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眠る記憶

 

第7章 混迷(3)  ― 朝井 龍 ―






「――― ・・・信じてくれる? 今オレが言ったこと」
宮ちゃんは何も言わない。
そりゃそうだよな。オレが宮ちゃんの立場だったら信じろって言われても困るよな。
けど。
「信じられない気持ちはわかる。けど、オレウソは1つも言ってない。だから」
「信じる、信じるよ。朝井の言葉・・・。けど、ちょっと時間をくれ。頭の中で整理したいんだ」
宮ちゃんのこんな顔は初めて見た。
せっぱつまってるような、怖がっているような。
とにかく「先生」の顔じゃない。
だけど信じてくれるって言った。
大人しくオレは待っているだけだ。
その間にオレはオレの出来ることをしなくちゃだめだ。
どうしたらハナを取り戻せる?
愁哉さんを元に戻せる?
・・・二人はたぶん一緒にいる。
でもどこにいるんだ?
シオン、シュンランとしての記憶を取り戻したとして二人の元々の意識はどうなってるんだ?
どうしてオレは「朝井龍」としてここにいられるのに、あの二人は意識を奪われた?
ダメだ、全然わかんねー。
・・・そういえば、ケータイ。
ケータイをハナは置いて行っていた。
愁哉さんはどうなんだ?
「宮ちゃん! 考えてるとこごめん、愁哉さんはケータイ持ってるの?」
「いや、家にあったのを彩ちゃんが見つけたって言ってた」
「そう・・・」
じゃあ、二人はどうやって落ち合ったんだろう?
先にケータイで連絡をとってから?
「ちょっと待ってて、すぐ戻るから!」
宮ちゃんにそう一言告げて、隣のハナの家に向かう。
もしかしたらどこか待ち合わせ場所を残したメールとかが残っているかもしれない。
あんまり見たくないことが書いてあるかもしれない、けど仕方ねぇ。
「ハナ、悪ぃ!」
・・・あれ?
メールの最後の受信はオレだ。
その前も、愁哉さんの名前はない。
最後に愁哉さんの名前があるのは・・・二人が会っているのを偶然に見かけた日?
電話か?
ない・・・着信履歴もここ数日間のはない。
じゃあ、どうやって連絡をとったんだ?
大学でか?
いや、ここ数日間はお盆で大学も休みのはずだ。
じゃあ家の電話を使ったのか?
違う。
ハナの着信に家の電話からのはオレの家からしかない。
何で連絡をとったんだ?
電話でも大学でもない・・・それ以外の通信手段は・・・。
まさか!? ・・・コキア?
コキアで会話できるのか?
だとしたらオレにも二人の会話が入ってくるはずだ。
・・・オレが完全に覚醒していないからか?
じゃあ、二人は完全に記憶を取り戻しているのか?
「くそっ! わかんねーーーよ」
独りであれこれ考えてもダメだ。
愁哉さんの様子も知りたい。
愁哉さんの奥さんに会わないとダメだ。
会って話してこのことを理解してもらわないと。




「宮ちゃん! 二人の場所がわかるかも」
急いで家に戻って宮ちゃんの待つオレの部屋に入る。
「え? 本当か?」
「わかんないけど、たぶん」
たぶん、オレがサラジュとして完全に覚醒すればコキアは使える。
「たぶん? どういう意味だ?」
「まず、愁哉さんの奥さんに会いたい。それでこの話をしたい。今から会えないかな?」
「・・・わかった、行こう」
「ちょっと待ってて」
オレは急いで荷物をつくる。
ハナが見つかるまでここには帰らない。
ハナが戻ってきた時のために理由をつくらないといけない。
「宮ちゃん、悪いんだけどこのことが片付くまで家に泊めて」
「あ、あぁ。わかった」
宮ちゃんは事体がほとんど理解できていないからか、あっさりオーケーしてくれた。
こんな数十分で理解できる方がおかしいだろうけど、今は待っていられない。
母さんと萌ちゃんに手紙を書く。
会って上手にウソをつける自信がない。
母さんが買い物に行ってて良かった。
ハナの荷物も適当にカバンに詰める。
これでアリバイの準備はオーケーだ。
「ごめん待たせて。行こう」
この玄関に次に帰ってくるときはハナも一緒だ。













「テーブルに置いた手紙、お母さんにか?」
慌てて書いたアリバイの手紙のことを宮ちゃんが聞いてきた。
少しずつ回りのことに目が行くようになってる。
さすが宮ちゃんだ。
「うん、母さんとハナの母さんに」
「何て書いたんだ?」
赤信号で車が止まる。
運転中の宮ちゃんが車に乗って始めてオレと目を合わせた。
「ハナと前から約束してた温泉巡りしてくるって」
「え? それって逆に心配するんじゃないのか?」
「あ、宮ちゃん信号青になった」
「あ・・・あぁ」
車がゆっくりと走り出す。
「心配しないんだよ。オレらの親。むしろ安心してる、兄妹だとでも思ってんのかもね」
「そうか・・・じゃあ、朝井としては辛いとこだな」
良かった。
宮ちゃんかなり落ち着いたみたいだ。
いきなりするどいとこ突いてきてるし。
「はははぁ・・・そうだよ」
後は愁哉さんの奥さんだ。
こんな夢みたいな話、信じてくれるかわかんねーけど。
けど・・・信じてもらわないと困るんだ。
絶対に。
















「信じる。信じます、朝井くんの話」
奥さんの彩さんはすごい辛そうな顔なのに、笑顔を浮かべてそう言った。
絶対にオレならこんな顔できない。
ほとんど初対面のオレの話なんて信じないよ、普通。
「あれは愁哉じゃなかった。なんか、別人だった。だからその話信じる」
自分に言い聞かせてるのかな?
マグカップに入っている紅茶にゆっくりと口をつけながら、そう言った。
「ありがとうございます。本当に」
オレの言葉にまた笑顔を浮かべた。
すごいいい奥さんだよ、愁哉さん。
この人にこんな辛い顔させちゃダメだ。
オレが・・・早く気づいていたら。
怖がっている場合じゃないんだ。
イヤがっている場合じゃないんだ。
オレのことだけ考えていたらダメだ。
リビングの横の部屋で愁哉さんの子供が昼寝をしてる。
幸せそうな顔してる。
きっと彩さんが強い人だから、不安を与えないように頑張った結果だ。
けど、このままじゃ辛すぎる。
この家に着いて、最初に見せてもらった愁哉さんのケータイにも手がかりはなかった。
当然だ。
あったらとっくに彩さんが探しに行ってる。
もう残る手は・・・。
「オレ、なんとか思い出します。サラジュのこと」
「ちょっと待て。朝井がサラジュっていう人の記憶を戻したら今ある意識はどうなるんだ?」
宮ちゃんが心配そうにオレに言う。
「正直・・・わかんない」
「わからないって、朝井・・・。そんな危険なことさせるわけにいかないだろ?」
「ひょっとするとシュンラン、愁哉さんはクラフトも使えるかもしれない。そうなった時に、オレのままじゃきっと助けられない」
コキアが使えるならそれは不思議なことじゃない。
もしクラフトが使えるのなら、神であるサラジュじゃないとハナを取り戻せない。
「朝井くんの意識がなくなって、サラジュっていう人になったら二人を救いたいって過去のように思ってしまうんじゃないの?」
「・・・100%ないとは言えないです。けど、オレはハナが好きなんで人に簡単には渡せないです」
渡せないじゃなくて、渡さない。
正気のハナがオレ以外の誰かを選ぶのは仕方ない。
兄妹みたいに育ったオレを選ばないかもしれない。
けど、絶対にこのままじゃダメだ。
何がなんでも元に戻さないと。
「オレ・・・きちんとサラジュと話してみます。また明日、ここに来てもいいですか?」
「もちろん。ありがとう、ごめんなさい。きっと辛い思いをするんだよね」
オレ達が過去に招いたことが、自分たち以外の人も不幸にする。
きちんと終わらせないとダメなんだ。
全部思い出して、地球にきちんと転生して、あの時に手に入れられなかったすべてを現実にするんだ。
「大丈夫っすよ、宮ちゃんいるし。ね」
「あぁ。大丈夫、愁哉すぐに帰ってくるよ」
宮ちゃんもすごいいい人だよ。
高校の時から知ってたけど。
だから愁哉さん、シュンランを眠らせてあげようよ。
「錬くん、すっかり良い先生だね。期待してる、また明日ね」








また明日。
明日もオレは「朝井龍」としてここに来るんだ。
オレの体を明け渡すんじゃなくて、共存する。
ハナと愁哉さんを救う力を手にして、ここに来る。
れは、二人を今度こそ幸せにすること。
今度は間違えないように。
そして・・・自分自身の気持ちに正直になる。
絶対に、絶対に!!










 

 

Update:5.08.2005

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