<ホーム <小説 <目次

 




■第7話 イワレンゲ 〜花言葉は あなたの位置は決まっている〜





美並ではQB(クオーターバック)WR(ワイドレシーバー)は一緒にミーティングを行う。
反省点なども合同の方が見えてくることも多いし、次回に向けて対策も練れるからだ。
怪我したことが申し訳なくて雄斗さんに会うのが少し気まずかった。
けど、ミーティングに参加してみて雄斗さんの様子がやっぱりおかしかったからそんな気持ちはすぐになくなってしまった。
オレが高校から見てきた雄斗さんは、得点差がついた時と雄斗さんがでるまでもない試合以外で交代させられることなんかなかった。
その雄斗さんが交代させられた。
ビデオを見ながらのミーティングだったけど、あの状況で健志朗に代わるなんて今までなら考えられない。
一体何があったんだろう。4年生の先輩達も何度か雄斗さんに聞いていたが返事は「悪い」だけだった。
うつむいて謝る雄斗さんの姿も5年間で初めて見た。
たぶん他の人も・・・。
だからそれ以上誰も何も聞けなくなっていた。





「中澤! ちょっといいか?」
ミーティングが終わって帰ろうとしたオレを雄斗さんが呼び止めた。
「はい、大丈夫っす! どうかしましたか?」
雄斗さんの様子がやっぱりおかしい・・・。
「今日この後予定あるか? もしなかったら家来ないか?」
・・・?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「えっ!! いぃんすか?」
あまりの発言に雄斗さんの様子がおかしいことを一瞬スッカリ忘れてしまった。
「プッ! なんでお前声裏返ってんだよ。じゃあ、オレ今荷物持ってくるからちょっとここで待っててくれ」
「はっ、はい!!」
すっげー!! 雄斗さん家かぁ。どうしよう、かなり緊張する!!
でもなんで呼ばれたんだろう・・・。
あっ! オレの怪我のことか? それとも今日様子がおかしかったことかな?
でも、そんなこと話してもらえる身分でもないしな・・・。
なんだろう・・・。ますます緊張してきた!!






雄斗さんの家だ〜〜!!
アメフトのMVPの時のトロフィーとかが飾ってある。
けど、なんていうかセンスいいよな。
シンプルだけど、オシャレな感じで・・・。
しかもなんか良い匂いがする。
オレは部屋をジロジロ見渡してしまった。
「ビールでいいか?」
「へっ? あっ、すいません。ありがとうございます」
ホントは薬飲まないとダメだし、車運転あるけど・・・。
薬は明日からにしよう・・・。
車は・・・今日は錬の家に泊まろう。
なんか雄斗さん深刻な顔してるし、シラフで付き合えそうもない。
それに嬉しいし!
初めてだ、二人だけで飲むなんて。


「悪かったな・・・」
缶に入ったままのビールをオレに渡しながら、そうつぶやいた。
「え? なんっすか? オレの方こそシーズン中に怪我して迷惑かけてすみません!」
なぜか、雄斗さんに謝られてオレはかなり困った。
知らないうちになんか嫌なことされてたのか? 雄斗さんにされて嫌なことなんて想像できないけど・・・。(マニアかオレは・・・。ヤバイかなぁ。)
「折れてたのか? ・・・オレのせいだな」
え? 雄斗さんのせい?
なんだか、言ってる意味がよくわかんないな。
もう酔ってるのか?
「違いますよ! オレの不注意です。謝らないで下さい! オレ頑張るんでまた一緒に試合したいっす!」
なんだか雄斗さんが変だ。
いつもの余裕があって優しい雄斗さんとは明らかに違う。
「今日オレ変だったろ? 試合に全然集中してなかった」
否定してあげたいけど、それはあまりにもウソくさいから出来ない。
こんなにナーバスな雄斗さんは初めて見る。
何かあったのかもしれない。
聞きたいけど、聞けない。オレなんかが聞いていい話かもわかんないし。
「・・・彩に別れたいって言われたんだ。昨日」
雄斗さんはそう言うと、前にあったビールを一気に飲み干した。
それから、下を向いて黙ってしまった。
目の前が真っ暗になってしまった気がする。
こんな風になっている雄斗さんにどう声をかけていいのかわからない。
それに彩が別れたい?
原因はなんだ? オレのせいか? なんて自惚れだな。(アホかオレは・・・)
正直仕方ない気もする。
浮気を繰り返していた雄斗さんがおそらく原因だろうし。
でも、こんな風にあんな試合をしてしまう位まいっている。
そんなに彩を思っていたんだ。
・・・・・・?
だったらなんで浮気なんてするんだ?
やっぱりなんて言ったらいいのかわからない。
変な言い方だけど、こんなに人間らしい雄斗さんは5年目にして初めて見た。
いつも完璧で隙もない感じでホントなんか超人的なイメージだった・・・。


「そんなプライベートなことであんな試合やるなんて最低だな」
雄斗さんは苦笑ながらそう言った。
「中澤に怪我させたのもオレだ。ホントに悪い」
冷蔵庫にビールを取りに行きながらまたオレに謝ってきた。
ホントにあれは雄斗さんのせいじゃないのに・・・。
雨でボールが滑ることだってあるし、濡れてる芝のことを気にしないでやったオレが悪いのに・・・。
「ホントに謝らないで下さい。オレの責任ですから・・・」
オレは本心からそう言った。
雄斗さんは少し顔をあげてまたビールの缶を開けた。


「中澤・・・彩のことどう思ってる?」
・・・・・・・!!
一瞬言われたことを理解するのに時間がかかった。
体が固まってしまった。
ヤバイ! ばれてた!?
一気に忘れかけてた後ろめたさが甦ってくる。
「最近、よく会ってるみたいだから・・・」
”バクン、バクン”
心臓が一気に早くなる。
どうしよう、なんて言ったらいいんだろう。
正直に答えるべきか?
いや、それはまずいだろう。雄斗さんに嫌われてしまうかもしれない。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! どうしたらいいんだよ!!
チラリと雄斗さんの顔を見る。
顔は下を向いているけどすごく真剣な顔をしている。
本気で彩が好きなんだ。
・・・・・これはウソをついたら駄目だ。
真実を知りたい顔をしてる。
ウソだってつける。
けど、ここでウソをつく事はオレには出来ない。


「オレ・・・」
彩のこと・・・。
「好きです」
オレは顔を上げられなかった。
後ろめたい、けどウソはつけない。
不器用だな、オレは。
ウソをついてやり過ごせばこんなに気まずい思いをしなくてすんだのに・・・。
でも、それじゃあオレのしてきたことは無責任なことになってしまう。
オレは彩のこと好きなんだ。今一番・・・。
けど・・・。
「でも、オレはどうにかしたいって思ってないっす。すみません、でもホントにそう思ってます」
雄斗さんはオレの話を聞いてどう思ってるんだろうか。
怖くて顔が上げられない。
けど、後悔はしていない。
ウソをつかなかったんだ。
ビールを一気に喉に流し込んだ。
雄斗さんがオレの顔をじっと見ていた。
雄斗さんの顔は怒っている感じではなかった。
その顔を見て後ろめたさがなくなった。
ビールを飲んだおかげかな。
オレは雄斗さんの目を真っ直ぐに見た。
「そうか・・・。オレは彩が大切だ。彩が側にいないとダメなんだ・・・」
雄斗さんは苦笑しながらそう言った。
本心だ、ホンキで彩が好きなんだ。
・・・・・・・・。
彩と付き合いたいと思ってるわけじゃない。
雄斗さんを不安にさせたいわけじゃない。
だったら答えは一つだ。
もう、彩と今までみたいに会っちゃいけない。
オレが彩への気持ちを諦めるまでは会ってはいけないんだ。


でも、彩は雄斗さんの行動で不安になっていたんだ。
だからなんかあるとオレに連絡してきていた。
「雄斗さん、一つお願いがあります。勝手な言い分かもしれないけど・・・」
彩がオレに連絡してくる理由がなくなれば二人で会うこともなくなる。
オレは本当にそれでいいのか?
オレは諦められるのか?
・・・・・・。
今決めたんだから諦めないとダメなんだ。
今まで十分雄斗さんを裏切った。
「彩を不安にさせないでやって下さい。オレに連絡してくる時ってそんな時ですから」
オレは苦笑しながら言った。
そしてまたビールを流し込んだ。
「わかった・・・」
雄斗さんもそう言った後、ビールを流し込んだ。
オレも持っていたビールを飲み干した。




「ごちそうさまでした。明日からもまたよろしくお願いします」
オレはそう言ってテーブルの上に空になったビールの缶を置いて立ち上がって玄関に向かった。
「中澤! ・・・・・・早く怪我治せよ。これから大事な試合がたくさんあるからな。お前がいないと困るんだから」
雄斗さんは玄関まで来てそう言ってくれた。
「はい!! 頑張ります。失礼します」
そう言ってオレは雄斗さん家を出た。


緊張が緩んだからか・・・。
なんだか目から涙がこぼれてきた。


オレ彩のこと本気で好きだ。
諦めると決めてもやっぱり好きだ。
好きだ。好きだ。
・・・・・でも、もうダメだ。
オレは雄斗さんを尊敬し憧れて今までアメフトを続けてきた。
そして、彩の友達だ・・・。
これ以上その位置を越したことをしてはいけない。
オレの位置は決まっているんだから・・・・・。





<<前 次>>

 

 

<ホーム <小説 <目次

Update:08.21.2004

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送