眠る記憶
第6章 迷走(1) ― 中澤 愁哉 ―
“ガサッ” 誰だ? オーニソガラムに入ったことがばれたらせっかく自由になったのに外へ出られなくなってしまう! どうしよう・・・。 涙で濡れた目をこすりじっと様子を見た。 ・・・・・・・・・女の子だ! うわ・・・初めてこんなに幼い女の子を見てしまった・・・。 何かあったのかな? 目が真っ赤に腫れている、オレと同じだ。 すごい警戒した顔をしている。 そりゃそうだよな、ここに男がいるなんてあり得ないんだから。 ・・・・・どうしよう、なんか言い訳しないと! 言葉が出ない・・・・。 告げ口されたら大変なことになるのに!! 「誰?・・・」 心臓が大きな音を上げた。 「オレはっ・・・シュンラン」 あはは・・・声裏返ったよ、恥ずかしい。 恥ずかしすぎて顔を上げられないよ。 「ふふっ・・・あはははははははははは」 え・・・? すごい笑顔で笑ってる・・・バカにされてる? でも・・・笑った顔、すごい可愛いな。 なんか、この子が笑うとオレもすげー嬉しい。 「あはははははははは」 オレもいつの間にか嬉しくて笑ってしまった。 こんなに満たされた時間はオレの今までの9年間の人生で初めてかもしれない! すっげー楽しい!! この女の子はなんて名前なんだろう! 「君は?」 ん? 一瞬気まずそうな顔をしたような気がする。 なんかまずいこと聞いたかな? 「シオン」 「シ・・・オン?」 なんか気まずい空気の中、彼女が答えてくれたから思わず聞き返してしまった。 「うん、シオンだよ! よろしくね、シュンラン」 笑った・・・また笑ってくれた! この位の女の子はみんなこんなに可愛いのかな? なんだろう、初めて会ったのにそんな気がしない。 「シオン」 「何?」 「なんでもない」 「え〜っ! あはははは」 「あははははは」 名前を呼んだらすぐに返事をしてくれる人がいる。 笑ってくれる。 こんな幸せ本当に初めてだ!! なんか、こんなくだらないこと人に話したことあったかな。 ないよな、きっと!! あ〜今がずっと続くといいのに!! 「シオーン! どこにいるのー?」 ん? シオンを呼ぶ声が聞こえる。 なんだかシオンの元気が急になくなった気がする・・・。 どうしたんだろう。 「行かなくていいの?」 ・・・・・・・・・? さっきまでの笑顔が完全になくなってしまった。 あ・・・さっき泣いていたこととなんか関係あるのかな? 「シュ・・・ウ・・・ヤ」 ・・・・・・ん? 今誰かに呼ばれた? 「シオーン?」 なんだ、聞き間違いか・・・。 「シュウ・・・・ヤ」 シュ・・・ウヤ? 一体誰のことを呼んでいるんだ? ん? 段々シオンが遠くなっていく・・・。 イヤだ! 離れたくない! また一人になってしまう!! 「ヤ・・・シュウヤ」 誰の声なんだ? なんだろう・・・ひどく懐かしいような声。 そっちに行きたい。 温かな何かが待っている気がする。 でも・・・シオンを置いていきたくない。 シオンの側にいたい・・・。 守ってあげたい!! 「や・・・・・・・・愁哉?」 え・・・? 夢? だったのか? 「どうしたの? なんだか汗びっしょりかいてうなされていたから、起こしちゃった。大丈夫?」 ・・・・・・・・え? 「・・・・・・・誰?」 ここは・・・どこだ? 「え? 何言ってるの? あ、起こしたから寝ぼけてるのかな? 彩ちゃんだよ〜!」 ア・・・ヤ? この顔・・・初めて見るのにどうしてこんなに胸が幸福感でいっぱいになるんだろう。 「ん? まだ寝ぼけてるの? も〜自分の奥さんの顔くらい寝ぼけてても忘れないでよね」 奥さん・・・・? オレの? 「シ・・・オンは?」 そうだ! シオンはどこだ? 急いで起き上がって周りを見渡した。 え・・・? ここはローレル・・・じゃない。 「愁・・・哉?」 ・・・・・? さっきもそう呼ばれた気がする。 オレの名前は・・・シュンランじゃないのか? 「おーい、愁哉? 大丈夫? どうしたの?」 「あ・・・」 彩だ・・・。 オレは・・・中澤愁哉・・・? 「彩・・・。中澤愁哉だ・・・よな、オレ・・・」 怖い・・・前にもこんなことがあった。 彩のことがわからなくなった。 どうして? 一体なんだ? シュンランは一体オレをどうしようっていうんだ? どうしてオレの幸せを壊そうとする? 「どうして!!」 オレはどうしようもなくて布団を思いっきり叩いた。 涙が溢れて止まらなくなった。 オレは・・・中澤愁哉・・・だよな? 今までの27年間の人生はすべて夢だったとかじゃないよな? 「愁哉・・・どうしたの? 怖い夢でも見た? 大丈夫だよ、あたしはここにいるから」 彩・・・。 泣いているオレを彩は優しく抱きしめてくれた。 彩にオレの泣いている理由を言ったほうがいいのだろうか? オレは前世の記憶に翻弄されてるって? 自分が自分である自信が無いって? そんなの彩に言えるわけが無い。 心配を通り越して嫌になられるかもしれない。 そんなのは嫌だ! 彩を失うなんて考えられない。 この生活を失うなんて考えられない。 「あれ・・・? 羽月(うづき)起きたの?」 気がつくとベッドの横に羽月が立っていた。 オレと彩が寝ているベッドの横に、羽月のベッドがある。 オレの泣き声で起きてしまったのだろうか。 「パ・・・パ?」 「え・・・?」 羽月は笑顔で両手を広げた。 「今パパって言った? 羽月・・・」 彩は羽月を抱いてベッドに乗せながらオレの方を見て言った。 「言った・・・」 「言ったよね? あはははは! 羽月が話したね!」 「うわ・・・・やばい! オレめちゃめちゃ嬉しいんだけど」 オレは彩と羽月を抱きしめた。 いつの間にか涙は止まっていた。 羽月は嬉しそうに笑っている。 そうだ! オレに二人がいる・・・。 絶対にこの幸せな生活を守りたい! 二人のことを忘れるなんて嫌だ!! もう今度こそ本当に花凛には会わない。 会いたくない・・・・・・。 この幸せを失ってまで手に入れたいものは何もないんだ。 誰でもいい! オレのこの幸せを守ってくれ。 シュンランの記憶から守ってくれ!! 「シュンランさん、お茶入れますね」 「あ、すみません! どうぞ気をつかわないで下さい! でも、本当にすみませんでした。お母さんにもご迷惑をおかけしてしまって」 やっと自分の部屋に戻ってこれた。 ベキアさまの判決は本当に驚いたけど、本当に嬉しかった。 だから今日までの1ヶ月はオレにとっては苦痛でもなんでもないし、これからの5ヶ月の謹慎だってなんてことない。 シオンと子供の側にいられない・・・それは本当に辛いことだけれど、二人の命が守られただけでも幸福だと思わなければいけない。 それに、シオンのお母さんには辛い思いをさせた。 なのにこうしてオレに会いに来てくれた。 こんなに嬉しいことはない。 この先シオン以外に愛せる女性に出会えなくても、自分の人生に満足できる。 サラジュならシオンと子供をきっと守ってくれる。 「さぁ、どうぞ。温かいうちに召し上がってください」 「ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした」 シオンのお母さんにはどんな復讐をされてもきちんと受け止めようと思っていた。 きっとオレ達がいなくなったことで、回りから冷ややかな対応をされていただろう。 その気持ちはオレはきっと誰よりもわかる。 辛くて気が狂いそうになったことだってあった。 サラジュがいてくれなかったら、そうだったかもしれない。 お母さんはシオンを苦しめた人とはいえ、彼女をこの世に生み出してくれた人だ。 オレとシオンが出会えたのも、この人のおかけだ。 だから、本当にどんな償いでもしようと思った。 でも、こうして目の前で優しく笑いかけてくれる。 たとえそれが――――――――――。 「きゃーーーーーっははははははははははは!! 悪魔をついに葬ったわ!! きゃーはははは!!」 遠くで声が聞こえる。 意識が遠のいていく。 そうだ・・・・オレは・・・・死ぬんだ。 「ヤ・・・シュウ・・・ヤ」 この声は・・・とても優しい声。 温かいオレの大切な人の声。 そうだ・・・この声の方に行けばきっと幸福が待っている。 「・・・・シュンラン!!」 この声は・・・シオン!? 「イヤよ、あたしを一人にしないで。おいて行かないで」 そうだ、オレはシオンを守るって誓ったんだ。 オレの行くべき場所はあの温かい声のほうじゃない。 シオン・・・・・・・・そう、シオンの側だ。 そこがオレの行くべき場所。 でも、あの温かい声は一体誰の声? さっきまでわかっていた気がするのに、今はもうわからなくなってきた。 忘れたくないのに・・・・・思い出せない。 誰の声だった? 誰だった? そこはオレにとってどんな場所だったんだ? 「・・・あ、やっと起きたね! 愁哉、朝だよー!」 ここは温かい。 ここに居たい。 でも・・・・・・・・。 「・・・・・・・・君は・・・・・誰? シオンはどこ?」 オレの行くべき場所はただ一つ。 シオンの側。 |
Update:10.15.2004
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