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■第3話 ペチュニア 〜花言葉はあなたがそばにいると心が和む〜





8月も終わりが近づいてきた。
今年の秋のリーグ戦開始まで1ヵ月を切り、ますます練習に気合が入ってきた。


練習を終え、今年の初戦の相手との春期オープン戦のビデオを、部室で錬と健志朗と3人でチェックする。
オレ達の初戦の相手は去年5位のチーム。
1位になったチームと2位になったチームの試合は最終日となる。
だから、優勝チームは7・6・5・4・3・2位と昨年度の下位のチームから順繰り試合が出来るという、ベストな日程になる。
オレ達の去年の成績は、残念ながら3位・・・。
だから、5・7・6・2・1・4位とあんまり良い日程とは言えない。
まぁ、「いつかは必ず試合するじゃん」と言われるかもしれないが、下位からあたるのとは練習の仕方も全然違う。
日程の組み方も、優勝すると、2週間は試合の間が空くが3位は1ヶ月近く空いたり1週間しかなかったりと、変則的だ。(やりづらいんだよ〜! )
・・・言い訳しても仕方ないから、ビデオに集中しよう。




試合を見ながら、自分の姿にガッカリする。
3ヶ月前の自分のプレーのしょぼさ。
春も去年の秋期リーグ同様、初戦のチームには勝利したものの自分のプレーには納得できない。
オッ! 次は錬のランだ。
「タッチダーン!」
健志朗が、錬のタッチダウンに合わせて声をあげる。
このプレーはマジでかっこよかったぁ!
ビデオで見ても鳥肌たっちゃったよぉ!!
映像には撮影していたマネージャーの歓声も入っている。


・・・錬はホントに上手くなった。
キッカーとしては、この地区で錬の上を行く奴はいないだろうし、RBとしても今年の春からはスタメンになった。
「あっ、ヤベー! 玉磨きの時間だ」
玉磨きって・・・。なんか下品だな。
健志朗は、シャワーで濡れたままの頭をタオルで拭きながら部室から出て行った。
いくらあいつがすごい選手でも、1年生は1年生だ。
しかも「QBの1年生の許可が出るまでボールを磨く」のが、美並の伝統。
きれいに磨けてないと、次の日の練習で滑って練習にならない。
試合も自分達のオフェンスの時は、自分のチームのボールを使う。
ボールに関する全責任は、1年生の健志朗にあるのだ。
だから、たかがボール磨きではない。

ちなみに、汚いと思うかもしれないがボールは唾で磨く。
試合は芝の競技場か、ドームでするが美並といえどもグラウンドは土。
練習の土汚れは、唾で磨くのが一番落ちる。



壁にかかっている時計を見ると6時を回っている。
「錬、まだ見ていくのか?」
「あー、今日これからRBのみんなで飲みに行くんだ。だから時間まで見てく」
RBの先輩は面倒見がかなりいいので、よく後輩達は飲みに行っている。
しかも、先輩は会社社長の息子なのでオゴリらしい。(羨ましい話だ。)
決してWRの先輩が面倒見が悪いわけではないが、しょっちゅう出かけるほどでもない。
「じゃあ、先帰るわ〜! また明日」
「あー気をつけてな」
錬に声をかけて部室を出る。
アメフトの部室から、駐車場までは遠い。
グラウンドのすぐ近くにある職員用の駐車場を抜けるのが近道だから、そこを抜けて帰ろう。
守衛のおじさんも、この時間になると1人もいない。
「あぁ、疲れた」と独り言を言いながら歩く。(オレって寂しい奴かも・・・)
・・・こと10分。やっと駐車場の入り口に着いた・・・
? オレの車の前に誰か立ってる。
止めてくれよ〜!車上あらしとか・・・オレの一番の財産は車だから、中の物持ってくのはいいけど、壊されるのはかなり困る!
少しずつ、少しずつ近づき様子をうかがう。
オレの目にぼんやり見える人物は、妙に細くて小さい。
・・・女か?
さっき練習中に使い捨てのコンタクトを落としたオレは、かなり視力が悪い。
目を細めてその人物を確認するが、ぼやけてよくわからん。
ちなみに車にメガネがあるから、運転に問題はない。(事故りたくないから、常に常備!)
オレの車の前の人物が、こっちを見た。
どうやら車上あらしじゃなさそうだ。
「愁哉!」
そう呼ばれて、目を細める。この声。
「彩?」
「なんで疑問系なの? しかも目つき悪いし・・・」
悪かったな・・・。見えないんだよ。
「あっ、練習後のストレッチの前に、コンタクト落としたって言ってたっけ」
ごめんごめん、と笑いながらオレの方を見る。
「なしたのさ?」
こんな突然待ち伏せされたのは初めてだ。
「・・・」
なんも言わない・・・ってことは何かあったな。
それにしても、6時過ぎてんのに暑い。オレの体内温度計では35度はあるな。
「・・・」
沈黙が続く。
・・・暑い!!
「立ち話もなんだから、車のらん?」
オレは何も言わない彩に、そう話し掛けた。
「・・・乗る」
そう言って、スタスタ助手席の戸の前に立つ。
オレは、リモコンでカギを開けて乗り込んだ。
「「暑いぃぃぃぃぃぃ!!」」
二人で一斉に声をあげる。
炎天下の中、何時間も放置された車の中はやばいくらい暑い。
「あははは、暑いよぉぉぉ!」
さっきまで黙っていた彩が、笑いながらそう言った。
「文句言うなよぉ、オレの愛車が機嫌悪くなるだろぉ!」
「あはははは! ごめんねぇ」
彩はそう言って、笑いながら車のハンドルをなでた。
ノリのいいやつだなぁ。
「よし、機嫌よくなった! エアコン全開!」
まぁ、実際買ったばっかりだから、機嫌なんて悪くなんないけど。
オレはエンジンをかけて、エアコンを全開にする。
ついでにメガネをかけるために、助手席の前にあるボックスからケースごと取り出す。
ん? なんか良い匂い。
「彩、なんか持ってる? なんか匂いがする」
暑さが引いた車の中は、香水とは違う匂いがする。
彩はオレの言葉に手に持ってた紙袋の中から、変わった形の白い花を付けた鉢を取り出した。
「なんで鉢が入ってるの?」
素朴な疑問を彩にぶつけた。
「美咲から、誕生日プレゼントに貰ったんだぁ。鷺草(さぎそう)っていうんだよ」
と嬉しそうにオレに見せびらかす。
美咲ちゃんはオレの学年の4人いるマネージャーの1人で、彩とは高校からの友達らしい。
「鷺草・・・? 聞いたことない。なんでこれなの?」
花と言えばバラとチューリップと朝顔しかしらない。
さぎそう?じゃなくてもきっと知らないけどなんとなく聞いてみる。
「あたしの誕生日の誕生花なんだよ。花言葉は『芯の強さ』。あたしにピッタリでしょぉ!」
嬉しそうに笑っている。
なんだか、彩といると錬や健志朗とは違う雰囲気がある。なんか和む。(こいつ癒し系か?)
「あっ! 愁哉っていつ誕生日なの?」
「オレは年末の忙しい時期で、12月28日。よく忘れられる・・・」
「あはははは! でもあたしも夏休み真っ只中だから、子供の頃は友達とお祝いしなかったなぁ。みんな旅行とか行ってて」
彩が笑うとなんか安心する。
「で、いつ誕生日なの?」
昨日か明日位だろうと思って、何気なく聞いた。
「今日だよ。8月21日生まれなんだ」
と彩も何気なく答える。
へぇ。今日。
・・・オイ! じゃあ、お前はなぜここにいるんだ?
あぁぁぁぁぁぁぁ! 雄斗さんごめんなさい!
普通の日ならともかく、恋人同士のイベントの日になにをやってるんだぁ!(オレってロマンチストだからさぁ☆)
心の中で、思いっきり叫んだ。
「あは、あはははははは!」
彩が、おなかを抱えて笑い出した。
オレは意味がわからず、彩のほうを見る。
「愁哉って、わかりやすすぎ! クリスマスの時と一緒だよぉ。顔に出てる」
そう言ってさらに笑い続ける。
オレ、単純。
なんか薄々感じてはいたけど、ここまであからさまだったとは。
ちょっとショック。


「おめでとうは?」
やっと笑いが収まった彩は、オレの方を見て催促している。
「おめでとうございます」
オレは深々と頭を下げながら言う。
「どういたしまして」
彩も真似する。
・・・こいつ人で遊んでるな。
じゃなくて、
「なんでお前ここにいんの? 雄斗さんはいいのか?」
オレは勢いで聞いてしまった。
今まで気まずくて、オレから雄斗さんとのこと聞いたことなんてなかったのに。(勢いってすごい!)
「普通聞くかぁ? そんなこと」
と言いながら、オレを睨む。
なにも聞くなって事か。
なんだか、そうなるとすごく気になるけど、聞いてもなんも出来んし止めよう。
「すんません」
子供が学校の先生にするように、大人しく謝ってみた。
「よしよし」
と言いながら、彩先生はオレの頭をなでる。
オレは子供かよ。そう思ったけど嫌な気はしないので黙って撫でられておこう。
むしろ少し快感かも。(変態?)
「今日って忙しい?」
撫でていた手を止めて彩が言う。
「別に、これから帰ろうと思ってただけ」
そう言うと、彩の目が輝きだす。
「じゃあ、飲みに行かない?」
「車・・・なんですけど」
一応申し訳なさそうに、言う。
「あっ、そっかぁ・・・」
そんな残念そうな声出すなよ。
車を置いてもいぃかなぁ。って少し思ってしまった。
けど、そうなるとオレは帰れないし。(駅からのバスがなくなるから・・・)
しかも、男と二人で飲みに行くなよ! オレも一応男だし危険かもだろぉー!! 心でまた叫ぶ。
彩はこっちを見ていなかったので、オレの心は読まれなかったが、残念そうな顔を継続させている。
・・・困った。なんかこんな顔の彩は、クリスマス以来だ。
あの時以上に親しくなっているから、一層放っておけない。
仕方ない、最終手段だ!
「・・・わかった。飲みに行こう! オレはシラフで酔えるから、彩は思う存分飲め! きちんと車で家に送り届けてやるから!」
あぁぁぁぁ、雄斗さん。オレは何もしません。
今日だけは放っておけないので許して下さい。
ってか、雄斗さん! あなたは一体何をしたんですかぁ? イベントの日に・・・。(やっぱりオレってロマンチスト☆)
「飲みに行く意味ないじゃん! ・・・でも、嬉しい!よろしく」
満面の笑みを浮かべる彩。
可愛いじゃん!
ってオイオイ! オレ、今何を思ったんだ。
やばい! 今の顔見られたか!?
心配で彩の方を向く。
さっき出した鉢を、籠に戻していたらしく、気づいてなかった。
あぶないぃぃぃぃ。
でも一瞬そう見えただけだし、ノープロブレムでしょう!
ごめんなさい。雄斗さん!
「じゃあ、彩の家の方でオススメのとこに案内してくれーぃ」
オレは、メガネをかけ、ギアを入れ発進させながら言う。
「了解!!」
彩の誘導で、オレ達は店に向かった。





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