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眠る記憶

 

第4章 回想(2)  〜蒼・ラス・シオン〜






「誰・・・?」
祈りを捧げる時に着る黒装束をまとった男の人が私とシュンランの前に立ちふさがった。
「お久しぶりです。もっともあなたは覚えていないでしょうけど」
男の人が私の方を見てそう言った。
意味がわからない。
私は物心ついてからシュンラン以外の男の人に会ったことがないのに。
この人は誰?
「ベキアさま・・・」
横にいたシュンランが男の人をそう呼んだ。
ベキアさま? この方が?
男の人は装束をとり顔を見せた。
額には黒い玉・・・。





もう逃げられない・・・。
この幸せが今あっけなく終わるんだ。
「悪いようにはしません、だから私と一緒に来てください」
大罪を犯した人間の判決を下すのはベキアさま。
悪いようにしないと言った言葉は信用できなかった。
でも、ベキアさまの力に勝てる人間などいない。
つかまったらシュンランは殺されるかもしれない・・・・。
私達の子供も、私も。
どうしたらいいの・・・。
「シオンには子供がいます。オレはどんな罰でも受けます。だから彼女と子供は助けて下さい! お願いします!」
「シュンラン!!」
私はベキアさまに頭を下げていたシュンランに寄り添った。
シュンランの体は震えていた。
胸がたまらなく痛い。
「私はどんな罰でもうけます! シュンランは何も悪くない! 罰するなら私を・・・私を・・・」
涙で声が出ない。
泣いてはだめだ。これじゃあ誰も救えない。
でも、どうしたらいいのかわからない。
どうしたらシュンランと子供を守れるの・・・? 
「シオン・・・私は悪いようにしないと約束します。ただ・・・二人でいることは叶いません」
ベキアさまは辛そうな顔でそう言った。
「かまいません!! シオンが生きていてくれるなら・・・・」
シュンランはさらに深く頭を下げた。
「ベキアさま!! どうかシュンランの命を救ってください・・・。私、私が・・・」
やっぱり涙で声がかすれる・・・でもそれじゃあダメ。
シュンランの隣で私も必死で頭をさげた。
私は特別な力は何もないけど二人を・・・守りたい!!

その様子にベキアさまは悲しい顔をした。
「シオン、私はあなたを悲しませたくありません。あなたの涙には弱い。以前からずっと・・・」
以前から? どういうこと?
私はベキアさまに会ったことがある?
「では、天空宮に戻りますね?」
ベキアさまの言葉に私とシュンランは頷いた。
頷くしかなかった。
ベキアさまの力の前では私達はあまりにも無力だった・・・。












「シオン!! あなたって子は、私達がどうなっても良かったの!?」
天空宮について最初のお母様の言葉。
人目を気にして綺麗にしていたお化粧も髪の毛も乱れている。
私じゃなく、自分の生活を心配してきっと何も手につかなかったんだ。
私の役目は家族に幸せな暮らしをさせること、ローレルの人々が安心して暮らせるように神を生み出すこと。
生まれた時からそう言い続けていたお母様にはそれがすべてなんだ。
「あっ、あなたまさか・・・・妊娠してるの?」
私のお腹を見て声を震わせながらお母様が言った。
すごい形相で私を睨みつける。
「神の妻は純潔でなくてはいけないのよ!! もうお終いだわ・・・。なんてことしてくれたの・・・」
お母様は床に座り込んだ。
「やっぱり、あの男は禁忌の子なのよ!! 世界を不幸にするために生まれたんだわ!!」
「違う!! 違う、違う!! 彼は私を幸せにしてくれたもの!!」
お母様の声を遮るように私は怒鳴った。
怒鳴るなんて生まれて初めてかもしれない。
でも、シュンランを悪く言うなんて許せない。
この世界で私自身を必要としてくれた唯一の人。
お母様より誰より私に幸せを教えてくれた誰より大切な人。
「バカなこと言わないで!! 私達家族をこんな目に合わせて何が幸せなの?! あなたは私達がどうなってもいいのね!!」
お母様は叫びながらそう言った。
・・・・この人にとって私の幸せなんてどうでもいいんだ。
「私があなたを神の伴侶に生んであげたのよ!! どうしてその幸せを奪うの!!」
その幸せはお母様の幸せ・・・。私のじゃない。
でも何を言ってもこの人には通じない。
私、お母様に愛されていなかったんだ・・・・。


「その子供は私達を不幸にするわ!! 殺してしまいましょう・・・」
お母様は立ち上がってイスをつかんだ。
「キャアーーー!!」
私は自分に叩きつけられようとしているイスを必死でよけた。
このシュンランと私の赤ちゃんは何があっても守る!!


お母様は執拗に私を追いかけてくる。
ホントに殺される・・・!!
「やめて下さい!!」
声とともにドアが開いた。
・・・・・・・。
額には私の目と同じ蒼の玉。
・・・・サラジュさま?
「シオン・・・・大丈夫か?」
お母様を制止して私の方を見つめた。
「サラジュさま?」
その声言葉に優しく微笑む。
「初めまして、シオン。私と一緒に天水宮に行かないか?」
私の手をとってサラジュさまが言った。
「失礼しました! お怪我はありませんでしたか?」
髪の毛を振り乱し暴れていた姿でサラジュさまに近づいて来た。
「えぇ、大丈夫です。ただ、ベキアの許可なしに人の命を奪うことは神への反逆行為です」
私に微笑んだ時とは違い厳しい表情でそう言った。
「ですがその子供は悪魔の子供です!!」
お母様がまた叫び声をあげた。
サラジュさま相手に叫ぶなんて、狂ってしまっているのかもしれない。
私の責任・・・。
お母様に対して少し罪悪感を感じた。
私を愛していなくても、シュンランと会えたのはこの人が生んでくれたからだ・・・。
それには感謝しなくてはいけない。
「シオンとは来月婚姻の儀を行います。この子供は私の大切な弟の子。私とシオンで育てます」
すごく冷たい目。
氷のような冷たい目をしてお母様にそう告げると、私の手をとってオーニソガラムを後にした。
扉の向こうからは、お母さんの叫ぶような笑い声が聞こえていた。






「すまない・・・シオン」
天水宮についてサラジュさまが私に頭を下げてきた。
「サラジュさま! 止めてください。サラジュさまには感謝しています・・・」
頭を下げるサラジュさまに必死で言った。
あなたは何一つ悪いことなんてしていない。
私の幸せを望んでくれた人。
「私にはもう何も出来ない。だが、シュンランは必ず救います。だから・・・」
サラジュさまは言葉を詰まらせた。
私に伴侶になるように言いたいのだろう。だけど私は純潔じゃない。
「私の妻になっていただけますか?」
顔をあげたサラジュさまがそう言った。
「ですが、私は・・・」
「シュンランを救いたいのです。その子を私とあなたの子としてローレルの人々に伝えます。そうするには婚姻の儀を行わなくては納得されない」
私の手を取り必死でそう言ったサラジュさまの顔はシュンランにそっくりだった。
「ですが、この子は神ではありません。どうするのですか?」
「生まれた子が神でないのは仕方ありません。でもシュンランを救い人々を納得させるにはこれ以外にはない」
・・・・・・・・。
そうなのかもしれない。
私が伴侶になることでシュンランとこの子を救えるなら迷うことなんてない。
「わかりました・・・」
「ありがとう」
サラジュさまは安心したような笑顔を見せそう言った。






2週間がたった頃、サラジュさまと二人でベキアさまのいる天理宮へと向かった。
シュンランの判決についてなんとか善処してもらえるように・・・・。





「シオン、私は悪いようにしないと約束しました。彼を処刑したりはしません」
ベキアさまは優しくそう言った。
その言葉に安心して涙が溢れて止まらなくなった。
「私はもう長くありません。神としては長く生き過ぎました・・・」
普通の人間の平均寿命は70才なのに、神様のほとんどは30才前には亡くなってしまう。
祈りを捧げ、この惑星を守るために力をそそぐからという話を以前シュンランから聞いたことがある。
でもベキアさまは36才。
神様のほとんどは10才になる頃に先代が亡くなり後を継ぐ中、次代のベキアさまはもう13才。
涙が止まらない私の髪の毛をそっと撫でながらベキアさまは呟いた。
「きっとこうしてあなたにもう一度会いたくて、今まで生き延びていたのでしょう・・・」
・・・いつベキアさまにお会いしたんだろう。
どうしても思い出せない。
でもこの方といると心がすごく癒される・・・。
神様だからなのかな・・・?
「ベキアさま・・・私、どうしても思い出せないのです」
ベキアさまは私の言葉にそっと微笑んだ。
「あなたの前世でお会いしたんですよ。シオン」
私の前世?
「あなたの願いを聞き届けたはずが、こんなことになってしまって申し訳なく思っています」
私の願い? 一体どんな・・・?
「あの・・・」
「エリカ・・・」
ベキアさまは私の声を遮ってそう呟き私を抱き寄せた。
・・・・・・!?
エ・・・リカ?
思い出せない・・・。
だけど、すごく懐かしいせつない気持ちがこみ上げてくる・・・。




隣を見るとサラジュさまが驚いた顔をした後、涙をながしていた。
その日ローレルには大雨が降った。





翌日ベキアさまが亡くなった。
シュンランの5ヶ月間の謹慎という判決を残して・・・。









 

 

Update:08.28.2004

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