眠る記憶
第6章 迷走(4) ― 朝井 龍 ―
宮ちゃんからメールが来て、大学からそんなに離れていない居酒屋で飲むことになった。 高校の頃からオレは担任でもない宮ちゃんに進路や悩みを相談していた。 普通の先生と違って、オレの目線になって色々アドバイスをくれるのが嬉しかった。 外見はかなりカッコよくて先生には見えないけど、話をするとやっぱり先生だなって思う。 たった6歳しか離れていないのに、宮ちゃんはやっぱり大人だ。 6歳・・・オレと宮ちゃんの年の差と同じだけシュンランとオレの年も離れてる。 それはオレが死ぬ6年前にシュンランは死んだから。 愁哉さんの親友が宮ちゃんだった。そして、オレの信頼できる先生が宮ちゃんだったことの二つも少し運命的なものを感じてしまう。 でも、良かった。 転生したシュンランの側に、宮ちゃんがいてくれて。 きっとローレルでは味わえなかったたくさんの幸せを手に入れてくれた。 シュンランが転生したことは、きっと間違いではなかった。 「朝井は愁哉とはいつから知り合いになったの?」 「え・・・?」 ドキっとした。 オレ、今一瞬思いっきり顔に出てなかった? 「どうした? なんかすごい驚いた顔だけど」 「え? イヤ、愁哉さんとはまだ知り合って1ヶ月経ってないよ。夏休みの進路相談でお世話になったんだ」 ウソは言ってない。 「あ・・・もしかして、愁哉が救急車で運ばれた時に一緒に運ばれた学生二人って、朝井? ともう一人は前一緒に歩いてた女の子?」 「え、なんで知ってるの?」 「同じ学園内だからすぐウワサは入ってくるよ。それに職員が愁哉だったしね」 あー、なるほどって・・・勘良すぎじゃないか? 進路相談受けてる学生も職員もくさるほどいるのに。 「あ・・・そうだよね。なるほど」 なんか、宮ちゃんってウソとかついたらすぐばれそうなくらい見透かされてる気分になる。 だからついつい素直に何でも話せてたってのもあるかもしれない。 「そうだ前に愁哉と朝井と一緒に歩いていた女の子って彼女?」 ・・・・・・・・・・・・・? 「女の子ってハナのこと? 違う、全然違う。ただの幼馴染兼ハトコ」 宮ちゃんってば、いつも突然変なこと言うよな。 「そうなんだ。でも朝井は好きなんだ、そのハナちゃんって子のこと」 「違う、違う・・・。子供の頃から毎日一緒にいて、なんていうか・・・空気みたいな存在? 好きどころか最近むかついてしょうがない」 ハナに会ってないことも少しむかつくし、本当はオレに何も言わないで愁哉さんと会ってるのもイラつく。 「何でむかつくんだよ?」 宮ちゃんは少し笑いながら言う。 何でだろうか。 オレは自分では同年代の中ではわりと大人な方だと思ってたけど、宮ちゃんの前だと子供みたいになってしまうな。 「何でって・・・ずっとあいつはオレに隠し事とかもしなかったのに、するようになったこと。しかも隠し切れてないのがまたムカツク」 愁哉さんのこと本気で好きなんだろうか。 それとも、シオンの意識とシュンランの意識が二人を引き合わせているんだろうか。 サラジュならそんな二人のことを応援するんだろうか? でも・・・オレはしたくない。 オレはそんなの認めたくない。 「やっぱり朝井はハナちゃんって子が好きなんだな」 ・・・・・・・・・え!? 「オレの今の話聞いてた? ムカツクって言ったんだけど・・・」 宮ちゃんは笑って頷いてくる。 ちゃんと聞いていたんだろうか? 「いいな、朝井は。オレがお前くらいの頃なんて好きな人もいなかったし、恋人なんて全然だったしな」 「うそだよ、宮ちゃんにいないわけないでしょ」 こんだけいい男を男子校ならまだしも、共学でほっておくわけがない。 「ホントだよ。愁哉は朝井くらいの頃に、彩ちゃんと付き合いだしたんだけどオレは全然ダメだったな」 「彩ちゃんって愁哉さんの奥さん?」 可愛い感じで優しそうな人だった。 一緒にいた娘さんも奥さんに似て、大きな瞳が印象的だったな。 「そう。彩ちゃんはマネージャーで、オレと愁哉は選手で。確か大学2年生の冬くらいから付き合いだしたんじゃなかったかな」 「へーっ、すごいね。大学時代にそんな人に会えるなんて。オレなんて結婚したいと思った人に会ったことないよ」 それどころか大学に入ってから彼女どころか好きな人もいない。 「わかんないよ、もう会ってるかもしれない。愁哉だって最初は彩ちゃんのことマネージャーとしてしか思ってなかったのに些細なきっかけで好きになったわけだし。どんな出会いでもどうなるかなんて誰にもわかんないんだよ」 どんな出会いでもわからないか・・・。 それって愁哉さんに奥さんがいても、ハナとこれからどうなるかわかんないって聞こえる。 「ねー、愁哉さんと奥さんって今でも仲いいの?」 そんなに昔から付き合ってるなら、もしかすると上手くいってないってこともあるかも。 ・・・どうしてこんなに気になるんだろう。 ハナが不倫に走ろうとしてるから? それともシオンに意識を取られてシュンランに気持ちが向いてるから? 「仲いいな、あの二人は。本当にお互いを大切に思ってて、助け合ってて。見ててオレなんか羨ましかったよ」 「そうなんだ・・・。ならいいんだけど」 確かに愁哉さんが倒れた時に、病院にいた奥さんは本当に心配そうだった。 だったらどうしてハナと会うんだろう。 やっぱりシュンランの意識が愁哉さんを支配しようとしてるんだろうか? それともハナを好きになったんだろうか・・・? 「なんだ? 朝井、愁哉にやきもちでも妬いてるのか?」 ・・・・・・・・・やきもち? って嫉妬のこと? 「どうしてオレが愁哉さんに嫉妬するの?」 でも嫉妬か・・・。 考えもしなかったけど・・・オレが愁哉さんに嫉妬してる? 「ハナっていう幼馴染の子の話の後に愁哉のこと聞くからそうかなって思ったんだ。でも大丈夫だ、愁哉は浮気するようなヤツじゃないよ。彩ちゃんのこと本当に大事にしてるから」 「それってオレがハナを好きって意味? 宮ちゃんこだわるね」 こだわるけど・・・オレもしかして。 宮ちゃんはオレの言葉に笑った。 「悪い悪い・・・。でもオレは愁哉のことすごい羨ましかったな」 「なんで? 恋人がいたから?」 「うーん・・・なんていうか、二人は結婚するんだろうなって大学の頃から思ったくらいお互いを大切にしてたからかな。朝井がその女の子を空気みたいだって言ったみたいに、本当に自然にいつも一緒にいて、幸せそうで。だからかな?」 ハナは空気みたいだ。 本当にいつも一緒にいて、それが当たり前で。 一緒にいないとなんだか物足りなくて、少し不安になる。 いつかオレ以外の誰かと一緒にいるようになるんじゃないかって。 昔ハナに恋人が出来た時に、「一時的に会わないくらいでどうにかなるもんでもない」そんなことを言ったことがあった。 それは不安に思う気持ちをハナに知られたくないっていう強がる気持ちと、いつか本当にオレから離れた時への願いでもあった。 オレはもしかして宮ちゃんの言う通りハナが好きなんだろうか。 だからハナに恋人が出来て以来、誰に告られても断るようになったんだろうか。 なんとなく、自分の時間を奪われるのがイヤになった。だから断るようになった。 それはハナと一緒にいられる時間が永遠じゃないってわかったから、無意識のうちに出来るだけ一緒にいたいと思ったんだろうか。 「宮ちゃんってすごいね。オレも知らなかったオレの気持ちわかるなんて・・・」 口に出してみるとハッキリわかった。 オレは自分でも気づかなかったけど、きっと子供の頃からハナが好きなんだ。 「あはははは、朝井お前かわいいな」 「でしょ? オレもちょっとそう思ったよ」 宮ちゃんが笑いながらオレの頭を撫でる。 本当にオレはこんな簡単な気持ちに何年間も気づかなかったとは。 「ねー、宮ちゃんは恋人いないの? 親友の愁哉さんが結婚してるけどしたいとか思わないの?」 高校の頃は本当かどうか知らないけど、いないって言ってた。 「いるよ。でもまだ結婚はしないな。向こうはまだ学生だから・・・」 ・・・・・・・・!? 「マジ?! え? オレより年下? まさか高校生じゃないよね? ・・・・・あ、大学院とか?」 そうだよ、宮ちゃんに限って高校生はないだろう。 「朝井の想像に任せるよ」 「えぇ? じゃあ、女子高生と付き合ってるって思うことにするよ」 オレは意地悪な顔で言った。 宮ちゃんはポーカーフェイスでビールを飲んでいる。 「宮ちゃん、今日はありがと。オレ、ハナに対する気持ちわかって少しスッキリしたよ」 別れ際、オレは宮ちゃんにそう言った。 宮ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。 話を聞いてる限りでは愁哉さんはきっと奥さんを大切に思ってる。 ならばきっとシュンランの意識が愁哉さんをハナと引き合わせてる。 ハナはどうなんだろうか? シオンが意識を奪ってるんだろうか? もしシオンとシュンランとしての記憶が二人を引き合わせているのなら、絶対に元に戻す。 ハナが本気で愁哉さんを好きだとしても、絶対に渡さない。 二人がうまくいっても誰も幸せになれない。 あの時のように、たくさんの人を不幸にし、二人を不幸にする。 オレはそんなことを望んで、二人に転生してほしかったんじゃない。 ローレルでオレがしたことは二人を不幸にしただけだった。 二人を幸せにするつもりでしたことは、ただ単に自己満足に過ぎなかった。 自分達がしなくてはいけないすべてのことを放棄した。 生まれてきた立場を恨んだだけで、その環境で幸せになることを考えなかった。 すべての歯車をおかしくしたのは、オレだ。 まずハナに会わないとだめだ。 ハナに会って、あいつの状態を知りたい。 逃げていたらダメだ。 |
Update:11.21.2004
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