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■第10話 石蕗 〜花言葉は 困難に傷つけられない〜





いよいよ明日去年地区大会、全国大会ともに優勝した『西南大学、イーグルス』との試合。
だけど『ブラックパンサーズ』も今までの4試合得点的には危なげなく勝利してきている。
オレもギブスが外れて練習に参加できるようになってからは、精一杯やってきたけどさすがに明日のスタメンにはなれなかった。(監督ぅぅぅぅぅぅぅ・・・)


彩とは結局あれからほとんど話していない。
冷静になって考えてみてもやっぱり結論なんてでない。
しかも雄斗さんにとって大切な最後の大会を前にまたあんな顔させたくない。
それは言い訳かもしれないけど、出せないもんは出せない!!(開き直ってしまえ!!)
彩からもあれ以来電話もメールもなかった。
もしかしたらあの時普通だと思ったのは勘違いで、実はすごいキレてるのかも。(どうしよぉぉぉぉ!!)
・・・だったら尚更こんなこと考えても無駄だ。
彩がオレのことが嫌いになったのなら、雄斗さんが心配することは何もない。
だけど・・・。
でもそれはかなり悲しい・・・。(オレって一体なんなんだろう・・・)


雄斗さんはオレのアメフト人生になくてはならない憧れの人だ。
彼のボールを試合でキャッチしたくて一生懸命練習した。
彩はオレの心の中にすっと入ってきて気づいた時には1番大切な人女の子になっていた。
だけど、雄斗さんの彼女。


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
やめやめ!! 考えても意味のないことなんて考えない!(また開き直るんだ!!)
寝よう。




”ピロロロロ”
メールか・・・。
『愁哉くん、明日の試合楽しみにしてます。頑張ってね! 文子』
文ちゃんからはあれからよくメールが来るようになった。
健志朗が言うにはオレのことが好きらしい。(情報ルートがあるらしい。オレの勘もあながち間違ってなかったみたいだ☆)
『ありがとう。でもスタメンじゃないから試合出るかわかんないんだ。愁哉』
可愛い女の子から思われて嫌だという男がいたら是非会いたい。
だから正直!! オレは嬉しい。
けど、彩を忘れるために付き合うのはあまりにも酷い。(しかもそれほどの男でもないし・・・)
いい子だから尚更ダメだ。
”ピロロロロ”
『きっと出られるよ! 努力は人を裏切らないから。おやすみなさい☆文子』
いい子なんだよな・・・・。
ちょっと・・・迷ってしまう。(意志弱すぎだぞぉぉぉぉぉ!!)
いつからオレはこんなダメ人間になったんだろう。
ダメだダメだダメだダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
・・・・・・寝よう。(妄想独り言にも疲れたし・・・)











”ピーーーーーーーーッ!!”


・・・・・・・・・・・・・。
オレはフィールドで呆然と立ち尽くした。
声が出ない。
残り5分で逆転され、そこからオレが試合に出た。
けど・・・・・31対35・・・・。

まだ試合は残ってるのに、なんかすべてが終わったような気さえする。
優勝なんてムリなんだろうか・・・。
オレのしてきたことなんて、役に立たないんだろうか。


雄斗さんの方を見た。
チームの雰囲気をいつも良くしてくれる。
けど・・・雄斗さんのあの顔はどういう意味なんだろう。
なんだか、遠くを見ていて何を思っているのか全くわからない。
声かけることも出来なかった。
あんな雄斗さんを見ると自分に力がないと思い知らされる。
クソォォォォォォォォォ!!


一体何がダメだったのか? 帰りの車の中でも頭が真っ白だった。
雄斗さんとの最後のシーズンでの初めての敗戦に思考がストップしてしまった。
今まで勝利した試合がウソみたいに思えてくる。






「まだ、終わりじゃないっすよ!!」
試合の後錬の家にビデオを持って帰って3人で見ていた。
「だって、とにかくリーグで3位までに入れば全国リーグいけるんっすから。オレ達の目標は全国優勝っすよね!!」
健志朗の言葉にオレと錬は顔を見合わせた。
「見てくださいよこのビデオの顔。全然ダメっす! 点取られてから、みんなもう負けた顔っすもん」
テレビに映る映像を指差して健志朗がそう言った。
確かにその通りだ。みんなの顔が強ばった顔で試合を楽しめてもいない。(さすがの錬でさえ・・・)
「得点的に次勝てば3位には入れるんっすから、もうこんな顔しないで下さいよ」
今日1度も出番のなかった健志朗がそう言った。
ビデオにオレも錬も写ってるからな・・・。
「だな・・・。 この顔じゃ勝てないわ・・・」(しかもモテナイよ、これは・・・)
自分のメンタルの弱さが嫌になる。
「そうだよ、全国には愁哉もスタメンで出れるだろうしな!」
今日の試合、オレが出たのは4Qの残り5分。そこまでは31対28でリードしていた。
逆転されて監督から交代するように指示が出てフィールドに行った。
けど、ダメだった。(そしてあんな不細工な顔をしてるわけだ・・・)
「うしゃぁぁぁぁぁぁ!! 今日は飲みましょう!!」
健志朗の声で錬の冷蔵庫の中からビールが出てきた。
「かんぱーーーい!!」
こいつがいたら来年も(今年も必ず優勝するから)優勝できる。
メンタルの強さは雄斗さんよりも上だ。
きっと勝てる。
健志朗に助けられてしまった。(それにしても、先輩を「こんな顔」呼ばわりかぁぁぁぁ!!)







試合の翌日文ちゃんからメールが来た。
『優勝すると信じて応援してます。頑張ってね! 文子』
本当にいい子だな。(男心をくすぐるなぁ・・・)
文ちゃんを好きになれたらどれくらい楽なんだろう。
そんなことを考えながら部活に行くと彩を目で追ってる自分もいる。
見込みがないってわかってもやっぱり諦めきれない男らしくない自分がいる。
どうしたら忘れられるのか・・・。(諦め悪すぎだ!!)










次の試合からオレはスタメンに復帰し、地区リーグの最終戦に55対0で快勝した。
Bのブロック2位のチームとどちらかが決勝リーグ(全国大会)に行くかは得失点差で決まるが、それでは危なげなく代表となった。
決勝リーグに進み危ない試合もあったけど、なんとか決勝リーグBブロックで優勝した。
残すは、決勝リーグの優勝決定戦である王座決定戦のみ・・・。
対戦相手は決勝リーグAブロックで優勝した『西南大学 イーグルス』。
地区大会での負けをまだ引きずっている・・・。
こんなんじゃダメなのに。


昨日また文ちゃんからメールが来た。
知り合ってからの試合は欠かさず応援に来てくれた。(いい子だなぁ・・・)
今日の王座決定戦も見に来てくれるらしい。
それ以外はオレは練習とかもあるので会ってはいない。
・・・言い訳かもしれない。
文ちゃんが何も言わないのを良いことに繋ぎとめているのかもしれない。
彩の保険にしているのかもしれない。
・・・オレは一体どうしたんだよ。





いつもより早く目が覚めて、1番乗りでドームに入った。
いよいよ今日、12月23日が本当に雄斗さんとの最後の試合。
あの5週間でみんなより遅れた練習を取り戻せただろうか。
王座決定戦はドームでの試合。
初めての人工芝に滑ったりしないだろうか。
ドームのシンとした冷たい空気が不安を呼ぶ。
今までの試合で1番緊張してる。
うわ、体が震えてるよ・・・。




「愁哉! ・・・今日テーピングあたしが巻いてもいいかな?」
着替えを終えてロッカールームから出たところに彩がいた。
なんか彩の顔を見て気持ちが一気に和んだ。
ドームの冷たい空気が急に暖かくなった気さえする。
体の震えも収まった。
すごいな、彩は・・・。
「ありがとう、頼む」
オレはテーピングを彩に渡しベンチに座った。




「愁哉、今日はあたしがテーピング巻くんだから絶対怪我しないよ」
テーピングを巻きながら彩が笑顔で言った。
オレの不安がわかったのかな?
その言葉でどんなボールでもキャッチできる気がする。
手首の不安もなくなった。
「どんなボールでもキャッチできるよ」
オレは左手で彩の頭を撫でながら言った。
触れた所から力が貰えた気がした。
「うん、信じてる」
・・・・・・・・・。
彩の言葉とテーピングにすごく救われた。
なんで彩はこんなにオレの気持ちがわかるんだろう。
それだけ分かりやすいってことなんだろうけど、こんなにいい気持ちになるならそれも全然悪くない。
「はい、出来たよ!」
手には綺麗に巻かれたテーピング。
目の前には笑顔の彩。
「これ、早いけど誕生日プレゼント。28日だよね?」
彩のポケットから出されたのはシオリになった押し花。
「あっ! 今しょぼいって思ったでしょぉ! これはねぇ、愁哉の誕生花なんだよ!」
何も言ってないのにムキになった顔で彩が言った。
嬉しいに決まってるのに・・・彩はこういうことは読めないんだな。(鈍感なやつめ・・・)
「ありがとう、リストバンドの中に入れて持ってくよ」
オレはシオリをリストバンド付いてるポケットに入れた。
一気に気持ちが高まっていく。
さっきまで不安だったフィールドにも自信をもって歩き出せた。
・・・そう言えばこの花なんて言うんだろう。
「彩! これってなんて花?」
振り返ってテーピングを片付けている彩に聞く。
「石蕗(つわぶき)だよ。あっ!! この花の花言葉は『困難に傷つけられない』!! 愁哉にぴったりでしょ?」
満面の笑顔で『1』を作ってそう言った。
『困難に傷つけられない』。・・・なんか今のオレにぴったりの言葉だな。
怪我したリスクや、前回負けたチームっていうプレッシャー。
そういう困難に傷つけられるわけにはいかない。
オレを支えてくれたマネージャーや一緒に困難と戦ってきたチームのみんなと一緒に絶対に勝つ!!


・・・オレにアメフトを続けるきっかけをくれた雄斗さんとの本当に最後の試合だから。
負けることは許されないんだ!!
「絶対勝つよ!! サンキュー!!」
オレは『1』を作って彩に向かって叫んだ。
彩はそれに大きく手を振った。
必ず勝つ!!
このテーピングとシオリ、負ける気は全くしない。
・・・・単純な性格で良かった。(この時ばかりは感謝!!)



絶対に優勝旗を美並に持って帰るんだ!!





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Update:09.05.2004

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