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■第5話 キョウチクトウ 〜花言葉は 油断禁物〜





9月になった。
1部リーグの大学選手権大会が始まった。1部リーグにはAブロック、Bブロックに分かれていて1ブロックに7校いる。
ちなみに美並はAブロックだ。
アメフトは見た通りかなりハードなスポーツだし、相手によってフォーメーションなどを研究し対戦するので、他のスポーツと違い1日に何試合も出来るわけじゃない。
オレのいる地区では、大体、天気の都合とかなどよっぽどのことがないかぎり2週間に1試合くらいだ。
だから全部の試合を終了するまでに約2ヶ月かかる。
その後にある決勝リーグを入れる12月まで試合がある。






あの彩の誕生日のキスのことはハッキリ言って毎日思い出している。
しかしオレは別に童貞ではない!!
つまり、キスだって初めてじゃない。
たかがほっぺにキスされた位でドキドキするほど奥手な男でもない。
どうしてここまで彩が気になるのか、オレはあれこれ考えたけど結局一番辿り着きたくない結論に達してしまった。
あぁぁぁぁぁぁぁ・・・雄斗さんごめんなさい!

・・・オレは彩が好きなんだ。
でも、大丈夫です! 彩にとってオレなんかただの男友達だし、雄斗さんがあれだけ浮気しても別れない!(嫌味じゃないっす!)
それってよっぽど思われてるってことですよね。
ってさっきからオレは一体誰と会話してるんだぁぁぁぁぁぁ! (いつからこんな根暗に・・・)



明日は試合だ・・・。
こんな一人会話なんて止めてさっさと寝よう。(これ以上根暗になりたくないし)
そう思ってベッドに横になった。(まだ10時前だけど・・・)
”ピロロロ”
ケータイの着信音。
せっかく寝ようと思ってるのに・・・。
起き上がって画面を見る。
メールだ、誰だろう・・・。
『明日は天気悪いらしいから、ケガするなよぉ! TD期待してるね!おやすみ☆彩』


ガクッ。
せっかく忘れて寝ようと思っているのに、こいつはぁぁぁ。
嬉しいじゃないかよ!
嬉しくて顔がニヤニヤしてしまう。
いかん、この緩んだ顔が直らない。
いつからこんなに純情な男になったんだろう。
彩といると自分の新しい面が見えてきて驚くことばっかりだなぁ。



それにしても、明日の天気予報をさっきリビングのテレビで見た時は70%。
アメフトは雨天決行のスポーツだから、中止にはならない。
けど、アメフトは芝生の上で専用のスパイクを履いて試合を行う。
だから雨のなか何試合もやると芝がぐちゃぐちゃになってしまうから2試合目以降は中止になることもある。
明日美並は1試合目。中止にはならないな・・・。
今のとこと地区大会での『ブラックパンサーズ』の成績は1戦1勝。
点差も59対21で初戦は順調だ。



オレの地区からはAB両ブロック合わせて上位3位までのチームが決勝リーグ(つまり全国大会)に進める。
決勝リーグは2つのブロックに別れていて、そこでリーグ戦を行う。
各ブロックの優勝チームで王座決定戦を行う。

オレ達は去年地区のリーグで3位になり決勝リーグに進んだ。
そして決勝リーグでブロック2位になり3位決定戦で勝利して全国3位になった、というわけだ。
去年の地区では途中から雄斗さんが怪我して、かなり辛そうだった。
気をつけよう。
とにかくゆっくり寝て試合に備えよう。
よし、そうと決めたらさっさと寝よう。





朝、目が覚めると予想に反して眩しい光がカーテンから差し込んでいた。
よし、これでいつも通りに試合が出来る。
オレは荷物を積んで試合会場に車で向かった。





会場の陸上競技場も、太陽の光が差していた。
天気を気にせず試合に望めるな。
今日の試合はパスプレーを中心で行くことになっていた。
雨じゃボールが滑って上手くキャッチできないし。



いつも通りマネージャーの笛の合図でストレッチを始める。
気になって彩の姿を探してしまう。
どうやら、試合の水の用意をしている。
・・・あぁ、ダメだ!試合のことだけ考えよう!!
集中するために頭を大きく振ってみる。
「愁哉、何やってんの? まだ眠たいのか?」
隣でストレッチしている錬がオレの方を向いて話しかけてきた。
「いや、ちょっと雑念を・・・」
オレはボソッとそう返事した。
「何それ?」
錬は笑って目線を前に戻した。


なんとなく雄斗さんの方に目をやった。
いつもは試合の緊張なんか感じさせないような笑顔でストレッチしているけど、今日は違うな。
なんか険しい顔をしている気がする・・・。
雄斗さんは、一応今年の結果待ちとなってはいるけどアメフトの実業団で常に上位にいる「東金ビール」からほぼ内定をもらっている。
もしかすると、そこの監督とかが今日見に来てるのかな?
雄斗さんでもこんな顔するんだ・・・。
それにしても、ホントに才能のある人はこの道で食っていけるんだなぁ。
オレには、まだまだ努力が必要だな・・・。





試合前の最後のパート練習のために、フィールドに向かった。
不公平にならないように、両チームとも芝の感覚をつかむために同じ時間フィールドで練習する時間が与えられている。
芝用のスパイクに履き替えている時、彩と目が合った。
彩はパート練習の水を持ってオレに近づいてきた。
「活躍期待してるね!」
そう言って、彩はオレの肩をポンッと叩く。
「今日はパスキャッチの成功率70%越すよ」
オレは彩の頭にポンッと手を置いた。
たぶん160センチもないであろう彩は、オレの身長からすると小さく感じた。
「楽しみにしてる」
彩は笑顔で手を振ってフィールドへ行ってしまった。







パート練習が終わり、試合前にみんなが集まってミーティングが始まった。
監督は何も言わずにコーチの話に深く頷いている。
オフェンス、ディフェンスともにフォーメーションの確認が始まった。
最後にキャプテンでOL(オフェンスライン)の『棚橋 塁』さんが全員に激を飛ばす。
OLはある意味オフェンスでもっとも重要なポジションだ。
RBが上手く走れるようにディフェンスの壁になり道を作ったり、QBがパスする際に投げるターゲットを見つけるまでの間、ずっと壁として守る。
そんな守護神のようなポジションだ。
だから、普通の人が抱くアメフトのプレイヤーに一番近い体格をしている。
とにかくでかい。
背は190センチに体重は100キロ。
でも瞬発力を持ち合わせなければいけない難しいポジション。



なぜか名前は『塁』。
前飲み会で酔った勢いで聞いたけど、親が大の巨人ファンでプロ野球選手にしたくてつけたらしい。
「見事に期待を裏切った」
と棚橋さんは笑っていたけど、そんなことは全然ない。
棚橋さんも実業団から話がきているくらいのすごい選手だし、毎回試合にお母さんとお姉さんが見に来ていた。
ただ、お姉さんの美しさには、全員が驚いていたけど。




「なんの為に練習してるか思い出せよ! 必ず勝ーつ! ブラックパンサーズ、ファイトォー!!」
「オーッ!」
全員が一指し指を立てながらオーッと声をあげた。
1位になる。という決意の表れで、このポーズは昔からの伝統だ。
毎試合、この瞬間オレは鳥肌がたつくらい興奮する。
今日も必ず勝つ。
1試合、1試合決意を込めてオレは一指し指に『1』を作る。
今年こそ必ず優勝すると思いを込めて、オレはフィールドへ向かった。





”ピーッ!”
審判の笛の音が鳴り響き前半が終了した。
前半は28対0、順調な滑り出した。
ただ、やっぱり雄斗さんがおかしかった。
いつもの動きと違う。


ハーフタイムはオフェンスとディフェンスに分かれてミーティングを行う。
オレはオフェンスチームが集まっているベンチに向かった。
メットとはずした頭に冷たい物が落ちてきた。
空を見上げるといつの間にか厚い雲に太陽がすっぽりと隠れていた。
「天気予報当たったな・・・」
横に来た錬が呟く。
ポツポツと小雨が降ってきた。


「雄斗! お前どっか悪いのか? 後半やれるのか?」
オフェンスコーチも雄斗さんの異変に気づいたらしく、開口一番にそう言った。
「すみません、大丈夫です! やれます」
コーチに小さく頭を下げながら雄斗さんが答えた。
「そうか、ならもっとしっかりやれ! 後半もこんなことやってたら交代するからな!」
「はい」
雄斗さんがこんな風にミーティングで注意されているのは初めて見た。
やっぱり、東金ビールのスカウトの人が来てるのかな?
よし、絶対にパスキャッチして雄斗さんの内定の足を引っ張らないようにしないとな。





ミーティングが終わり後半が始まる。
コイントスをするために棚橋さんがフィールドへ向かった。
結果をフィールドの横に並んで見る。
後半はディフェンスからだ。
オレはひとまず出番がないのでベンチへ水を飲みに行った。
彩が今日はベンチで水の用意をしていた。
「雨降ってるけど大丈夫?」
彩がそう言いながら水の入っているボトルをくれた。
「雄斗さんが良いパスくれるから大丈夫」
ホントは今日の雄斗さんのパスはいつものキレがないけど、そう答えた。





雨が酷くなってきたな・・・。
相手チームのパス攻撃は通らなくなってきている。
おし、ナイディーだ!(ナイスディフェンス、ってこと。青春でしょう!)
次からオフェンスだ、この攻撃で絶対タッチダウンとってやる!
「おっしゃ、行くぞ!」
錬がオレの肩をポンっと叩いた。
「おっしゃー!!」
錬と並んでダッシュでフィールドへ向かった。




後半が始まりハドルがかかった。
雄斗さんのコールはパス。
そのコールはオレと雄斗さんとのパスで1番成功率の高いやつ。
よし、絶対キャッチして後半1本目のタッチダウンにつなげてやる。


オレは真っ直ぐにそのコースに向かって走る。
相手チームも研究しているから、ピッタリとついてくる。
このDB(ディフェンスバック)中々走るの速いな・・・。


オレはボールを確認するのに一瞬振り返る。
あれ?ボールが予定と少し違う位置に飛んでる。
オイ! その位置のすぐ横にDBが立ってる!
ヤバイ! インターされる!?
いやなんとか取れる! 絶対オレがキャッチする!
オレはボールに向かって走った。
急にコース変更のような形になったからか雨のせいか後ろのDBは失速している。
「うわっ!」
後ろからオレについてきていたDBの声がした。
”ズルッ”
おわ!
右足が雨に濡れた芝で滑った。
体が一瞬傾いた。
でも、なんとか立て直せる! 飛べばボールをキャッチ出来る。
オレはボールに向かってジャンプした。
その瞬間
”ドン!”
後ろからいきなり誰かが乗っかってきた。
オレは大きく姿勢をくずした。
”バキッ!”
とっさについた右手が鈍い音をたてた。
右手首が変な方向を向いている。体に電気が走りぬけたような痺れが走る。
痛くて体が起こせない・・・。
ボール・・・ボールは?
顔を上げてボールの行方を捜した。
・・・。
オレの斜め右の位置に転がっていた。
良かった、インターセプトされてなかった・・・。

横を見るとボールの落下地点のすぐ近くにいたDBが転がっていた。
こいつがオレを押したのかよ・・・。
いてーんだよ!!


試合の邪魔になる、起きてとりあえずフィールドからでないと。
体を起こすとまたすごい痛みが走る。
今度は寒気がしてきた。
「大丈夫っすか!?」
フィールドから出ると健志朗の声が聞こえてきた。
手がかなり腫れている。
「大丈夫だ、気にしないで試合見てろ」
オレは痛いのを我慢して笑顔を作った。
「中澤くん大丈夫か?」
フィールドを出たオレの所にチームのトレーナーの川上さんが走ってきた上着を掛けてくれた。
「かなり腫れてきました、でも大丈夫っす」
オレはそう言いながら怪我をした手を川上さんに見せる。
「これは折れてるな・・・。病院に行こう、マネージャーさん! 中澤くんを病院に連れて行ってくれ」
折れてる?
オレが?
一瞬何も考えられなくなった。
「大丈夫です! まだやれます!」
雄斗さんと出来る試合は限られてるんだ、折れててたまるか!
川上さんは静かに首を振った。
「この手首じゃ無理だ・・・。病院に行くんだ!」
イヤだ・・・。
オレはまだやれる・・・。
まだ試合に出れる! パスをキャッチできる!


ムリだとわかっていてもそう思っていた、思いたかった。
手の痺れと寒気は治まらないし、痛みも引かない・・・。


手にはいつの間にか氷のアイシングがされていた。
笛の音でフィールドを見ると試合が再開されている。
オレに乗っかってきたDBが反則をとられたらしくブラックパンサーズが攻撃をしていた。


オレじゃないWRがフィールドで雄斗さんのパスをキャッチしていた・・・。





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Update:08.16.2004

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