眠る記憶
第5章 変異(4) ― 倉田 花凛 ―
子供の頃からずっと一緒に過ごしてきた龍にはなんでも相談したし、泣き言もたくさん言った。 高校の時、龍のクラスメイトの男の子を好きになった時もそうだった。 龍がその男の子を含めて遊びに行くことを計画してくれて、それをキッカケに彼と仲良くなった。 それでも中々気持ちを言えなかったあたしに、龍は色々アドバイスしてくれた。 遂に告白できて、付き合えたときは本当に嬉しかった。 龍は子供の頃からなぜか人気があって、中学生の頃からあたしがその男の子と付き合った頃まで彼女が途絶えたことはなかったと思う。 なのに、それからずっと彼女がいない。 そんな龍に付き合ってからもたくさん相談したり、今日合った出来事を報告したりしてた。 それはあたし達にとってはなんてことない日常だった。 彼から「オレが好きなの? それより朝井が好きなの? なんで付き合ってる男がいるのに他の男の家行ったりするの?」そう言われた。 最初は嫉妬されてるのが嬉しかったけれど、段々彼の口調が厳しくなってからは言われた言葉について考えるようになった。 彼のことは好きだった。 龍のことは・・・好きかどうかなんて考えたことがなかった。 だって龍は龍だし、それ以上か以下かなんて考えたこともなかったし。 それに、あたしにとって龍と一緒に過ごした時間は自分の人生の一部じゃなくて人生そのもの。 だから彼に龍とこれからも会うなら別れようって言われた時は本当に悩んだ。 龍にも相談した。 龍は「オレとハナは家も隣だし、完璧に会わないなんて無理な話だろ。でもあいつがそれだけハナのことが好きなんじゃないの? どのみちオレとハナの関係は一時的に会わないくらいでどうにかなるもんでもないし、あいつの言う通りになるべく会わないようにしたら?」 目からウロコだった。 彼のことは好きだった。 龍のことは・・・会わないことも、どうにかなる存在でもなかった。 要するに彼と龍とを量りにかけた時に、龍のほうが大きく傾いたってこと。 1年後2年後を想像した時に彼のことを好きでいることより、龍と一緒にのんびりしている姿の方がハッキリ浮かんだ。 だったら時間の無駄かなって。 龍への気持ちは決して恋愛感情ではなかったけど、絶対にいなくなってほしくない人だった。 なんだって相談して、愚痴って、いつまででも一緒にいたかった。 初めて龍に秘密をつくった。 今彼と一緒にいることを言えないでいる。 顔を合わせづらくて、会ってもいない。 きっと龍に嫌われる。 愁哉と過ごす自分の1年後、2年後の姿を想像することはできない。 でも一緒にいたい、そう思う自分がいる。 無駄な時間だとは思いたくない自分がいる。 これはあたしがシオンだったから? 前世で結ばれなかった気持ちを今叶えようとしているの? 今一体あたしは誰? 花凛なのか、シオンなのか自分でも今どちらかなのかわからない!! 愁哉さんの左薬指にはシルバーに光る指輪。 仕事の帰りだから今の服装はスーツ。 そのYシャツはきれいにアイロンのかけられている。 こんなことしてちゃいけない! どうしたらいいんだろう。 自分の感情が一体誰の感情なのかわからない。 こんなのただの不倫だ。 あたしはこんなの望んでいない。 もう会ってはいけない! 奥さん可愛い人だった。 娘さんもすごく可愛くて、愁哉さんにすごくなついてた。 幸せそうな家族だった。 誰か助けて・・・。 お互いなんとか理性をたもててる。 会ってたまに食事して、話をして、抱きしめあって、それで家に帰る。 ・・・・・・? ここは本当に私の家なの? ここがあたしの帰る家だよ! 忘れないで! 私のいるべき場所はここではない。 シュンランの側、そこだけが私が私でいられるたった一つの場所。 |
Update:10.08.2004
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