってんのかね」
絶対30歳っていうのウソだと思う!
髪の毛の色もあり得ないくらい茶パツだし、童顔だし!
それとも30歳ってのはあんな子供っぽいのかな?
いやいや、他の社員の人はそうは見えない。
「あ、でもさー。その人の気持ちもちょっとわかるかも」
「え? なんでー?」
真紀の言葉が全く理解できない。
「いや、ごめん。でもさー、なんか麻美って素直に困った顔になるからさ。こう、つい苛めてみたくなるっていうの」
「なにそれ? ・・・でも確かに顔に出るかも」
真紀の言葉に反論したいけど、確かに今日連行されたときかなり恐がってる顔してたかも。
「なるほど、そうかもね。その塚田さんって人の気持ちもわかる気が・・・」
「ちょっと待ってよー。顔に出るのはわかるけど、だからって塚田さんの気持ちよりあたしの気持ちをわかってほしい・・・」
優子と真紀は顔を見合わせて笑ってる。
ん?? でもそれって結局あたしは塚田さんのおもちゃってこと??
「どう? やっぱりその塚田さんって人のこと好きになったりしてない?」
「は!? 今の話聞いててどっからそうなるわけだい? 真紀さーん?」
「あ! やっぱり真紀もそう思った? 麻美だもんね・・・」
何々?? また二人揃って顔見合わせてる。
あたしだもんねってどういう意味?
「だって麻美って、高校も大学も第一印象の悪い人を結局好きになったりしてたし」
「えー! ってそうかもだけど・・・。でも塚田さんの場合もう2ヶ月近く毎日見てるけど、日に日に印象悪くなってるから!」
確かに、高校も大学も同じ二人に言われてしまったらその点は反論できない。
けどっ! 塚田さんの件にはきっちり反論させてもらう!


「でも人ってそれぞれ恋の仕方に法則あるよね。ほら、あたしは第一印象で”この人を好きになるかも”って思った人を好きになること多いし、真紀は友達だった人を気づいたらって感じじゃない? それで麻美はいっつも第一印象の悪い人! 後から実はいい人だったーっとか言ってさ」
優子の言葉があまりにも正しくて反論できない。
・・・・・・確かに今までは!そういう法則があったかも。
「優子だめだよ。麻美にそれを言ったら意地張って、好きになっても違うって言い張るんだから」
「大丈夫! 絶ー対っ!塚田さんのことなんて好きになんないから!」
・・・・何よ、二人とも「やっぱりね」みたいな顔して。
塚田さんのことなんて好きになるはずないのに!!
「あ、それよりさー。スピーチの件どうなってる? 感動させてよね」
優子のやつ、いかにも話題変えました。みたいな話のふり方だなー。
でも、そうだ。すっかり忘れてた。
優子の結婚式の友人代表のスピーチ頼まれてたんだ。
「うんとね。優子さんはフライトアテンダントの仕事をされていて、日々忙しい毎日を過ごしております。この通り大変な美人ですので合コンでも人気がありまして、学生時代は双子の兄弟の両方とお付き合いしていたこともある・・・ってのはどう?」
「ごめんなさいー。麻美さま! あたしは麻美さんの味方ですので、それだけはご勘弁ください!」
優子があたしのために店員さんにビールの追加を注文してくれた。
その様子がおかしくてあたしと真紀は大笑いした。



「優子おめでとう! 今日の締めに優子の幸せを願って乾杯しとこっかー」
「二人ともありがとーね!」
なんか優子すっごい幸せそう・・・。
10年来の親友の幸せだからかな。あたしもすっごく嬉しくなってしまう。
「優子の幸せに」
「「「乾杯!!」」」
独身仲間は減っていくけど、この友達の幸せそうな顔は何度見ても正直ジンッと来てしまう。
ホンの少しだけ、結婚願望が芽生えたりしてしまった・・・。











「今日、倉庫にある過去の製品の資料とサンプルの場所を教えるから・・・。それと、部長がついでに整理整頓してくれだって。これ、着替えていいよ」
「は・・・・い?」
何これ・・・ジャージ?
体育の授業じゃないんだから、なんでジャージに着替えて社内を歩かないといけないわけ?



「・・・なんか、上村さんジャージ似合うね」
「・・・塚田さんも・・・学生に見えますよ」
いい年の大人が二人揃ってお互いのジャージ姿見て笑っているのもなんかおかしい。
塚田さんは、前から態度も顔も髪型も30歳には見えないと思っていたけど。
ジャージを着てると無理をすれば10代にも見えなくもないかな・・・?
なんだかホントにおかしい。
「上村さん、ちょっと笑いすぎ」
「あ・・・すみません」
なんだかいつもとイメージが違いすぎて調子に乗りすぎてしまった。
「このジャージって・・・どうしたんですか?」
「なんか部長がオレ達に倉庫の整理させようと思ってたらしくて、自分の娘と息子の学生時代のジャージを持ってきてくれたんだって」
「あはは・・・。でもじゃあ、本当に学生のものなんですね」
「ほんとになー。どんだけ気合入れてやれって言うんだか・・・」
塚田さんが苦笑している。
研修期間も残り今日と明日で終わりってとこで塚田さんの意外な姿を見てしまった。
今の笑顔・・・。
ちょっとだけ今までのイメージが変わったかも・・・。






「すみません、これからオレ達倉庫の片付けするのでドア、閉めないで下さい」
地下一階にある倉庫の入り口前にいた清掃の人に塚田さんが声をかけた。
「はい、わかりました」
清掃の人の答えを聞いてから、塚田さんに促され中に入る。
「・・・・・・・・・・これ一日で終わるんですか?」
すっごいことになってるけど??
「たぶんね・・・。ま、気楽にやろう」
気楽にやって終わるんだろうか・・・。
・・・これを二人でやれってかーーー! 課長のやつー!
「でもほら上村さんとオレとで片付けるわけだから、次から探しやすくなるし」
「そうですね!」


ってどんだけポジティブなんだー!
こりゃ、ジャージに着替えて大正解だよー☆
って部長に感謝ってするわけないし!!
・・・・・・・・。 
あたしってば、黙々と何十分も仕事しながら心の中で一人で乗り突っ込みしてる・・・。
寂しいー! 
でも、妄想の世界にでもいないとやってられない!
だって、倉庫内の沈黙の中、他に何をしてたらいいわけ?
あーもう、物動かすたびに埃は舞うしなんなのーーーー!!
・・・虚しい。


「あ、塚田さん、これってどこに・・・・・・・・」
いねーーーーーーーーーー!!
どこに行ったわけ? あの男は!!
どーりでなんだかすっごい静かだと思った!!
ドアから顔出してもさっきの清掃の人しかいないし。
・・・・・・あーもう、ばからしくなってきた!
でも終わんないと帰れないし、明日の仕事にも差し支えるし・・・。
ばかばかしいけど、これも仕事だ。
・・・塚田さんにとってもこれは仕事のはずだけどね!






「上村さん、休憩しない?」
「はい?! ・・・あ! すみません!」
心の中で塚田さんの文句をずっと言ってたら突然視界にジュースが差し出された。
うわーーーー、どうしよう。
「あははははははは、ごめん。トイレ行った時に目の前の自販機見てどうしても飲みもの飲みたくなって」
「あ、いえいえいえ・・・すみません。ごちそうになります」
「実は昨日コレで勝ってさー」
塚田さんはパチンコの仕草をしながらそう言った。
整理が終わった一角に二人で腰を下ろし、パチンコの話題でジュースを飲みながら休憩した。
なんだか散々心の中で文句を言っていたことが途端に申し訳なく思う・・・。
あたしって真紀の言う通り単純だなー。
簡単に餌付けされてる。
でも埃はすごいし、すっごい疲れたこの状況で差し出されたジュースは砂漠でもらった水に匹敵する。ってのは少し言いすぎ?だけどあたしにはそのくらい価値がある。








「あ、そうだこれから一人で倉庫に来ることになってもドア閉めたらダメだから」
「え・・・? はい。あの、なんでですか?」
空気がこもるからドア開けっ放しなんじゃないの?
窓なんて20センチくらいのが何個かあるだけだし・・・。
「このドアね、何でか知らないけど外からしか開かないんだよね。だから閉められると中から開かないんだよ・・・・・って」
・・・・・・・・・!?
「「え!!」」
塚田さんの話が終わるか終わらないかのタイミングでドアが閉まった音がした。
急いでドアに向かって開けようとしたけど、塚田さんの話の通り開かない。
「もしかして・・・鍵を閉めないでねっと勘違いしたんじゃ・・・」
あたしの言葉に塚田さんは小さく頷いた。
そして
「あははははははっは」
っと思いっきり笑い出した。
「え・・・?」
「いや、なんかごめん。こんなこと普通有り得ねーよ、って思ったらちょっとおかしくて」
「はぁ・・・」
確かにこんなことドラマかマンガにしかないと思う。
片思いしてる男の子と閉じ込められるとか、恋人ととか。
だったら最高に盛り上がる。
『続く』とかで読者や視聴者を待たせるお決まりのシーン!
だけどあたしと塚田さんだと・・・・・・笑うしかない!!
「「あははははははははははははは」」








5分くらい笑い続けて、やっと二人とも収まった。
「ちなみに聞くけどケータイ持ってないよね」
「すみません、持ってません。ジャージですから・・・」
「だよね、オレもジャージだからさー」
もう1度顔を見合わせて笑ってしまう。
ちょっとはあせろーよ! って最初は思ったけど、あんまりにも塚田さんが笑うし落ち着いてるからなんだか自分だけが焦ってるのもバカバカしく思う。
この人絶対・・・。
「・・・O型ですか?」
「あ、わかる? 当たり。みんな簡単に当てんだよな」
そりゃ、あなたほどO型の人も中々いないんじゃ・・・。
「上村さんは・・・A型?」
「あ、当たりです。あたしもよく当てられます」
「だよなー。だって、なんか真面目だし」
それって誉めてんのかい? 
・・・・・。
また二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
でも今まで嫌味に聞こえていた「何か問題ある?」も勘違いだった気がする。
そんなあたしはやっぱり単純?
でも今日の一緒にいてちょっとだけ塚田真人って人が分かった気がする。
この人は人に嫌味を言うほど、人のこと気にしてない。
・・・ただ単にマイペースで大雑把なだけなんだ。









「11時頃守衛さんが見回りするし、それでも気づかれなければ最悪明日の清掃の時間には近くに人が来るからそれまで整理の続きでもする? トイレと自販機も倉庫内にあるし」
「そうですね、・・・残業手当出ますかねー?」
「出る・・・出てほしい、出てくれー! て感じ」
「ですねー」
塚田さんにごちそうしてもらったジュースを飲み終え整理を再開する。
この2ヶ月あんなに毎日嫌だと思っていた塚田さんとくだらない雑談をしながら、倉庫の掃除をしているのが不思議。
・・・しかもジャージで!
さっきから楽しくて笑いが止まらないし、このまま朝までドアが開かなくてもいいかなって少し思っていたりもする。
・・・けど埃がひどくて化粧が崩れているのが気になって仕方ない!
これは朝まで開かなかったら、油でベトベトになってマスカラ落ちて最悪かも。
やっぱり早急にドアが開かないと困るーー!!








4日後の月曜には一人立ちだ。
塚田さんと一緒に仕事できるのも今日と明日の二日間。
ほんの少し寂しいかも・・・。
でも、どうせ指導が外れるだけで同じ部署にいるんだから寂しがる必要はない!
だから、こんな風にちょっと落ち込んだりする必要も・・・ない。
必要ない!! ないんだってばーーー!!
・・・まずい、このままだと真紀と優子の思うツボだ!!


「上村さん、最近問題ないの?」
ドキっとかするなー!! 思うツボだってば、あたし!!
「大丈夫ですよ、あと4日後には自分一人でやらなきゃいけないですから。でもまた何か分からないことがあったらお願いします」
昨日まではあんなに嫌だった言葉を、今日はなぜか「優しいな☆」とかって思ってるしー!
「そっか。いつでも聞いて、気にしなくていいから」
「はい、ありがとうございます」
やばいって!
塚田さんはダメだって!!
絶対だめーーーーー!!
だって・・・・・・・彼女いるってウワサ聞いたことあるような気がするし。
「上村さん」
・・・・・・・??
「ナイスキャッチ」
「あ、ありがとうございます」
塚田さんが2メートルくらいの距離から投げてくれたのは、らしいようならしくないような品。
周りを包装されている1センチ位のヨーグルト味の飴。
確か10個で100円。
「オレ、これ好きなんだよね」
「そうなんですか。あたしもこの飴・・・好きです」
笑って飴をなめる姿は少し可愛いかも・・・。
そういえば、仕事中飴なめてる姿見たことある。
あーーー!! 
・・・塚田さんが投げてくれたのが飴だけだったら良かったのに。
あたしってば思うツボまでキャッチしてしまったよ。




「塚田さーん、上村さーんいますかー?」
ドアの向こうから声がしている。
あの声は、新入社員の井上くんだ。
「いるよ。開けてくれー」
塚田さんが外へ向かって返事をする。
あーあ、ドラマのような出来事が終わる。
―――――――ドアが開く。
「部長に戻ってこないから様子見て来いって言われて。でも来て良かったですよ、閉じ込められてるとは・・・」
爽やかな井上くんが、今はちょっとだけ憎らしい。
「ありがとう」
でも、完全に化粧が崩れる前に救助してくれたことにはお礼を言わないと。
「井上、ありがとな。ここまで片付けてれば部長もOKでしょう。上村さんもお疲れ、じゃあまた明日」
「はい、お疲れ様です。また明日・・・」





飴・・・受け取って手に握ったまま食べ損ねちゃった。
あーあ、あたしってば、ばかみたい。
飴をキャッチした瞬間、さっきからごまかそうとした塚田さんへの気持ちもキャッチしてしまった。
あーっもう! ホントーっにあたしって単純!!
たったの9時間で2ヶ月大っ嫌いだった人に恋してしまった。
この恋は26歳の女に相応しい恋かな?
あたしが期待していた恋の仕方かな?
答えは・・・?





飴、少しの間とっておこう。
・・・・・けど中学生の頃とはちょっと違う。
今度は傷まないうちに食べるんだ。







A.あたしの恋の法則は中学時代と変わってない。(ホンの少しだけ学習したけど)







・・・・・・・でも、嬉しいからいいっか。









終わり


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2004.10.29


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【後書】
『恋の法則』楽しんでいただけたでしょうか?
なんとも中途半端で終わってしまった感じですが、実は完成まで1週間以上かかりました(汗)。
この閉じ込められたエピソード、私の会社の友人に実際起きた出来事です。
ちなみに、友人が一緒に閉じ込められた人は既婚者で普通にケータイを持っていたので、10分もしないうちに鍵は開きました。
なので恋をしたりなんてことは全くなし(笑)。
やっぱり小説のようにうまくはいかないですね。
そのうち続編をかけたらいいな、と思っております。
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