■第4話 ユウガオ〜花言葉は 罪づくり〜 |
近くの駐車場に車を置いて、彩に案内された店は間接照明のオシャレな店だった。 『こころ』とは全然違う・・・ 男同士で、わいわい飲むには向かない店だ。 中に入ると色々な花が飾られていた。 「お二人さまですか? こちらへどうぞ」 お二人、という言葉に少しドキッとしてしまう。 久しぶりに女の子とこういう店に来たから、緊張しているのかもしれない。 「決まりましたらお呼びください」 そう言って店員は席を離れた。 店員の制服もオシャレな感じだ。 周りをチロっと見ると、カップルと女同士の客ばかりだ。 「かわいい店でしょ? あたし花好きだからこの店良く来るんだぁ」 「彩、花好きなんだ。あぁ、だからサギソウなんだ。すごいな、オレ全然花とか知らない」 ・・・? 「良く来る」って、雄斗さんとかなぁ。 なんか少し気まずいなぁ。 「愁哉何飲む? ホントにあたしだけ飲んでいい?」 「全然いいよ。思う存分飲んでくれ!」 「ごめんねぇ。じゃあ遠慮なくいただきます。すいませ〜ん!」 彩は店員を呼んでいる。 オイ! まだオレ決めてないよ。 とりあえず急いでメニューに目をやる。 居酒屋と違ってノンアルコールのカクテルもたくさんある。 店員が来てしまったので、最初に目についたものを頼んだ。 ちょっと奥の方を見ると、小さいガラスケースと棚が並んでいる。 そこに鉢に植えられている花や、でっかい花瓶に花が入っていて値札がついている。 「ここって花も買えんの?」 「うん、きれいでしょぉ? それも楽しみでお母さんと良く来るんだ」 お母さんとか・・・ちょっとホッとした。(罪悪感も少し軽減・・・) この店は彩の家から車で15分位の場所にある、確かに雄斗さんと二人で来るには車がないと辛いだろう。 彩もオレと同じで、家が大学からかなり遠い。 でも、父親が心配するらしく、車通勤は却下になったと前に聞いたことがある。 家がオレの家の通り道だから、何度も送っている。 ついでに、ちょっと遠回りしてドライブもどきしながら帰るとか。その程度だ。 それをあいつら、冷やかしやがって・・・。 彩をオレからは誘ったりはしないようにしてる。 雄斗さんと約束あったら迷惑だろうし。 何より、雄斗さんに罪悪感があったからだ。 都合の良い考えかもしれないけど、彩からの場合の方が罪が軽い気がして・・・。(オレ最悪?) 「おまたせしました」 店員が綺麗な色のカクテルを運んできた。 「何か食べたいものある?」 飲み物が来るまで食べ物についてなんも考えてなかった。(妄想退散!) 「彩の食べたいのでいいよ」 優柔不断なので、聞かれてもとっさに答えられない。 「わかった。じゃあ決めちゃうね」 いつも頼んでいるからか、慣れた感じで注文している。(さすが女子大生! ・・・ってオヤジかオレは。) 質より量の生活のオレは、写真に載っている小さい料理では正直足りない。 家に帰って冷蔵庫漁ろう。 ・・・。そう言えば肝心なことを忘れてた。 「誕生日だよな? おめでとう」 「ありがとう!」 とりあえず二人で乾杯をした。ホントに嬉しそうな笑顔で彩はカクテルを飲んでいる。 良かった、今日彩とここに来れて。そう思えるくらいこっちまで嬉しくなる笑顔だ。 ・・・。 だぁかぁらぁ! オレ!! いいかげんにしろ! 彩の笑顔に戸惑っている場合じゃない。 間接照明だから、いつもよりちょっと可愛く見えるせいだ! そうであってくれぇぇぇ!! ・・・。なんか今日のオレは変だ。(いつも?) いつもは、二人になってもこんなに意識しないのに。 「なんで変な顔してるの?」 ぎくっ! また顔に出てたのかぁ。オレの顔よ! ポーカーフェイスを覚えろよぉぉぉぉぉ! 「そーいう顔なの!」 よし、上手くごまかせた。ふふ。 「何それ、あははははは」 また彩が笑った。 オレはちょっと拗ねたフリをして横を向いた。 「ごめんごめん」 そういいながら、頭を撫でてくる。 やっぱり子ども扱いかよ!って思ったけど、心地いいので黙っていた。 それにしても、誕生日に一緒にいるのになんもプレゼントないのは悪いなぁ。 ここゴチするかぁ。メニューの値段に目をやる。 今日の財布の中身じゃこの店ゴチするのは難しい・・・。断念するしかないな。 花が売っている田なの方に目をやった。これならどうだろう。 「なんか欲しい花ある?」 とりあえず、あの中の花なら高いのじゃなきゃ買えそうだ。 一番高い花じゃなければ、なんとかなるだろう。 オレの頭を撫でている手が止まった。気になって顔を上げてみる。 「あるけど、ない!」 読み取りづらい表情で彩が言う。 「どっちだよ」 「だってプレゼントくれようとしてるんでしょ? 今日付き合ってくれただけで嬉しいのに悪いもん」 ・・・なんだ、強引かと思いきや遠慮してんのかよ。 わけがわからん。可愛いやつめ。 「変なやつ・・・」 「ひどぉーい!」 さすがに可愛いやつだなぁ、っとは言えないっしょ。 今の時間が楽しいから、今日は雄斗さんのことは忘れよう。(都合良すぎか? ・・・良すぎでも忘れよう!) 今度はオレが彩の頭を撫でる。 子供扱いした仕返しだ・・・と思う。 でも、肩に届かないくらいの彩の髪はサラサラで、柔らかそうで、触れてみたくなったのも正直事実だ。 自分の行動がよくわからん。 「子供じゃないんだけどぉ〜!」 と言いながら彩が笑った。 でも、オレの手を振り払ったりはしない。 「いいから、どれ? あっ! 悪いけど高いのは買えないから」 オレは頭をポンポンっと軽く叩きながら言った。 「・・・アーティチョーク」 「え?どれどれ?」 棚とガラスケースの名前の書いたカードを見たけど、そんな花はなさそうだ・・・。 「うそ。ごめん、ここにはないんだぁ」 なんだウソかよ。 真剣に探したけど・・・。読めないやつだなぁ。 「すっごくかわいい花言葉が付いてる花なんだぁ」 「ふぅーん。花言葉全部知ってるの?」 花言葉なんて、オレは全く知らない。(普通知ってるもんなのか?) よっぽど花が好きなんだろうな。 1年以上も同じ部活にいたのに、今日初めてそのことを知った。 「好きな花の花言葉くらいしか、知らないよ。お母さんがガーデニングが趣味で、あたしも好きになったんだ」 「そうなんだ、で花言葉は?」 ちょっとあーてぃちょーく? の花言葉が気になったので聞いてみる。 「内緒です、もったいなくて」 「なんだそりゃ・・・」 教えてもらえないと思うと、知りたくなる。 家に着いたら、ネットで調べてみよう。 席から見ててもよく見えないので、ケースの方に二人で行く。 「玉簾がほしい!」 たますだれ? (どれ?) 「これ、この白い花」 「あぁ、いいよ。すみません、この玉簾一つお願いします」 「かしこまりました」 鉢に入った白い花。 店員がプレゼントだと察したのか、綺麗に包装してくれた。 それを店員から受け取る彩の顔は本当に嬉しそうで、オレもつられて笑ってしまう。 「ありがとう・・・」 「どういたしまして」 どういたしまして、なんて人生で初めて言ったかもしれない。 彩があまりにかしこまって、嬉しそうに笑って言うからオレもついそう答えてしまった。 「・・・」 なんか、恋人どうしのような甘い雰囲気がただよっている。・・・気がする。(オレだけか?) 「じゃあ、テーブルに戻ろうか」 その雰囲気を打破するためにテーブルでまた友達モードに戻ろう。 この空気はよくない!! 「うん。よ〜し今日は飲むぞぉ〜!!」 彩が元気良くそう返事をした。 彩はこの空気を感じているんだろうか。ってかオレだけの勝手な妄想なんだろうか。 ・・・うん。妄想だろう。虚しいから妄想は中断だ! オレも食事にありつこう!! 「あはははははははははははははははははははははは」 酔ってます。この人。 「そろそろ、帰るぞ。明日も朝から練習なんだから」 「はぃ!!彩は帰ります。あははははははははは」 そう言いながら、彩が財布からお金を出す。しかもきっちり割り勘で。 酔っているのに、すごいな。感心してしまう。 車を発進させてからも、彩は笑いが止まらないらしい。 「あはははははははははははは、愁哉オモシロイ!! 吉本はいれるんじゃない?」 入れねぇ〜よ!ってかなんもいってねぇ〜し。 「あははははぁ・・・」 おっ、やっと笑いが止まったらしい。 ・・・・・・。 今度は一転して、しぃぃぃぃんとした空気がながれる。 酔っ払いの行動は理解できん。 健志朗もいつも酔うが、あいつは分かりやすいから理解しやすいけど彩は初だからなぁ。 家までもう10分くらいで着くし、放っておこう。 「・・・ごめんね、今日はありがとう」 急に彩が口を開いた。 なにがごめんね、なんだろう。 ありがとう、はプレゼントか? う〜ん、なんてコメントしたらいいのだろうか。 「・・・・」 言葉が思いつかない。 彩もそれ以上何も言わない。 でも、なんか悪いと思っているみたいだし・・・。 別に悪いことされてないしなぁ。そう思って言葉も思いつかないから彩のマネをして頭を撫でた。 彩は特に何も言わない。けど泣いてるみたいだった。 何も言わない彩に、オレはどうしていいか分からず黙っていた。 それに泣いてる女には弱い。(リアクションの仕方がよくわからんし。) オレがなんかしているなら、今すぐ謝ってなんとかしたいけどそうではなさそうだし・・・。 ・・・困った。 そのまま彩の家に着いてしまった。 どうしよう・・・このまま帰していいのかな? 時間は1時を回っているから、おそらく家族は眠っているだろう。 あぁぁぁぁぁ。どうしたらいいんだろう。こんな時、雄斗さんはどうするんだろう・・・。 ・・・。そうだ、今日誕生日なのに会ってなくてしかもその話題を避けていたってことは、雄斗さんと何かあったんだ。 それを思い出して泣いているんだろう! よし、泣いている理由はわかった。後はどうするかだ! ってそれが分かれば苦労しないんだよなぁ・・・。 こういう時に気が利くことが言えれば、オレの人生もちょっと違うんだろうけど・・・。 あぁ、困った。 「ふっ、あははは」 ん? 彩が急に吹き出して笑い出した。 「愁哉、困ったなぁって顔するんだもん、おっかしくって」 また顔に出てた!? ・・・恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!! 顔が赤くなっていくのが分かった。 あぁ、こんなに見抜かれるなんて彩しかいないと思うんだけどなぁ。 そうじゃなかったら、オレはどうしたらいいんだろうか。 「うそ、適当に言っただけ。・・・でも当たったみたいだね」 なんだよ! 勘かよ! ・・・でも、ちょっと良かった。(結局その後バレたけど・・・) 「ウソ泣きかよ〜! 心配したのに損した」 ウソ泣きじゃないのは分かってたけど、あえてそう言った。 彩が何にも言わないってことは、そう答えた方がいいと思ったからだ。 「ウソつきだもん」 そう言ってまた笑った。 彩に笑ってもらえるなら、顔に出やすいこの性格も悪くない。 「じゃあ、帰るね。また明日ね」 そう言いながらドアを開け出て行く。 マンションの入り口から、こっちを振り返り手を振っている。 オレは手を振り返してから、エンジンをかける。 まだ彩いるかな? そう思ってもう一度入り口の方を見る。 彩がまだそこに立っていた。 目が合うと、彩は笑顔でまた車の方に近づいて来た。 運転席のドアの所まで彩が来た。忘れ物か? そう思って窓を開ける。 「忘れ物?」 オレはそう言って、窓から少し顔を出す。 彩の顔がオレの近づいてきたと思った瞬間、右の頬に柔らかい感触がした。 「今日のお礼、じゃあ、お休みなさい」 今度こそ彩がマンションの入り口から手を振りながら、中に入っていった。 一応手を振り返したものの、オレはその後しばらく思考が停止したまま動けなかった。 |
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Update:08.08.2004
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