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■第6話 ガーベラ 〜花言葉は 希望〜





「骨折していますね、全治6週間です」
簡単に言うなよ・・・。
6週間? 一ヶ月以上もかかんのかよ。
「今、アメフトのシーズン中なんです。なんとかならないですか?」
オレは一応冷静に医者に聞いた。
なんとかならないと困るんだ!
このシーズンは雄斗さんとできる最後のゲームなんだ・・・。
一ヶ月も試合に出れない。その間に2試合もあるんだぞ!
「無理ですね、当分は体を動かす運動も避けて下さい。下半身の運動だけでも響いて骨折の治りが遅くなりますから」
・・・・。
「固定をはずさないようにして下さいね。あと今日は日曜日できちんとした検査ができないので、明日また来てください」
きちんとした検査しなくてなんで骨折だってわかんだよ。
なんで・・・!
「いつからトレーニングできますか? せめて下半身のウエイトだけはやりたいんです!」
じゃないと、筋肉が落ちてて怪我が完治しても試合に参加できない。
「明日検査してみないとなんとも言えませんが、おそらく少なくても2週間は無理ですね」
「2週間!? 固定のギブスをしててもですか?」
なんのためのギブスだよ。
「どうしても動くとギブスがずれてしまいますし、そうなると完治も遅くなりますから・・・」
「・・・・・・」
言葉が出ない。じゃあオレはその間何をしていたらいいんだ?
練習が出来ない以上体力も落ちるし筋肉もなくなる。
その間に控えだった奴に、今までのオレの場所をとられてしまうじゃないか・・・。
オレは今年、雄斗さんとの最後の大会で優勝するためにここまで練習を積んできたのに!!


・・・・・・。
手首がいてぇ。
確かに歩くだけでも響く。
手首に心臓があるみたいに、”ドクン、ドクン”と響きそれがまた痛む。
自分の手首じゃないみたいだ・・・。

つい2時間前までは絶好調の中試合をしていたのに・・・。
一瞬の油断と過信がこの結果をもたらしたのか?
オレは一体あの時、何をやってしまったんだ?
あまりの悔しさに涙がでてきた。
「どうだった?」
病院に付き添ってくれた3年生のマネージャーの遥さんが待合室に戻ったオレに声をかけてきた。
オレは涙を見られないように手で拭った。
「折れてました。全治6週間らしいっす。明日きちんと検査するからまた来いって言われました」


折れているんだ、オレの手首は・・・。
自分で声に出して言ってやっと実感が湧いてきた。
全治6週間・・・。
大事なシーズンに怪我をして、雄斗さんのボールをキャッチすることも出来ない。
試合に参加できない・・・。
なんであんな体勢で転んだんだ! 雨で芝が濡れていたんだ、もう少し用心することも出来たのに!!
自分自身に腹が立って苦しい。
あの瞬間に戻れたら。
なんて絶対に叶わないことを願ってしまう、どうしようもない自分。
そんな自分にさらに腹が立ってしまう。
怪我してなかったら物にあたっていたかもしれない。
自分に対するイライラが治まらない。
痛みでさらにイライラする。
どうしたらいいのかわからない・・・。




”フワッ”っと突然頭に柔らかい感触があった。
横を見ると遥さんがオレの頭を優しく撫でてくれていた。
あまりに優しい感触に、一気に緊張が緩んで涙が噴出してきた。
悔しい! 悔しい!
自分の未熟さを痛感する。
あの時、別にキャッチできなくても良かった。
弾いてあのボールをとられないようにするだけでも、あの場合十分だったはずだ。
なのにオレは!!
オレ以外にもWR(ワイドレシーバー)はいる。
怪我して練習が遅れる間に、オレのいた場所は誰かのものになる。
他の奴らだって遊んでいるわけじゃない。みんな必死にスタメン目指してやってんだ。
オレが怪我で何もできないでいる間に、みんなオレを追い越して行くんだ・・・。



・・・。
オレは・・・雄斗さんと一緒に試合がしたくてここまで頑張ってきたのに。
雄斗さんのボールをキャッチしたくて今まで続けてきたのに!
これじゃあオレはなんの為にアメフトやってきたのかわからない・・・。
オレの努力は実らないまま・・・終わったんだ。


涙が溢れてきた。
遥さんがいるのに、もう我慢することすら出来ない。
ボタボタとオレの目からこぼれる涙を見て、情けなくて悔しくて苦しい。
本当なら今ごろ競技場で勝利に沸いていたはずなのに・・・。


「愁哉くん、完治した後まだ大事な試合はたくさん残ってるよ。・・・だから、6週間頑張って!」
ずっと横で頭を撫でてくれていた遥さんが突然そう言った。
その声に涙が止まった。
完治してもすぐに勘が取り戻せるわけじゃないし、ウエイトもいつから再開できるかわかんない。
けど、それをマネージャーを3年もやっている遥さんが知らないはずがない。
・・・・・。
わかってて、やれる頑張れるって言ってくれているんだ。
まだ終わりじゃないって言ってくれてるんだ。
「愁哉くんの力は必要だよ。しっかり治してまたタッチダウン見せてね」
遥さんは優しくそう一言つぶやいた。
「は・・・い。ありがとう・・・ございます」
嬉しくてまた涙が出てきた。
怪我したからすべてが終わるわけじゃない。
悲観的になってた自分が今度は恥ずかしくなった。
この6週間どう過ごすか、それがこれからの試合につながって行くんだ・・・。
これからだ、オレはまだやれる!
5年間頑張ってきたんだ、たった6週間いくらでも頑張れる。
雄斗さんの為にアメフトをやってるんじゃない。
オレの為、『ブラックパンサーズ』の選手、マネージャーの為だ。
スッカリ忘れていた。
オレはアメフトがやりたくて美並に来たんだ。
「ありがとうございます!」
オレは泣きながら遥さんにお礼を言った。
遥さんは微笑んだ。
それから、オレの頭をポンっと叩いて
「期待してるよ! さっ、薬もらって学校行こうか。もう試合終わってる頃だから! ミーティング始まっちゃうよ〜」
って笑顔で言った。



マネージャーってすごいな。
遥さんはそんなに普段親しい人ではない。
でも、そんなオレのことも理解してくれてる。
・・・・頑張ろう。
かならず完治させて、今年優勝するんだ!
来年、再来年も必ず!!
もうウジウジしていられない。
やれることを、今やろう!


着いてきてくれたのが遥さんで良かった。





「愁哉! どうだった?」
大学に戻ってすぐに錬に会った。
オレのギブスと包帯に包まれた右手首に心配そうな顔をしている。
「骨折。悪い、大事な時に・・・。今日の試合どうだった?」
錬はオレの声に安心したのか笑顔を見せた。
「そうか、早く治して復帰してくれよ! 試合は63対0だ」
負けることはないと思ったけど、圧勝していて安心した。
前半折り返した時より、調子があがったみたいだな。
「でも、雄斗さんの調子が悪くて結局愁哉が病院に行ってすぐ健志朗と交代したんだ」
やっぱり・・・。
なんか今日はずっとおかしかったけど、交代したのか。
「二人ともミーティング大丈夫?」
二人で考え込んでいるのを遥さんの声が阻んだ。
!?
オレと錬は顔を見合わせた。
「錬! 何時から?」
時計は3時を指している。
「3時からだ!! やばい! あっ、愁哉は焦るなよ。じゃあ、先行くから! 遥さん失礼します!」
錬はダッシュで去ってしまった。
オレはさすがにダッシュは出来ないので、歩く。
「じゃあ、あたしも片付けあるから先にいくね。くれぐれも安静にね!」
遥さんはそう言って走り出した。
「あっ! 遥さん!!」
オレは走り出した遥さんを呼び止めた。
遥さんは走りながら振り返った。
「何?」
「ありがとうございました!! 頑張ります!」
オレは左手で『1』を作ってそう言った。
「優勝しようね!!」
遥さんも一指し指で『1』を作り笑いながら返事した。


頑張ります! 
今年こそ、必ず優勝するんだ。
オレとチームのみんなのために!!
オレは硬くそう決めた。





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Update:08.21.2004

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