■第8話 ほおずき 〜花言葉は いつわり〜 |
オレの怪我から4週間が経ち10月になった。 早く治したくて先週まで禁酒していた。 その甲斐があって怪我も順調に回復し、ウエイトも下半身と左手はできるようになった。 しかもあと1週間でギブスをはずして普通に練習できると医者から太鼓判を押された。 「合コン!?」 3講が空きなので昼休みの終わりの時間を見計らって昼食を食べに来たオレと錬は、食堂の入り口で健志朗から突然合コンの申し出があった。 それに呆れたのが錬。 だってシーズン中だ・・・。 次の対戦相手去年の優勝チームだし。 「どうっすか? 今日の7時からなんすけど」 「今日!?」 あまりのことに錬が驚く。 健志朗のお願いはいつも急だ。 「健志朗・・・今シーズン中だぞ、しかも7時じゃウエイトやったら間に合わないだろ」 少しため息をつきながら錬が言う。 「大丈夫っす! あっちが大学の方に来てくれますから。それに次の試合1ヶ月後ですよ! しかも昨日試合だから今日練習は休みじゃないっすか」 有無を言わせない感じだ。(こいつはホントに1年生か?) 確かに・・・。 オレが怪我で休んでいたこの4週間に3試合目、4試合目ともに順調に勝っている。 特に昨日の日曜日にやった試合は66対7と快勝だった。 次の試合は約1ヵ月後。(正確には4週間だけど・・・) 美並のアメフト部は試合の次の日は部活が休みなる。 試合の次の日は体が痛くて集中力も落ちるので、怪我しやすくなるってのが理由らしい。 「そうだけど・・・」 錬は困った顔をしてオレの方を見た。 オレにふるなよ。 「だめっすか? 愁哉さん」 健志朗と一緒に食堂に来ていた1年生の矢沢がすがるような顔でオレを見てきた。 「何? 矢沢の知り合いなの? 今日の合コンの相手」 「そうなんすよ〜! 高校の同級生で前から頼まれててOKしたんすけど、試合でスッカリ忘れてて・・・」 そっか、矢沢は大学から美並に入ったんだった。 監督が高校で活躍してた矢沢をスカウトして来たんだっけ。 まぁ、その価値は十分にある奴だよな。 ポジションはDB(ディフェンスバック)のCB(コーナーバック)。 WR(ワイドレシーバー)のオレのトイメン(ディフェンスでオレの正面にいる人)。 1年だけどすでにスタメン。 敵じゃなくて良かったと思えるすごい奴だ。(でも素顔はこんな感じ・・・) 「オレと錬が行けば人数足りるのか?」 あまりにもすがるような顔なので可哀想になってきた。 「おい、愁哉」 錬はおもいっきりイヤだって顔をしている。 「向こう5人なので、さっき食堂で泰広さんにも頼んだんですよ! だから二人が来てくれれば完璧っす!」 やっちゃんも捕まったのか・・・。かわいそうに・・・。 「試合とスカウティングと練習ばっかりで気分転換できないじゃないっすかぁ。たまには息抜きも必要っすよ!」 相変わらず健志朗のやつ調子がいいな。 ・・・・・・・。 でも、気分転換か。いいかもしれない。 あれから、彩から1度メールが来たけど返さなかった。 怪我を心配してくれた内容だったから返した方が良かったのかもしれないけど、気持ちの整理ができるまではと思っていたら4週間もたってしまった。 部活でも目を合わさないように避けていた。 怪我をして練習中ビデオ撮りとかしていたから、特に顔を合わさなくて良かった。 正直合コンの経験はほとんどないし、あまり好きでもない。 ってか知らない人と初対面でどんな話題で話したらいいかわからない。(オレだけ?) だけど、それがきっかけで彩を忘れられるならいいかもしれない。 この4週間、彩のことを考えない日はなかった。 ダメだと思うほど忘れられない。 だけど、これじゃダメだ・・・。 「いいよ。オレは」 どうせ明日の講義は午後からだし、4講で終わりだからウエイトの時間もあるし。 そろそろ酒も解禁していいよな。 彩のことを忘れられるような女の子に出会えるかもしれない。 「じゃあ、錬さんもいいっすよね」 オイ健志朗、錬は行くとは言ってないだろ。・・・仕方ない。 「いや、錬は・・・」 「行くよ、オレも」 !? 錬!!! どうした、いつからそんなに積極的な男になったんだ!! こいつもかなり女性不信なうえに人見知りだから合コンは苦手だ。 だから大学に入ってから先輩に頼まれて(脅されて?)1回行ったきりだったはずだ。 「じゃあ、6時半に校門の前で!」 健志朗と矢沢は笑顔で授業に向かっていった。 こいつらも高校からアメフト漬けで中々大学生らしいことも出来ないだろうから今日くらい楽しい時間があってもいいだろう。(オレもしてないけど・・・) ・・・・・矢沢も彼女いなかったのか。 『ブラックパンサーズ』は募集中の人間ばっかりだな・・・。 「愁哉、彩ちゃんと何かあった?」 食事を始めて開口一番に錬がそう言ってきた。 オイオイ、どうしてそんなことわかるんだ。 普通にしていたつもりだったのに・・・。 とりあえずなんて返事しよう。 う〜んと、あぁぁぁぁぁぁぁぁいい答えが浮かばない!! 「やっぱり」 何も言ってないのになんでやっぱりなんだ? しかもどうしてそんなに鋭いんだ!? エスパー錬・・・。侮れないな。 「彩ちゃんのこと好きなんだ?」 ・・・・・・・・・・・。 今までオレのお気に入りのチーズささみ定食を美味しくいただいていたのに、全く味がしなくなった。 「な・・・なんで?」 やっと口から出た言葉はなんとも情けないな。 「見てたらわかる・・・」 すげぇぇぇぇぇ!! ってか彩にもすぐバレるしオレってやっぱり単純? 「なんで彩ちゃんのこと避けてんの?」 ・・・・・・・・・・・・。 それもバレてたか。 「それは、言えない・・・。けど彩のことは好きだ」 ここまで見透かされているから、その部分はウソついても無駄だろう。 けど彩のこと好きだ、なんてまだ過去形にすることが出来ていない。 ダメだな、情けない。 「そっか、ごめん・・・。変なこと聞いた」 錬が苦笑ながら謝った。 別に錬は悪くない、オレの気持ちの整理がつかないのがダメなんだ。 人の彼女を好きになって、こっそり二人で会うなんて最低だ。 「全然、錬は悪くねーよ。オレが情けないだけ」 今度はオレが苦笑してしまった。 普通に笑って言えないのがまた情けない。 「今日は楽しく過ごせるといいな」 錬が笑ってそう言った。 そうか、オレが変な顔して心配かけたから嫌いな合コンについて来るって言ったのか。 こいつ本当にいい男だな。 顔も良くて性格も良くてスタイルもいい、なんて理想の男だ。 オレが女なら間違えなく惚れるな。 あっ、なるほどだから錬はもてるのか。(気づくの遅すぎ!?) 「錬、彼女できるといいな」 「ぶっ!」 錬は食べていた牛丼定食を口から出しそうになった。 よほど動揺しているな・・・。ちょっと意地悪しすぎたか。 でも本心で錬には幸せになってほしいな。 行きたくない合コンをオレのために来てくれるなんてホント最高の親友だ。 ・・・・・ありがとう。 「じゃあ、自己紹介からぁ!!」 矢沢がしきって合コンが始まった。 うわ〜、やっぱりこの雰囲気苦手だ。 ってかどうやってこのテンションに上げれるんだ? ・・・・・・・・・・・・・・・・。 え? なんだって? 女の子から自己紹介しているけど全然聞こえない。 店の音楽うるさすぎだろー!! 「オレは矢沢優介です! ゆうちゃんって呼んでくれていいんで。今日の主催者、椎名の高校の同級生で〜す! 今日はみんなで楽しい時間を過ごせたらなって思ってきました。よろしく〜!」 す、すごい! 慣れている。 なんでこんなテンションに一滴も飲んでないのになれるんだろう。(コツがあったら教えてくれ!!) 「え〜福嶋泰広です。・・・・・よろしくお願いします」 やっちゃんエライ!! よく頑張った!! こっちを見て苦笑いしている。 やっちゃんも大学から美並に入った選手で、高校時代は北海道でラグビーをしていたらしい。 弱いチームだったらしいけど、やっちゃんのタックルはかなりうまいし走るのも速い。(オレには劣るけど!!) やっちゃんも合コンってキャラじゃないもんなぁ。 矢沢と同じDBのFS(フリーセーフティー)がポジション。 まだ、スタメンにはなっていないけど1番手の控えとして試合にはよくでている。 アメフト始めてたった1年半で経験者を抜いて1番手の控えなんだから相当すごい。 ん? 悲鳴が聞こえる・・・・。あぁ、錬の自己紹介が始まったからか。 おぉ、すごい気まずそうな顔をしている。 「鈴生健志朗で〜す!! 今日は可愛い子が多いのでかなり楽しく過ごせそうで嬉しいっす!」 健志朗、ホントに嬉しそうだな。 やばい!! オレの番か。 「中澤愁哉です。えっと今日は楽しい時間を過ごしたくて来ました。普段アメフトばっかりで可愛い子に会える機会が少ないので今日は嬉しいです。よろしくお願いします」 全員の言っていたことに少しアレンジして自己紹介してしまった。 でも、特に問題なさそうだ。安心安心。 いつの間にか席が変わっている。 オレの横に座っていた錬はいつの間にか角に追い詰められて女に迫られている。 錬・・・成仏しろよ。 かなり苦笑いが続いているな。 「愁哉くん、アメフトやってるんだ」 !! いつの間にかオレの隣に女が座っている。(瞬間移動でもしたのか?) 「あ、うん。今日の男は全員やってるよ」 オレは一応笑顔で答えた。 つうかこの子の名前がわからんから、話しずらいなぁ。 全然聞こえなかったもんな。 「そうなんだ! あたしアメフト好きなんだ! 今度応援に行ってもいいかな?」 めずらしい女の子だな。 あんまりアメフト好きな女の子いないと思ってたけど、いるもんなんだな。 「あ、でもオレ今怪我してるから試合出れるかわかんないんだ」 つうか、絶対でるけど!! 一応謙遜してみた。(監督ぅ〜! 出してください!!) 「ギブスしてるもんね。骨折したの? 練習頑張ってるのに辛いね・・・」 いい子だなぁ。 ホントに心配している顔だ。 「何かスポーツやってたの?」 辛さがわかった風だったから何かやってたのかな? 「あたし? ソフトボールやってたんだ。高校まで」 今度は笑顔でそう返事した。 「そうなんだ、だから辛さ分かるんだ」 オレも笑顔で言う。 なんかつられてしまう。 表情がコロコロ変わるんだな。 彩に少し似てる。 サラサラの肩より少し長い髪の毛とか、目が大きくてパッチリしてるとことか・・・。 ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! こんなとこで彩のこと考えてたら何しに来たかわからんだろ〜!! これ以上彩のこと考えるの禁止!! 「アヤ! そこのお皿とって」 !!!!!!!!!!!!!! 「了解! はつみ、江実に渡して」 彩? マジで? 彩? かもしれないこの子は錬の横にいた女の子にやっちゃんの横にいる子を経由して皿を渡した。(やっちゃん中々やるね! 何か楽しそうだし。) 「アヤちゃんっていうんだ」 オレは思わずそう言ってしまった。 「さっき自己紹介聞いてなかったんだ〜」 ちょっと拗ねたような顔でアヤちゃん? はそう言った。 「ごめん! ここスピーカー近くて声聞こえなくて」 オレは手を合わせて素直に謝った。(大げさ? ちょっと酔って来たかな?) 「あははははははは、そんなに謝らなくていいのに。確かにここ、音大きいね」 アヤちゃん? は笑顔で許してくれた。 笑った顔も少し彩に似ている。 「じゃあ、もう1回自己紹介するね。あたしの名前は高野文子、19歳です」 オレの合わせた手を握って自己紹介をしてくれた。 「あっ!! ごめん、なんかつい」 慌てた感じで手を離す。 「いいよ、別に謝ることされてないよ」 なんかおもしろい子だな。 「アヤは文章の文に子供の子で文子なんだ。なんか女らしい子に育って欲しくて付けてくれたみたいなんだけど、なんか名前負けだよね。全然落ち着きなくて・・・」 頭に手をやって恥ずかしそうにそう言う顔は可愛かった。 「いいじゃない? 素直で。オレはいいと思うよ」 やっぱり彩に似ている・・・。 結局オレは彩を諦めることなんかできないんじゃないのか? 全然違う文ちゃんに彩を重ねるなんてアホか、オレは。 「愁哉くんは、彼女いるの?」 文ちゃんがオレを覗き込みながら質問してきた。 「いないよ、いないから来たんだ」 いや、いても行く人は行くんだろうけどオレは無理だな・・・。 この質問、合コンっぽいなぁ。 「そうなんだぁ、良かった」 ? なにが良かったんだろう。 「じゃあ、好きな人は?」 「え? ・・・」 好きな人・・・。 いる、けど彩を好きじゃいけないんだ。 あ〜!! 彩のこと考えるのやめるって決めたじゃないか!! なんつう意志の弱い男だ、オレは!! 「いないよ、出会いなくて」 いない、忘れるんだ。 これからはいない・・・これは偽りなんかじゃない、偽りじゃなくするんだ。 「そうなんだ」 文ちゃんはそっと微笑んだ。 おかしかったかな? う〜ん、合コンのルールがいまいちわかんないから、変なことでもいったのか? とりあえず飲んで過ごそう。 酔えばこの雰囲気になれるかもしれないし。 「今日はたくさん飲もう!!」 オレはやけくそで文ちゃんの頭をクシャっと撫でながら言った。 「うん!」 お〜、いい笑顔だな。 こんないい子なら彼氏くらいいそうだけど・・・。 まっ、いいか。 酒飲んで今日を楽しく過ごそう!! |
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Update:08.28.2004
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