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眠る記憶

 

第3章  瞑想(2)― 中澤愁哉 ―






病院から家に戻る間、彩はずっとオレを心配していた。
オレは美並山学園大学を卒業して就職、今年の4月の人事異動で就職課の勤務になった。
彩とは学生時代からの交際を経て、羽月(うづき)が出来たことをきっかけに結婚。
今年の12月28日に27歳になる。


・・・そう、それが今のオレ、中澤愁哉だ。
夢から醒めてから、そんな当たり前のことに自信がなくなってきてしまっている。
さっきあの二人になぜあんなことを言ってしまったのか?
気になることはたくさんあるが、すがるように聞くほどのことではない。
でも、あのまま離れるのは嫌だった。
話が聞きたいというのは口実にすぎない。
オレはまたあの二人に会いたかったんだ。
いや、オレじゃない。
あの時行動したのはシュンランだ。
一瞬自分の意識が隠されたような、そんな錯覚に陥った。


いずれにしても、シュンランはもうこの世にいない。
今ここにこうしているのは、中澤愁哉だ。
シュンランは彼らと何を話そうとしているのか。




確かに、中澤愁哉として気になる点はいくつかある。
ただの興味本位だけど・・・。
前世なんて物語とか、テレビの中の世界だったし、今日まで全く信じていなかった。
そのことになんの疑問も抱かずに生活してきたけど、オレにもシュンランという前世があった。
しかも地球人じゃないし・・・。
ローレルではベキアの力があるため前世の存在は当たり前だが、地球では想像の世界で現実的ではない。
確かローレルの聖書には“罪人は転生するエンレイテッセンでの生活をもって生涯をかけ罪を償う”と書かれていた。
ローレルのエンレイと同じような意味で、地球を『神の加護が及ばない星』エンレイテッセンと言う。


オレは今日まで地球以外にも人間が住む星があること自体、信じていなかった。
シュンランからすれば、地球こそ見たことのない罪人の住む星だった。
たった数時間で色々あって、自分の今まで信じてきたものが全部違っていた気さえする。
シュンランの記憶があるから混乱しないですんでいるが、そうでなければおかしくなっていたかもしれない。



オレは中澤愁哉として、この地球に生をうけた。
ローレルでは大罪を犯したものの魂は、転生を許されない。
罪の重さで、転生後の運命が決まる。
オレは神の伴侶を奪い逃げた・・・。消滅を免れない大罪だ。
ベキアはなぜオレの魂を転生させたのだろう・・・



オレとシオンが天空宮を出て、二人で暮らせたのは、たった半年足らず・・・
連れ戻された後、クラフトが使えないようにシールドを施された牢に入れられた。
その後オレは、ベキアの裁きを受けた。
判決は意外なものだった・・・。
あの判決にも未だに疑問が残る。
一体どうして・・・。

でもあの日・・・。







あの後、シオンはどうしたのだろう。
こうして転生しているところを見ると、ベキアはシオンの魂も消滅させなかったってことだ・・・。
・・・。
考えてもわからないことばかりだ。



サラジュに最後に会ったのは、オレとシオンが天空宮から出た日に天水宮の裏口で見送ってくれた時だ。
どうしていたのだろうか・・・
そのことで、サラジュに迷惑はかからなかっただろうか。
倉田花凛・・・シオンの生まれ変わり。
朝井龍・・・サラジュの生まれ変わり。
姿は全く別人だったが、話してみるとやっぱり本人だと思った。
特にシオンのオレを見る目は、ローレルでの時と変わっていなかった。



・・・?
サラジュ・・・サラジュはなぜ地球に転生したんだ?


やっぱり、あの二人に会って話を聞きたい。
シュンランもそう言ってる気がする。
中途半端に思い出したから、スッキリしない。
ローレルでのシュンランの記憶のほとんどは幸福な記憶だった。
シオンに出会う前は、辛いことばかりだったが彼女にあってからは本当に幸せだった。
けれど思い出せていない記憶もまだたくさんありそうだ。
たくさんの疑問が残っている。


どうしたらいいのかわからない・・・。
もし二人に今後会わなければ、前世の記憶が戻ったこと以外はなんら変わらずに生活できる。
その方がいいのかもしれない。
けど、なんかモヤモヤしてスッキリしない。


もし、二人から連絡がなかったらこのままにしよう。
二人もそれを望んでいるってことだ。
連絡が来たら、会って話をしよう。
気になることを聞いて、二人が知っていたらスッキリできる。
よし、そうしよう。
ウジウジあれこれ考えるのは好きじゃないし。








「愁哉・・・どうしたの、怖い顔して。まだ体調悪い?」
考え事をしていたオレに、彩が声をかけてくれた。
「いや、なんでもない。悪い・・・心配かけて」
オレは前世の記憶を取り戻しそれについて考えているとは言えるはずもなくそう答えた。
「そう、ならいいけど。愁哉が平日に家にいるなんて珍しいから、羽月嬉しそう」
彩が笑顔でそう言った。
羽月の方に目をやると、嬉しそうに絵本を持ってオレのところに来た。
あと4ヶ月で2才になる羽月は、まだ言葉はわからないけれど絵本を読んでもらえるのは嬉しいらしくて、オレが家にいると決まって膝の上に来て催促する。
「よし、ちょっとまってろ。着替えてくるから」
オレはスーツのままだったから、いったん膝から羽月を下ろして部屋へ向かった。
そうだ、今日は彩の誕生日だ。
1週間前からプレゼントを買って、自分の部屋に隠しておいた。
花の形の中心部分に、小さいけどダイヤが付いたネックレス。
花が好きな彩のために、雑誌で見かけたこのネックレスを何軒か回ってやっと見つけた。
ヤキモチをやく羽月のために、オモチャのネックレスも買った。
今日倒れたせいで、彩と羽月に心配をかけてしまった。
内緒で予約していたレストランに3人で行こう。
独身の時に、彩と二人でよく行った店。
早く二人が喜ぶ顔が見たい。
オレは急いで着替えをした。


オレは幸せだ。
こんな風に3人で過ごせる時間が、とても幸福に思える。
当たり前に思っていた生活も、ローレルの記憶を思い出した今では尊い生活のように思える。


地球でシュンランに叶えられなかった夢を手に入れた。


オレは着替えて羽月と彩が待つリビングへと向かった。
手には綺麗に包装された、彩へのプレゼントを持って。
そこには、中澤愁哉が現世で見つけた幸福な世界がある。
 

オレはこの幸せが続くと信じている。
いつまでも、いつまでも。





 

 

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