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■第9話 オトメユリ 〜花言葉は 私の心の姿です〜





すっげぇ酔ってる!!
約1ヶ月ぶりの酒だしな・・・。
「愁哉、帰るぞ」
オレがトイレから出ると出口に錬がいた。
周りを見ると誰もいない。オレがトイレから行ってた隙にみんな去っていったらしい。
あれ? やっちゃんまでいない。
「やっちゃんは?」
やっちゃんは錬と同じアパートで暮らししてるから一緒に帰ると思ったのに。
「はつみちゃんって子と一緒に帰ったよ」
なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!! やっちゃんも合コン苦手だと思っていたのに!!
「なんか知り合いだったみたいだよ」
え? そうなんだ。
「でも、なんかいい感じで帰っていったよ」
やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
「ところで錬はどうだった?」
錬は苦笑いしてゆっくりオレの方を向いた。
「たぶん、もう合コン一生行かないな・・・」
そうか、錬の横にずっと居座ってた子かなりしつこそうな子だったもんな。
「愁哉は楽しかった?」
錬が今度は優しい顔で言ってきた。(こりゃ、女の子はたまりませんなぁ!!)
「楽しかったよ、ありがとう」
酔っていたからか素直にお礼を言えてしまった。
文ちゃん、中々いい子だったし。
まぁ、もう2度と会うこともないだろうけど・・・。(連絡先聞かなかったし・・・)
「そっか、なら良かった」
安心した顔で錬はそう言いながら店をでる。
「そういえば、健志朗達は?」
先輩を待たないとはいい度胸だな。
「矢沢と健志朗はカラオケ行くって言って女の子といなくなったよ」
錬はちょっと呆れた感じで言った。
あいつらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
やっちゃんが送った子以外はみんなで行ったのかな?
ちょっと羨ましい・・・。





「愁哉くん!」
店から少し出たとこで後ろから呼び止められた。
「文ちゃん、どうしたの?」
カラオケ行ったんじゃなかったのか・・・。
「あの・・・・良かったら携帯の番号聞いてもいいかな?」
え? オレの携帯番号? 
「あっ! ダメならいいんだ。ごめんね!」
何も言ってないのに申し訳なさそうに謝ってる。
やっぱり可愛いな。
強引だったり、謝ったり、コロコロ変わって彩に似てる。
オレはこういう子が好みだったのか。(知らなかった・・・。)
「いいよ」
この子と時間は楽しかったし、こんなオレの番号で良ければって感じだ。
文ちゃんの顔が急に明るく笑顔に変わった。
「ありがとう!」
なんでそんなに嬉しそうなんだろう。
まっ、まさか、オレのこと・・・・。
一応平常心を装って番号を教える。(勘違いだったらかなり恥ずかしいし・・・。)
その間文ちゃんは終始笑顔。
勘違いじゃないのか?(なんて心で思ってるのがバレたら恥ずかしいな。)




「じゃあ、怪我早く良くなるといいね! おやすみ」
? カラオケ行かないんだ。
暗いのに一人で大丈夫か?
まぁ、この辺明るいし大丈夫かぁ。
酔って体調もあんまし良くないから早く帰ろう。(錬との愛の巣に☆)





「愁哉、文ちゃんのこと気に入ったの?」
!! ・・・突然そんな質問するなよ。
「あぁ、気に入ったかな。なんか可愛かったし」
酔ってるなぁ。普段「可愛い」なんて言葉、口から中々出てこないし。
でもホントに可愛かったしな。
「そうなんだ」
錬は全然酔ってなさそうに普通の顔でそう答えた。
「新しい出会いっていいもんだな」
なんだか少し冷えた11時過ぎの空気でも一向に酔いが覚める気配がない。
ウソかホントか自分でも良くわかんないけど、文ちゃんの良い所をオレは錬に話した。
バカみたいに一生懸命話した。
でもオレが上げた文ちゃんの良い所は彩の良い所で、一体誰のことを言ってるのか自分でもよくわかんないや。
それでもオレは自分に言い聞かせるように言い続けた。
「愁哉がいいなら、いいんだ」
錬はオレの話を聞きながらそう一言だけ呟いた。
きっと錬はオレの気持ちわかってる。
けど、何も聞かない。
それがオレにはすごく嬉しくて、錬の家に着くまでの20分間ずっと話をしていた。




「オレシャワー浴びるから先寝てていいよ」
錬はアパートに着いてテキパキとオレのために布団を引いてくれた。
「悪い、そうする」
かなり酔った。
こんなに酔ったのは初めてかもしれない。
オレは布団に横になった。
すぐにでも眠れそうだな。



”プルルルルル”
眠りに入る直前くらいにケータイが鳴り出した。
今何時だ?
まだ錬のシャワーの音がする。
枕もとの時計を見るとまだ12時前。
健志朗か?
「もしもし、健志朗?」
オレはもう飲めないからそっとしておいてくれ・・・。
「・・・・・彩だよ」
やばい!!! なんでオレ電話にでちゃうかなぁ・・・。
「健志朗くんだと思ったの? 画面見た?」
ケータイから彩の声が聞こえてくるのは久しぶりだ。
ダメなのにすごく嬉しい。
「ごめん、見てなかった」
もう少しだけ彩の声を聞いていたい・・・・意志弱いな、オレは。
「ひどいなぁ、久しぶりに電話したのに」
ちょっと拗ねたような声が聞こえてきた。
そんな声出さないでくれ・・・。
・・・どうしたらいいんだよ。
「毎日部活で会ってるじゃん」
適当に理由つけて電話切らないと・・・。
このまま声聞いていたらダメだ。今までのことが無駄になる。
「会ってるかぁ、けど全然話してないよ。だから久しぶりに声聞きたくて・・・」
おいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃぃ!!
オレの努力を一瞬で奪うようなことを言うな!!
ダメだ、完全に回ってる。
切らないとダメなのはわかってるけど、切れない・・・。



・・・? 電話から車のクラクションの音がした。
「今外にいるのか?」
「うん、これから美咲の家行こうと思って」
思ってって、もう終電ないだろう。(オレ達の方面はかなり辺境の郊外だからな・・・。)
美咲ちゃんは実家暮らしだけど、確かこの近くって前に言ってた気がする。
・・・・この近くにいるのか?
「どこ歩いてんの?」
こんな時間にどこを歩いてるかが心配になった。
イヤ、それは口実なのかもしれない。
ホントはすごく会いたい。
さっきは文ちゃんを一人で帰らせたくせに。最低だな。
「内緒!」
「なんだそれぇ?」
もしかして雄斗さん家の帰りか?
またなんかあったのか? だから連絡してきたのかな。
錬の家からそんなに遠くなかったよな。
もしかしてこの近くを歩いてるのか?


”ピーポー、ピーポー”
ん? 救急車の音がする。
電話からも外からもする。
ってことは、この近くにいる?
「オレそっち行くよ。どの辺にいるの?」
雄斗さんと何かあって電話してきたんだろうけど、それでも嬉しい・・・。会いたい。
「無理だよ、遠いとこだもん」
ウソつき・・・。
ひょっとしたらと思ってベランダを開けて周りを見渡して見る。
・・・・・・! 彩だ・・・。
向こう側から、歩いてる姿が見える。
別に彩はオレになんて会いたくないかもしれない。
でも、吹っ切るまで二人で会わないって決めた気持ちがどこかに消えた。
会いたくてどうしようもない。
「ちょっとそこで止まってて。今行く」
「え?・・・」
彩がそう言ったのを無視して、オレは電話を切った。


「錬! オレちょっと行ってくる!」
風呂の外から錬に言った。
「え? 何?」
錬がちょうど脱衣室から出てきて驚いた顔をしてる。
「ちょっと行ってくる! 先寝てて」
「あっ、あぁ」
ビックリしながらそう返事した錬を見届けて玄関から飛び出した。
ただでさえ酔ってるのに急いで非常口から出たから螺旋階段がさらに酔いを酷くさせる。
なんなんだよ、オレ。
こんなに夢中で女のところに走るなんて人生で初めてだ。
もう一生ないかもしれない・・・。


 
「愁哉、大丈夫?」
彩の所に着いたものの酔っていて頭がフラフラで言葉を発せないまま座り込んでしまった。
心配そうな顔で彩が近づいてくる。
「なんでここってわかったの? 具合悪そうだけど大丈夫?」
座り込んだオレの目線に合うように彩がかがんだ。
こんなに近くで彩の顔見たの久しぶりだ。
「このアパート錬の家・・・4階から走ってきた・・・」
こんな位の距離じゃ絶対普段息なんて切れない。
かなり酔ってるんだな、オレ。
「怪我してるのに、大丈夫?」
心配そうにオレを覗き込む彩の顔にはやっぱり文ちゃんもかなわない。
オレは完全に酔ってる。
思考より先に体が動いて彩を抱きしめた。
考えないことにしていただけで、オレはきっとずっとそうしたかったんだ。
「来週から練習できる・・・」
彩の肩まである髪の毛がオレの頬にあたっていい匂いがする。
「そうなんだ、安心した」
そう言った彩の顔は見えないけど、どんな顔してるんだろう。
気になるけど、急に恥ずかしくなって抱きしめた腕を離せない。
オレの顔今見せるわけにはいかない。
きっとすごい緩んだ幸せな顔してる。



「そう言えば今日合コンだったんでしょ? ここ来る途中に健志朗くん達に会って聞いたよ〜」
!? なんで!?
オレはびっくりして抱きしめていた手を離した。                
「いい子いたぁ?」
オレにさらに顔を近づけて今度はそう言った。
この状況でそういうこと聞くかぁ?
オレのした行動に驚かないのかな?(男扱いされてないのか・・・)
「いた! すっごい可愛い子!」
やけになってそう言ってやった。

・・・・・・・・・・。
興奮して立ち上がったからまた酔いが回ってきた。
「ホントに大丈夫? 酔ってるんじゃないの? 美咲の家近くだから錬くん家戻りなよ」
彩はオレの背中を優しくさすってくれた。
「大丈夫だから、送ってく」
オレは気合で立ち上がった。
彩は心配そうな顔をしたけど笑って立ち上がった。
「ありがとう、じゃあお願いしようかな」
フラフラなオレを心配したのか彩が手を繋いできた。
ホントにこいつはオレを男だと思ってないな・・・。
でも、柔らかくて気持ちいいから黙っていよう。






「ありがとう、あと、夜中に電話してごめんね。ホントいつも突然連絡して・・・」
美咲ちゃん家の前で彩が苦笑しながらそう言った。
謝ることなんて全然ない。
この4週間彩の声が聞けなくて、すごく辛かった。
正直錬の家からここまでの10分弱の時間はすごく幸せだった。
「実はねぇ。最近少し寂しかったんだ。愁哉に避けられてて〜!」
からかうような言い方でオレを見上げる。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 可愛い! オレの負け!
「ごめん・・・」
素直に謝るので許してくれ。
「でも今日合コンで可愛い子にあった後なのにここまで送ってくれたからいいや〜!」
またオレをからかってるな・・・。
「嬉しかったよ、ありがとぉ! 感謝してます!」
今度はオレの頬を優しくつねりながら言ってきた。
彩の顔が近い。
何も考えられなくなる。
「今日、あたし・・・・」
彩がその後何を言おうとしたのか分からないけど、オレは吸い寄せられたみたいに彩の唇にキスをした。
頭の思考が完全に停止していた。
ただ、そうしたかったんだ。




ポタっと冷たい何かが頭にあたった。
!!!!!!!!!!!
「ごめん! オレ、つい!」
雨が降ってきたお陰でやっと理性が取り戻せた。
オレは慌てて彩から離れた。
「・・・・・・ついだとぉ?」
彩がまたオレを見上げた。
つい、じゃない。ホントはずっとそうしたかったんだと思う。
だからってしていいわけないだろ!! って自分に突っ込みを入れてる場合じゃない!
やばい! 頭の中真っ白。
どうしたらいいんだろう。
あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・最低だ。
「酔っ払い〜! あたしより困った顔するから、どうしたらいいかわかんないよ」
彩がいつものからかう顔でそう言った。
? 怒ってないのか?
「まぁ、あたしの方が微罪だけど愁哉に同じようなことしちゃったから許してあげる。だから・・・」
だから? なんだろう。
「・・・・・・」
「いてっ!」
彩がオレにデコピンしてきた。
「悪い子にはお仕置きです! じゃあ、風邪引かないように早く帰って寝るんだよ!」
手を振りながら彩がマンションに入っていく。
あの彩の誕生日みたいだ。
・・・・・・・・・。
オレ本当に情けない。
彩にフォローされてどうするんだぁぁぁぁ!!
ホントにオレはこのままでいいのか?
雄斗さんと彩どっちも大切なんて虫のいい考えは捨てろ。
オレの中でどっちが決めないとダメだ。
どっちを選ぶ?





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Update:08.28.2004

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