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眠る記憶

 

第5章 変異(2)  ― 中澤愁哉 ―






『い・・・や・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『シュンラン!! やっぱり、死んでなんかいなかった! すごく怖い夢を見たの!』
さっきのシオンの言葉と涙が頭から離れない・・・。
オレが死んだ後にあんなに辛い想いをしていたなんて・・・。
まだ思い出していない記憶にもしもっと辛い記憶があったら・・・そう思うと胸が苦しい。
シオンが一番辛い時に側にいてやれなかった、守ってやれなかった。
今のオレに何かできることはないんだろうか・・・。
大罪を犯したにもかかわらずサラジュのおかげでこうして転生できた。
今度こそシオンのために何かしてあげたい。


これからまたあんな辛い想いをすることがあるんだろうか・・・。
それとも子供と幸せに暮らせたんだろうか・・・。
サラジュならオレの死後の記憶がほとんどあるはずだ。
あいつに聞けば何かわかるかもしれない。
オレのやるべきこと、してあげられること。
これからもし今日以上に辛い記憶が戻るようなことがあるなら支えてやりたい。
いや・・・そうじゃなくてもこの地球でオレたちは神の伴侶でも禁忌の子でもない。
障害は何もない。

ずっと側にいたい・・・。
シオンの側に今度こそずっと。
今度こそ1番側で・・・守ってあげたい。




”プップー―――!!”
・・・・・・・オレは何を考えているんだ?
後ろの車のクラクションの音でやっと我に返った。
何が障害は何もないだ? 
オレには彩も羽月もいる、オレが守っていくべき大切な存在はその二人との生活だ。
それ以外のことを望んではいない!!
オレは中澤愁哉であってシュンランじゃない!
何だって言うんだ? 
オレの意識が完全になかったような気がする。
シュンランになっていたような・・・中澤愁哉の記憶がなくなっていたような気がする。

うわ・・・頭が割れる・・・。
頭が痛い・・・オレはどうなってんだ?
なんとか車を駐車場にいれてシートを倒す。
熱があるんだろうか・・・頭がボーっとする。
『シュンラン!! やっぱり、死んでなんかいなかった! すごく怖い夢を見たの!』
やめてくれ・・・!
さっきの光景が何度も頭の中で繰り返される。
これ以上オレの心を乱さないでくれ・・・。
自分が自分である自信がなくなっていく・・・。
考えてはいけないことを考えてしまっている。
考えたくないことを考えている。
シオンの側にずっといたいって、そう考えてしまいそうになる・・・。





オレはシオンの涙には昔からずっと弱いんだ。















「おかえりー、ちょっと待っててね」
家の玄関のインターホンを鳴らす。
そこから聞こえてくる女の人の声が妙に懐かしい。
オレはどうしてここのインターホンを押したんだろう。


「おかえり! 羽月はさすがに寝てしまったよ! おつかれさまー」
ドアから女の人が迎えてくれる。
・・・誰だ?
「どうしたの? 変な顔して、愁哉?」
シュウヤ? 一体何のことだ? 誰のことだ?
「具合でも悪い? とりあえず中に入んなよ」
招き入れられ入るとおでこに手を当てられる。
なんだろう、すごく落ち着く・・・。
オレにはシオンがいるのに・・・どうして初対面のこの女の人にこんなに安心感をもてるんだろうか・・・。
彼女は一体誰だ?
「熱はなさそうだよ、きっと疲れてるんだね。ご飯できてるよ! 食べれる?」
この笑顔、すごく懐かしい。
色々なシーンが頭の中を駆け巡る。
すごく幸せな記憶だ。
この女の人との思い出・・・?


・・・彩? ・・・彩だ!
オレは・・・どうしたんだ?
一瞬、自分のことを完全にシュンランだと思っていた。
今までのように意識が隠れるというよりは、自分がシュンランになっている。
オレの記憶がどこかに行ってしまっていた・・・。
どうしてだ? 記憶が戻ってからも今までこんなことなかったのに。
オレは・・・本当は誰なんだ?
今ここにある現実すべてがニセモノのように思える。
怖い・・・急に不安が襲ってくる。
なんなんだ、一体。
オレは中澤愁哉? シス・レン・シュンラン?
「愁哉、今準備するから着替えて待ってて」
彩・・・オレは本当に中澤愁哉だよな・・・?



「彩!」
キッチンでおかずを皿に盛っている彩を抱きしめた。
「どうしたの? 今愁哉くんの夜ご飯の準備中だよ? 邪魔ですよー」
この声、この香りに安心する。
毎日見ている日常の風景がすごく幸せに感じる。
「彩・・・」
また声が聞きたくて呼ぶ。
ずっとこの声を聞いていたい。
彩との生活がほしくてほしくてやっと手に入れた。
これが現実であってほしい。
「なんですかー? 全く、困ったお父さんですねー」
こんな風にからかってくる話し方も本当に嬉しい。
彩のことが好きで好きでやっと自分の側にいてくれることになって、こうして結婚できた。
彼女の側にいると願ったことがなんでも叶ってきた。
彼女の応援がオレを支えてくれたから・・・。
だから全て叶ってきたんだ。
これからも・・・ずっと側にいて欲しい。



「何かあった?」
心配そうにオレを見上げる。
この顔が大好きで、可愛くて仕方なくて・・・。
「なんもないよ。悪い、心配した?」
言えるわけがない、ウソをついてるようで少しイヤだけど心配かけたくない。
・・・・・。
「心配してないよ、応援はしてるけど」
そう言って彩がオレにそっとキスしてくれた。
オレの気持ちがきっとなんとなくわかってる。
彩はいつもオレの欲しい言葉を的確に捉えて言ってくれる。
何度その優しい言葉に救われてきただろう。
「愛してるよ、世界で一番・・・」
そんなこと言ったの何年ぶりだろう・・・。
恥ずかしくて思っていても普段なら絶対言えない言葉。
彩も驚いたような顔をした後に嬉しそうに笑った。
本当に心からそう思っている。
羽月がいる、彩がいる、ここはオレの帰るべき家だ。
自分が自分であることに疑問を抱くなんてどうかしてる。
彩を抱きしめてようやく自分が中澤愁哉であることを確信できた気がする。











「ずっとオレの側にいてくれ・・・。何があってもずっと・・・」
そう言いながらオレは彩を強く抱きしめていた。
なんで急にそんなことを言ったのだろう。
何があっても、って何も起きてほしくない。
彩をこうして抱きしめているのになんだろう、この胸騒ぎは・・・。
安心と不安が交じり合ってなんとも言えない気持ちが胸に広がる。
シュンランが何かしようとしてるのか?
・・・もうあの二人に会わないほうがいい。
これ以上何も思い出したくない。
何も知りたくない。
だからそっとしておいてくれ・・・オレはこの生活以外の何も望まないから。






頼むからシュンラン・・・オレをこれ以上おかしくしないでくれ・・・。








次の日、仕事中電話がきた。
シオンからだった。
その声がすごくせつなくて、胸が苦しくなった。
顔が見えないのに会話ができるから、ローレルでのコキアを思い出した。
あの時もいつもせつなくて、胸が苦しくて、でも会えるのが楽しみで・・・。


オレは会いに行く、そう約束してしまった。
会いたくて、側にいたくて、どうしようもなかった。
シオンを愛してる・・・この世の誰よりも・・・。



現実はどっちなんだ?
オレは一体誰なんだろう・・・。









 

 

Update:09.17.2004

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