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■第11話 アキレア 〜花言葉は 戦い〜





「オレ達は全国優勝するために練習してんだ! 今日はその集大成だ!! 勝たなきゃ意味ねーんだ!!」
棚橋さんの声がドームに響く。
体が試合への興奮で震える。
だけど不安は全く感じない。
「絶対勝つぞーーーーー!! オッシャー!! 行くぞーーーー!!」
「オーーーーーー!!」
全員が『1』を作った。
オレの差し出した右手の手首には彩が巻いてくれたテーピング。
リストバンドには石蕗の花。
この試合取れないボールはない気がする!!







2Qに入り今『ブラックパンサーズ』のディフェンス。
『ブラックパンサーズ』のディフェンスは全国でもトップクラスと言われている。
だけど、『西南大学、イーグルス』は1Qをノーハドル・・・。(つまり攻撃すべてを準備してきてるってこと)
こっちもハドルを組めないから、かなり苦戦している。
オフェンスも健闘しているけど、前回の敗北からか動きが硬い。
オレのトイメンのCB(コーナーバック)は去年全国のベスト11に選ばれたくらいすごい選手・・・。中々キャッチさせてくれない。
けどそんな言い訳している場合じゃない、勝たなきゃダメなんだ!!



「ワーーーーーーーーーーーーッ!!」
歓声がドームに響く。
『西南大学、イーグルス』のタッチダウン。
P.A.T(ポイントアフタータッチダウン)の1点を合わせて得点差は7対14。
やっぱりディフェンス陣がいつものプレーが出来てない。
矢沢もいつもの表情とは違いかなり疲れた顔してる。
あいつのあんな顔は始めて見る。
入れ替わりにオフェンスがフィールドに行く。

これじゃあ、前と同じだ。
「絶対一本とってディフェンスに喝入れるぞ!!」
雄斗さんはいつもと変わらない笑顔。
前回『西南大学、イーグルス』との試合後の複雑な顔はしてない。今日は勝てるんだ!!
でも棚橋さんの声はいつものようにフィールドに響かないし、でもみんなの動きはやっぱり硬い。
前回の敗戦を引きずってるんだろうか・・・。
「オーーーーーーッ!!」


”ピーーーーーーーーッ!!”
結局中々エンドゾーンに近づけず、敵陣35ヤードからの4ダウンで錬のFG(フィールドゴール)
10対14で以前リードされたまま攻撃終了し、今度は美並のディフェンス。
だめだ、やっぱり顔が疲れきった顔になってる。
今日は押されてるから、ディフェンスのプレー時間が長い。
頼む!! 守りきってくれ!!



この2Qはこれ以上の失点なしに守りきったけどかなり押されたまま前半を終了した。
「お前ら全然動けてないぞ!! 顔が負けてんだよ!!」
ディフェンスコーチが怒鳴っているのが隣のベンチから聞こえてくる。
全員が顔を下げてしまっている。
「泰広! 後半お前FS(フリーセーフティー)に入れ」
前半スタメンの先輩が動けていなかったのでやっちゃんに交代するみたいだ。
「はい!!」
やっちゃんの顔がいつもの顔から変わった。
口調ものんびりしてない。
きっとやってくれる!


ハーフタイムが終わりコイントスに棚橋さんがフィールドに向かう。
その表情は強ばったままだ。
コイントスの結果後半はディフェンスからに決まった。
やっちゃんがかなりいい動きしてるからロングゲインはされなくなった。
新しく交代した選手がいい動きをするとチームの雰囲気も変わり少しずついい影響は出てる。
けど、いつも通りというには程遠い。
少しずつゲインされてしまってる。



「中澤!」
呼ばれて振り向くと雄斗さんが立っていた。
「お前、あのCBに勝てるか?」
雄斗さんが相手ベンチを見てそう言った。
前半相手のCBを警戒してほとんどパスプレーをしていなかった。
「勝てます! 雄斗さんのパスで必ずタッチダウンします!」
目線がほとんど一緒の雄斗さんの目を見てそう答えた。
「今日のディフェンスはかなり硬い。オレ達で点を取らないと勝てない」
フィールドのディフェンスを見て厳しい顔をしている。
「雄斗さん、オレ絶対勝ちます。雄斗さんと一緒に全国優勝するためにオレ、アメフト続けてたんっすから・・・」
負けない。
この試合は勝たないと意味がない。
「中澤・・・お前オレのことホントに好きなんだな」
オレの横で雄斗さんはそう言いながら笑った。
「好きっすよ!! オレにアメフトの楽しさ教えてくれた人っすから」
恥ずかしい・・・。
けど、なんか試合でテンション上がってるからなんだって言えてしまう。(誤解されたりしないかな?)
「オレ、お前に会えて良かったよ」
!? ・・・雄斗さん。
「中澤にパス投げるときはボールがお前に吸い寄せられて行くような不思議な感覚がするんだ」
前健志朗にも同じことを言われた気がする。
「雄斗さんの投げるボールがいいからっすよ」
だけど、かなり嬉しい!! 雄斗さんからそんなこと言ってもらえる日が来るなんて。(夢じゃないよな・・・)
QBにとって理想のWRだよ。だからお前とやれる試合はいつも最高に楽しかった」
オレの方を見て雄斗さんが笑う。
今ほどアメフトを続けてて良かったと思ったことはなかった。
オレアメフト好きだ、大好きだーーー!!


”ピーーーーーーーーーッ!!”
「また取られたな・・・」
ディフェンスがタッチダウンを取られてしまった。
また追いかけなくてはいけない。
・・・・・・・・・・・・。
「この展開、ディフェンスのお陰で試合が楽しくなってきたな!」
さっきと違いいつもの雄斗さんの顔に戻った。
少し意地悪な笑顔を浮かべてフィールドを見る。
そして本当に楽しそうな笑顔を浮かべる。この顔はオフェンスの雰囲気を変える強力な笑顔。
雄斗さん、自信あるんだ。
「最高に楽しくなってきましたよ!!」
オレも笑顔で答える。
初めて雄斗さんと一緒に試合に出た日を思い出す。
でもあの時とは違う、今度は勝つんだ!!
この展開も楽しんでやる!!
絶対に優勝するんだ!!




4Qに入り得点差は24対28で以前リードを許したままだ。
でもオフェンスは回ってくるたびタッチダウンを取ってる。
雰囲気もすごくいい。
これから『ブラックパンサーズ』のディフェンス。


「やっちゃん!! 試合、楽しんで来てくれ!!」
フィールドへ向かうやっちゃんに声をかけた。
「すぐオフェンスに変わるよ、準備しとけよ!!」
一瞬ビックリした顔をしたけどそう笑った。
いつものんびり話すやっちゃんが今日はなんか違う。
顔もいつもの優しい笑顔じゃない。
ディフェンスの最後の要として『ブラックパンサーズ』を守ってくれる。
やっちゃんの笑顔にディフェンスに声と笑顔が戻った!



”ピーーーーッ!!”
よしゃぁ! ディフェンス完璧だ! 
矢沢とやっちゃんが最高の笑顔でベンチに戻ってきた。
「愁哉〜!! 任せた〜!!」
いつもののんびりに戻ったやっちゃんの声。それとやっちゃんと矢沢の人差し指の『1』。
オレも『1』を作る、これは願いじゃない、実現する合図だ!!
必ずタッチダウンをとってベンチに戻るんだ!!


―――――試合時間はあと5分。1stダウン自陣33ヤード。

「時間はたくさんある!! 今日絶好調の中澤へパスで相手を動揺させてやろう」
雄斗さんがハドルで自信の満ち溢れた顔で言う。
全員がその顔につられて顔が変わった。
雄斗さんのコールがかかる。
この緊張感、やっぱり最高だ!!



「セットー!!ダァーン ハッツ!」
雄斗さんのコールにオフェンス陣が一斉に動き出す。
オレも自分のパスコース目指して走る。
背中でボールを感じる。
オレに向かって飛んできている。


必ず取れる!!
”パシッ”
オレの手にボールがしっかりキャッチされた。
よしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


”ピーーーーーーーッ!”


今のパスで15ヤードのゲイン


――――――残り時間4分30秒。1stダウン自陣48ヤード。

錬のランプレーから始まる。
よっし!! 抜けた!!
行けーーーー!!
オレも錬が走れるようにディフェンスの動きを防ぐ。

錬の足の速さと当たりの強さで10ヤードのゲイン。


――――――残り時間4分。1stダウンは敵陣42ヤード。

「ナイランだ! 錬!」
オレはハドルに帰ってきた錬に笑顔で言った。
「当ったり前だ!」
錬は最高の笑顔で返事した。

今度はオレの逆がわにいるWR(ワイドレシーバー)へのパス。

おっし! 通った。


”ピーーーーーー!”
キャッチしてすぐタックルされてしまった。
けど、5ヤードのゲインだ。
相手のディフェンスはだいぶ疲れている。
この試合絶対勝てる!!


――――――残り時間3分30秒。2ndダウンは敵陣37ヤード。

「宮坂、頼むぞ」
ハドルで雄斗さんが、錬の肩をポンっと叩きながら言った。
錬のランプレーだ。
かならず走ってくれる!!

”ピーーーーーーーッ”
あぁぁぁ、惜しい! 1stダウン取れなかった。


――――――残り時間3分。3ndダウンは敵陣33ヤード。

このプレーでなんとか1ヤードは取りたい。
取らないと厳しくなってくる。

「オレが走る」
雄斗さんが笑いながらそう言った。
めずらしい・・・、でも自信のある顔だ。
必ず、やってくれる!
「頼むぞ、みんな!!」

雄斗さんがコールしたのはQBダイブ。
ロングゲインは中々狙えないけど真中を突っ切っていくショートヤードを稼ぐには1番良いプレー。
でも、RB(ランニングバック)がやるのがほとんどで今年『ブラックパンサーズ』では初めて使う。
相手チームも想定外のはずだ。


雄斗さんのダイブは綺麗だった。
走るのも早い雄斗さんは、DL(ディフェンスライン)を飛び越えて4ヤードゲインした。


――――――残り時間2分。1stダウンは敵陣29ヤード。

錬のランプレー。
スイープというプレーでうまく行けばロングゲインも期待できる。
ただし失敗するとロスしてしまう。
でも錬と雄斗さんの得意なプレーだ。
かならずゲインしてくれる。


「オッシャーーー!! 必ず1本とるぞ!!」
棚橋さんの声がドームに響く。
・・・・・・この声も今日が最後。
今まで試合中にミスについて責められたことがない。
冷静に厳しく優しくオフェンスを盛り上げてくれた。
この人無しには今の美並はない。
「オーーーーーーーッ!!」
全員がそれ答えるように叫ぶ。



錬は15ヤードゲインした。
こいつは本当に最っ高だ!!
「オーーーーーーーーッ!!」
今までこんなに楽しいゲームは初めてだ!!


―――――残り時間30秒。1stダウンゴール前13ヤード。

これが最後の1プレーになる。
絶対に一本取らないといけない。
「今日までみんなとやれて最高だった!」
雄斗さんがハドルでコールの前に笑顔で言った。
「いくぞ!!」
雄斗さんがコールしたのは・・・オレへのパス。
オレに向かって笑った。
夢が叶った瞬間だと思う。
雄斗さんの顔が『信じてる』そう言ったような気がする。
これで取らなかったらオレは何のためにアメフトをやってきたのかわかんないだろ。
このボール必ず取れる・・・絶対取る!!




「セットーーーー!! ダーン ハッツ ハッツ!!」
『ブラックパンサーズ』全員の気持ちを背負ってオレは走った。
雄斗さんの手を離れボールがオレへ投げられたのを感じる。
オレにキャッチされたくて飛んでくる。
ボールはオレに向かって来てるんだ!!

”パシッ”
ボールがしっかりオレの手の中に入った。
目の前にあるエンドゾーン。
周りのディフェンスの動きがスローに感じる。
オレの体がオレのものじゃなくなったように軽い。
どこまででも行ける気がする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。


”ピーーーーーーーーーーーーーッ”
「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
タッチダウンだ!!!
「ワーーーーーーーーーーッ!!」
ドームから歓声が上がり最高の気分だ!!
P.A.T(ポイントアフタータッチダウン)も成功し結果は31対28。
それと同時に試合が終了した。


勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
錬と雄斗さんがオレに飛びついてきた。
最っ高の気分だ!!
今が人生最良の時間だっ!!
我慢していた涙がこぼれる。
目の前には雄斗さんの笑顔。
「お前やっぱり、WR(ワイドレシーバー)向いてるよ」
雄斗さん!?
4年前の言葉覚えててくれたんだ・・・。
オレがWRになると決めたその言葉。
雄斗さんはメットをかぶったままのオレの頭をポンポンっと叩く。
「雄斗さん!! オレ、ホントにアメフト好きです。大好きです!! 今日・・・最高でした!!」
オレの言葉に嬉しそうに雄斗さんが笑った。
「人生最高の試合だったよ!」
雄斗さん・・・。
ホントに嬉しいっすよ、オレ本当に美並に来て良かった。
雄斗さんに出会えて良かった。本気でそう思う。



ベンチに戻り彩を探す。
・・・・・・彩が泣いている。
オレに気づいて人差し指で『1』を作る。
彩に向かってオレも同じ動作をする。そして彩が巻いてくれたテーピングを指差した。
このテーピングのおかげで、久しぶりの試合にも全く不安はなかった。
それを見て彩は嬉しそうに笑う。

やっぱり、好きだ。


「中澤・・・・」
後ろから雄斗さんに呼ばれドキっとして体が固まる。
そうだ、オレ彩にキスしちゃったんだ!!
試合の興奮でスッカリ忘れてた・・・。(最悪だぁぁぁぁ!!)
一気に血の気が引いていく。(さっきまでの感動は一体ドコへーーーーー!?)
「オレに最高の試合をさせてくれたから、いいことを教えてやるよ」
「はっ? はい・・・」
なんだろう・・・。怒られはしなさそうだけど。
怖くて目が見れない。(情けないな・・・オレ)
「彩とは2ヶ月も前に別れてるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「えぇ!?」







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Update:09.10.2004

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