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眠る記憶

 

第6章 迷走(2)  ― 朝井 龍 ―






ここは・・・・・・・・・・・?
そうか・・・またオレはローレルでの夢を見ているんだ。
あれは、サラジュ?











オレの意識が少しずつサラジュの中にとけていく。
最近毎日のように眠るとローレルに連れ戻される。
そのたびに次に目が覚めた時に自分が『朝井龍』であるか不安になる。
ハナはハナであるかが不安になる。











サラジュ? オレにサラジュの頃の記憶を取り戻させてどうしたいんだ?
・・・・・・・・・・・・・。
また二人の背中を押してやるのか?
・・・・・・・・・・・・・。
オレは嫌だよ、絶対にそんなことしたくない。
・・・・・・・・・・・・・。
どうしてってそんなこと知らないけど、なんか嫌なんだよ。
・・・・・・・・・・・・・。
なぁ、どうしたいんだ? 二人のために何かしたくて祈っていたんじゃないのか?
・・・・・・・・・・・・・。
じゃあ、一体なんのために祈っていたんだ?
・・・・・・・・・・・・・。

















また、サラジュの記憶の中に行くのか・・・・・・・。

















嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感が。
シオンの体調が突然おかしくなったのもこの予感と関係しているのだろうか?
・・・まさかシュンランに何か?
イヤ、そんな予感は絶対に外れる。
考えること自体不謹慎だ。
大丈夫だ、大丈夫だ・・・絶対に大丈夫だ・・・。




















シュンラン何かあったことに気づいたオレは、クラフトを使い必死で彼のもとへ向かった。
この時、オレ・・・サラジュは予感が外れることをひたすら祈った。
だけど、近づくに連れてだんだん嫌な予感が当たっているのを感じていた。
シュンランとサラジュを結んでいた何かがぷっつりと切れたのを感じたからだ。
それでも必死でそれに気づかないフリをしていた。
サラジュは、自分の犯してしまった罪を認めたくなかったんだ・・・。






















「きゃーーーーーっははははははははははは!! 悪魔をついに葬ったわ!! きゃーはははは!!」
・・・・・・・・・・・・・・!?
「シュン・・・ラン・・・?」


これは・・・夢だ。
そうでなければ幻だ。
そうだ、そうでなければおかしい。
シュンランは息をしていないし、私の名前を呼んでくれない。
ただ床に倒れているだけで、体温を感じない。
そうだ、夢なら早く目覚めなくては・・・。
私はこんな縁起の悪い夢をどうして見ているのだ。
早く、早くこの夢から抜け出さなくては!!






「きゃーーーーーっははははは!! サラジュさま! これで二人を邪魔する悪魔はもういなくなりました!」
この女は一体何を言っているんだ?
「きゃーっはははは! ついに、ついに!! きゃーっはははははは!!」
これは夢ではない・・・?
今目の前に倒れているのは幻ではない?
そうだ、シュンランの遺体・・・これは現実なんだ。


「シュンラン!! シュンラン!!」
どうして返事をしてくれない!
どうして目を開けてくれない!
「どうして!!」
息が上手く出来ない。
涙が止まらない。
頭が痛い。
気持ちが悪い。
一体どうしてこんなことに!!






「私が悪魔を退治しました!! ローレルはこれでやっと救われるのです!! きゃーっはははは!!」
こいつが私のシュンランをこんな目に合わせたのか?
この女が、私にこんな苦痛を与えたのか?





・・・・・・・・・コロシテヤリタイ。











「サラジュさま、これで安心です! シオンを連れ去る悪魔はこの世にはもういません! 私はローレルの民を幸せ守ったのです!! きゃーっはははは、あーっははははははは!!」






ローレルの民の幸せ?
シオンを連れ去る悪魔?






シュンランが・・・?






シオンに助言したのは私だ。
二人が天空宮を離れることを知っていて、何もしなかったのは私だ。
二人が幸せに暮らせることを祈って、その為に送り出したのは私だ。






じゃあ、なぜ二人は幸せになっていない?
どうしてシュンランは死んだんだ?






何かが引っかかる。
自分の心の中に大きな重りを背負わされているような気がする。
どうしてだ?
シュンランを殺したのはシオンの母だ。
私は神として正しい判断をしたのだ。
殺意は一瞬持ったが実際は何もしていない。
私は何もしていない。






・・・・・・・シュンランを死に追いやったのはシオンの母親だ。












「・・・あなたに、大切なお話があります」
そうだ、シオンにはきちんと伝えた方がいい。
「シュンランが・・・」
思い出すのはとても辛いけど、シオンには本当のことを言うのが正しいのだ。
「亡くなりました。・・・あなたの・・・お母さまの手によって・・・」






どうしてだろう・・・。
心が少し軽くなったような気がする。
シュンランの遺体を見てから今まで心につっかえていた何かが取り払われたような・・・。
呼吸もだいぶ楽になった。










「い・・・や・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」










・・・・・・・・・・・・・・・・。
このシオンの悲鳴にも似た叫び声でサラジュはやっと我に返った。
そして自分の胸に圧し掛かっていた重りの意味がわかった。


















シュンランの死は・・・・・・・。
・・・・・・・・私が招いたことなのだ。















そのことにサラジュはやっと気づいたんだ。
二人の幸せを願い背中を押し、シオンの母親を狂わせ、その結果シュンランが死んだ。
その現実を自分の責任にしたくなかった。
すべてがシオンの母親のせいなのだと言い聞かせたかった。
この時のサラジュはローレルの人々の安定と幸福を祈る神ではなかった。
人を憎み、人を憎み、自分の引き起こした悲劇からも目を背けた。
サラジュは人間そのものだった。






















「ベキア!! 頼みがある、どうか聞き届けて欲しい・・・」
シュンランを助けたい。
今の私が弟のために出来ることはたった一つ。
彼が転生し今度こそ幸福な人生を送ること。
結婚し、子供を育て、ベッドで家族に見守られて死んでいく普通の人間として過ごして欲しい。
それができるのなら何をなくしてもかまわない!






「・・・シュンランの魂を救ってくれ!」
体が震える。
これも自分の罪から逃れようとしているだけなのだろうか?
目から涙が溢れて止まらないのも、自分の罪を洗い流そうとしているだけなのだろうか?






もしそうであったとしてもかまわない。
この願いが叶わないのなら私の命と交換したっていい。






どうかシュンランに幸せな一生を送らせてあげてほしい。




























この時サラジュはすでに自分が神であることを忘れていた。
自分の願いを聞き届けてほしい、その気持ち以外はすべてどこかに置き忘れていた。
こうやって、サラジュの視点で客観的に見ることが出来る今ならわかる。
サラジュもこの時おかしくなっていたんだ。






そうだ、オレが地球に転生した理由は・・・・・――――――。























「・・・私はサラジュに言わなければならないことがあるのだ」
















・・・・・・・・・・・・あれ?
こんな場面今まで見たことがない。
オレが思い出せないでいた記憶の1つだろうか?
















「・・・・・・シュンランは転生させる。それが先代のベキアの遺言だから。・・・それとサラジュとシュンランにも伝言があるんだ。・・・先代が亡くなってだいぶ経っているが、私の心の整理に時間がかかってしまった。・・・その間にこんな結果になってしまった。シュンランには伝えることが出来なかった。申し訳ない」
「ベキアが・・・? 一体私に何を?」
ベキアは一瞬私から視線を逸らしたが、ゆっくりまたこちらを向いた。


「・・・サラジュの伴侶であるシオンの前世『エリカ』と弟シュンランについてのことだ」
シオンの前世?
ベキアがいつか言っていた『エリカ』のことだろうか?
私は『エリカ』という名前の女性を知っている。
私とシュンランにとってとても大切な人だ。
その女性のことをベキアから聞いたときに、昔のことを思い出し涙してしまったほどだ。
・・・・・・・・何か関係あるのか?


「なぜ水を司る神サラジュが双子として産まれたのか、シュンランが理を司るクラフトを持って生まれたのか」
どうして先代のベキアと『エリカ』のことが私とシュンランが双子だということと関係するのだろうか・・・。



・・・・・・!?
まさか・・・。



「『エリカ』はサラジュとシュンランの実の母親だ。そしてシュンランの父親は・・・」
まさか・・・そんな・・・。
でもそう考えると父がシュンランにどうしてあんなに冷たい視線を送っていたのか、母に手を差し伸べなかったのかのつじつまがあう。















「シュンランの父親は・・・・・・・・先代のベキア、私の父だ」









 

 

 

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Update:10.22.2004

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