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おまけ。 泰広サイド






「あ、兄ちゃん! お帰りー、アメフト優勝したんでしょ? おめでとう!」
「ただいま〜。泰希(たいき)〜。勉強頑張ってるか〜?」
「頑張ってるよ、受験生に正月はないからさ」
う〜ん・・・・・・・コタツでみかんを食べなが寝転がっている姿からは全く受験生には見えないけど。
「あ、お土産〜。夜食にでもして〜」
「マジで! サンキュー」
久しぶりに実家である北海道のこの街に帰ってきた。
前回帰ってきたのはちょうど今から1年前の大晦日。
はっちゃんがひょっとしたらいるかも、そう思って『サクラ』に行ったんだよな〜。
受験生のはっちゃんは当然いなかったけど・・・。
去年の今日は「もうはっちゃんに2度と会えないだな」そう思ったのに、今付き合っているなんてなんだか不思議な気持ちだな〜。









「あ、兄ちゃん。オレ美並も受験するんだ。受かったら来年からよろしく!」
「えぇ〜! どうなの〜? あ、でも泰希なら大丈夫か〜。でもさ〜高校から北海道でて寂しくないの〜?」
弟の泰希は今15才で高校受験を控えている・・・。
今の姿からは全く想像できなくても一応受験生・・・のはず。
「寂しくないよ、別に彼女いるわけでもないしさ。あ、友達と別れんのはちょっと寂しいけど」
「そうか〜。自信はあるの〜?」
どう見ても勉強しているようには見えないけど、母さんの話によると成績はオレの中学の頃より良いらしい。
「当日お腹こわして受験できないってことがなければね」
「すごいね〜。じゃあ、体調管理はきちんとしなよ〜」
「おー、サンキューサンキュー。お! 今日ごちそうだ!」
大晦日&オレが久しぶりに帰ってきたってこともあって、今日は母さんがかなり張り切ってご飯を作ってくれた。
「普段きちんと食べてるの? 泰広。実家にいるときに、きちんと栄養補給しておきなさいよ」
「は〜い〜。ありがとう、母さん〜」
「じゃあ、そろそろ食べようか。ほら、泰希! お箸とお茶碗だして、泰広も荷物部屋に持っていきなさい」
「「は〜い」」
父さんは郵便局に勤めていて、大晦日に一緒に食事をしたことがない。
それでも31日中には帰ってくるから、年越しそばは一緒に食べてる。
でも、申し訳ないけど今年は・・・。














「あ、父さんお帰り〜。行ってきます〜」
「ただいま〜、って泰広どこに行くんだ〜? そばは〜?」
「ごめん〜、2時間くらいで帰るから〜。先に食べてて〜」
すっごく残念そうな顔をしているな。
う〜ん、よく父親似って言われるけど似てるかな〜?
あ、そんなこと考えてる時間はなかった!
今日ははっちゃんと一緒に年越しをする約束してる。 
靴を履く時間もなんだか勿体無いけど、急いで行っても待ち合わせまで会えないんだ。
「行ってきま〜〜〜〜〜〜っす〜!」





外に出た瞬間、顔がピシっと引きつるような寒さ。
おぉ・・・さすが北海道!!
夜も11時過ぎだとあっちとは比べものにならないくらいの寒さだ。
息も真っ白だ〜。


あの合コンの日から3ヶ月近く経った。
その間はっちゃんと会ったのはたったの5回。
たったの5回・・・だけど、2年半全く会えなかったことを思うと3ヶ月で5回!
・・・・・・・寂しいけど十分幸せだったりする。
でも、人間とは欲の出てくる人間だからやっぱりたくさん会えたらいいな〜っても思う。
あの日のことを思い出すと自然に笑顔になってしまう。
「あの! やっちゃんの家に泊めてください!!」
やっぱり・・・思い出し笑いしてしまった。
あの時のはっちゃんの言葉は一瞬息することも忘れるくらい驚いた!
でもすぐに、あ〜・・・オレってば相変わらず男扱いされていないんだな〜って思ってがっかりしたな。
バイトの頃も何度も「お兄さん」を連呼されてたし・・・。
はっちゃんは自分の言葉の威力を全く知らないんだもんな〜。







「うわ〜〜〜〜〜〜!!」
”ドスンッ!!”
目線がいきなり90度変わった・・・。
・・・・・かっこ悪い。
歩道で思いっきり滑って転んでしまった。
・・・・・・・この話は泰希には内緒に・・・しなくていいか〜。
全然受験生らしくないし〜。
うわ〜・・・でも空キレイだな。
やっぱりこっちの空は、あの街よりずっとキレイだ〜。
オレの口から出る白い息で空がぼや〜っとなって幻想的だ。
ってなんだか今日は感動したり思い出し笑いしたり忙しいな〜。
はっちゃんに会えるのが嬉しくてそうなってるのかな?
あ、そういえば高校2年生の夏ごろも同じようなこと考えたっけ・・・。













「オレ・・・はっちゃんのこと好きなんだろうか〜?」
『サクラ』に行くの妙に楽しみだし、一緒にいるとなんだか癒されるし・・・。
う〜〜〜ん・・・よくわかんないな。
っとか思いながらこんなに激チャしながら『サクラ』に向かってる・・・。
う〜ん、自分の気持ちなのにサッパリわかんない。
ま、考えてもわかんないときは考えないでおこう。






「『やっちゃん』って呼ばせてください!」
って言われてメチャメチャ嬉しくてはっちゃんが泣いてるのが悲しくて・・・。
・・・考えないでいたはずなのに最近気づいたらはっちゃんのことばっかり考えてる。
あぁ! これは・・・ひょっとして!?
「ありがとうございます! 頑張ります! あの、でもやっちゃんの笑顔あたしの中ではすごく価値があります! なんか温かくて幸せな気持ちになります! 素敵なお兄さんが出来て嬉しいです!」








ううん・・・あの時のことも今考えると少し笑えるけど、あの時はすっごい落ち込んだな〜。
そう・・・・・・・・なんとも皮肉なことだけど、はっちゃんのこの言葉でやっと自分の気持ちがハッキリわかった。
気づいた瞬間失恋した〜〜〜!!
このショックはきっとはっちゃんには計り知れないものだったろうな〜。
今の幸せなオレからももう計り知れないな〜。




やばい、歩道に転がっている場合じゃなかった・・・。
待ち合わせに遅刻してしまうな。



もし、あの頃はっちゃんに自分の気持ちを伝えていたらきっと振られていたと思う。
はっちゃんはオレのことを「大好き」って言ってくれたけど、あの頃は絶対男扱いされてなかった!
う〜ん。でも仕方ないか・・・。
男らしいところなんて全くなかったもんな〜。
・・・・・う〜ん、今もないかも。
ん? じゃあ、はっちゃんはどうしてオレを好きになってくれたんだろうか?
自分では気づかないけど、のんびりしてるってよく泰希から言われるし。
泰希が楽観的なだけの気もするけど。










待ち合わせ場所の『サクラ』が近づいて来た。
ホントにこの道をはっちゃんとの待ち合わせのために歩ける日が来るとは・・・。
約3ヶ月前の10月の初めにはっちゃんと再会した。
すっかり忘れたつもりの気持ちだったのに、不思議なくらいあっさり戻ってきた。
でもどうにかしようと思わなかった。
はっちゃんはすっかり大人になっていて、何か言ったところでどうにもならないと思ったし。
でも一緒に帰っていて、はっちゃんが電車に乗り遅れた時気持ちを言わないと後悔する、そう思った。
何かよくわかんないけど、モヤモヤして後ろ髪引かれまくりだった。
よし、言おう!! そう思った直後に
「あの!! あたし・・・やっちゃんと一緒にいたいです! これからいつも・・・」
あの時は一瞬状況がよく理解できなかった。
頭が真っ白って言うのはこういうことなのだな〜と思った。
「つまりあの・・・あたし、やっちゃんが大好きなんです!」
















う〜ん、思い出して顔がニヤニヤしてしまう。
誰もいない場所で良かった〜。
こんな顔は誰にも見られたくない〜。
このはっちゃんの言葉は嬉しかった、なんて言葉じゃ言い表せないと思う。
あまりのことに現実っぽくなかった、っていうのが一番の近い言葉かな〜。
だって、もう2度と会えないかもしれない人に会えただけでも奇跡なのに・・・。
気持ちを伝えようと思って緊張した矢先の出来事だったこともあって、本気で夢かと思った。
ホッペたをつねってみようかと思ったくらい。
さすがに止めたけど・・・。
そんな変なことをあれこれ考えていたら自分のことがバカバカしく思えてきた。
アメフトやって体を鍛えてあの頃よりずっと力もあると思うけど、全然男らしくない自分がおかしくて。





「あは・・・・あはははははははははっ〜! はははははは〜!!」
オレかっこ悪いな〜。
なんだか自分のことがおかしくってしょうがない。
でも嬉しくってしょうがない!
「やっ・・・ちゃん? あれ・・・?」
あ〜嬉しい!!
はっちゃんはすごい可愛いし!
オレは情けないくらい男らしくないし。
なんだかよくわかんないけど、幸せすぎておかしい!!
自分の体がフワフワ宙に浮き上がりそうな気持ちだ〜。
「あの・・・やっちゃ・・・」
自分でも舞い上がりすぎて何やってんだかわかんないけど、はっちゃんを思いっきり抱きしめた。
「あ〜良かった〜。はっちゃんがオレと同じこと考えててくれて〜」















やばいやばい!!
完全に顔が緩んでる。
やばいけど・・・・・幸せだな〜。
それにしてもオレは開き直ると結構大胆なんだな〜っと新しい一面を発見してしまった。
あの時・・・。




「よし、わかった〜。はっちゃん今日オレ家にお泊まりね〜」
「えぇ!!」
あ・・・すごい心臓の音がする。
なんかオレすごい恥ずかしいこと言ったかも。
「あ・・・・オレの心臓の音うるさいよね〜」
「え・・・?」
「しかも、なんかすごいエッチな人みたいだ〜・・・オレ〜」
「えぇ!!」
なんだか言ってて自己嫌悪・・・。
なんかもしかしてオレ酔ってる?
「でも〜・・・はっちゃんと一緒にいたい〜」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
酔ってるのか〜。
なんかさっきからフワフワしてて気持ちいいし、心臓はすっごく早いし〜。
今なら自分の気持ちもはっきり言える。
あれれ、そう思うとますます心臓が早くなってきた〜。
「やっちゃん・・・? 心臓すごいですよ?」
「そりゃそうだよ〜。ずっと大好きだった人に告白しようとしてるんだもん〜」
「えぇ!!」
















う〜ん、オレってば変なとこでワイルドさを出しているな〜。
・・・・・でもこれってワイルドかな〜?
どっちかっていうと・・・ただのエロス?


あ、10分前だ!
あと10分ではっちゃんに会えるんだ〜。
もう『サクラ』まで徒歩20秒の位置。
はっちゃんに会えるのが嬉しくて少し早く着いてしまった。
あ〜6日ぶりのはっちゃんだ!
今までで最短の再会記録だ〜!
う〜ん、足が軽い!
おっと、でも軽すぎてまた転んだら恥ずかしいから落ち着こう。




・・・・・・・・・・・・・・!?
「はっちゃん、あれ〜? まだ時間には早いよね〜」
『サクラ』の本コーナーではっちゃんが立ち読みしている。
予定より10分早くはっちゃんに会えてしまった!
「だって・・・家近いから」
「そっか〜」
可愛くって髪の毛をくしゃくしゃっと撫でてしまう。
はっちゃんはいつもの笑顔で笑うと読んでいた雑誌を棚に戻した。






「温かい飲み物買ってから行こうか〜」
「うん!」
今『サクラ』にいるアルバイトの人で知っている人はいない。
けど、店の中はほとんど変わっていない。
エプロンもオレ達の頃と変わっていないし、二人で立っていたカウンターの様子も変わってない。
週に3回この店に来た。
色々なたくさんの思い出がつまった店。










「やっちゃん、『サクラ』変わってないね」
こっちを見るはっちゃんの顔は大人になってキレイだけど、笑顔は変わらない。
それに・・・
「うん〜。オレも同じこと考えてた〜。懐かしいね〜」
同じことを考えていただけでこんなに嬉しい!
はっちゃんといるとなんでも楽しくて嬉しいことになるんだな〜。








はっちゃんと再会した日、はっちゃんと付き合えた日、はっちゃんが初めて家に泊まりに来た日。
嬉しいことが1日にたくさんありすぎて完全に酔いが全身に回ったオレは、家についてすぐしっかり熟睡してしまった。
大胆なお誘いをしたわりには、ちょっと情けない・・・かな〜?







「そういえば、はっちゃん敬語じゃなくなったね〜」
「うん、だってあたしやっちゃんの後輩じゃなくて、恋人だから」
う〜ん、そんな顔で言われるとあの日出来なかったお誘いをしたくなってしまうかも〜・・・。











全然変わらないこのお店にすっかり綺麗になったはっちゃん。
そしてなんだか情けないオレ。








「やっちゃん、ずっと一緒にいようね」
はっちゃんの無邪気な笑顔。
この言葉を言われなくならないように、もう少し男らしいワイルドな人間になろう。









「うん〜。でも出来たらさ〜、いつも一緒にいようね〜」
・・・・・・・・早速ワイルドな男の発言ではないけど、ま〜いいか〜。






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Update:10.22.2004


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