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第2話  境界線






「ただいまー」
「お帰りー。どうだった?」
母さんの言葉にオレはピースと笑顔で答え、その後疲れたから寝ると言って部屋に入った。
まだ夕方の6時過ぎだけど、すっごく疲れた。
オレはもともとあんまり深く物事を考えない性格だ。
絶対O型だろーって人に言われるけど、実は繊細で几帳面なA型。
自分が繊細だとかき帳面とか感じたことは今まで一度もないけど。
けど、昨日兄ちゃんの家に行って自分の気持ちに気づいてからは生まれて初めて悩むっという言葉の意味を身をもって理解した。
試験を受けている間も、テストが早く終わってしまって時間があったからつき姉のことばかり考えてしまった。
つき姉がオレをどう思っているか、それが何より1番気になった。
少なくても嫌われていないのは確かだ。・・・と思う、イヤ思いたい。
オレと同じいわゆる恋愛感情ってやつをつき姉がオレに抱いているかっていうのは、自分で言うと悲しくなるけど、やっぱりかなり低いよな。
人を好きになったら次にどうするのか、って思ったけど人間には本能でわかるという発見があった。
それは自分の気持ちに気づいて、たった1日悩んだだけで次の考えが浮かんだことで分かった。
好きになったら次は相手に好きになってもらうか、諦めるかなんだ。
いきなり飛び越えて付き合うってのは無理らしい。
考えてみれば当たり前のことだけど、今までそんなこと想像したこともないから気づかなかった。
オレはどうしたいのか、そこにかかっている。
つき姉にオレと同じ恋愛感情ってやつを抱いてほしいのか、今まで通りただの弟でいいのか。
う〜ん・・・わからない。
全然全くわからない。
つき姉と離れるのがイヤってことは分かっているけど、100%受験は合格した。
離れたくないからってたくさんの人に応援してもらった受験の合格を棒に振るのは、中学3年生にもなったオレがやるのはどうだろう。
いいわけがないし、つき姉に嫌われてしまう可能性が高い。
誰より応援していてくれたわけだし。
じゃあ、オレは一体どうしたいんだっていう最初の段階に戻ってしまう。
あーーーーーーっ! わからん!!







あ・・・つき姉のピアノの音だ。
オレはベッドから起き上がってベランダに出た。
「寒っ!」
やっぱり北海道の2月、ベランダに出るのは少し辛い。
けどこのピアノの音が聞けるならって我慢できるから不思議だ。
つき姉の家は住宅街にある細い道路を挟んで向かいにある。
ピアノの部屋はつき姉の家の突き当たりにあるから、オレの部屋からは全く見えない。
ちなみにつき姉の部屋はピアノ部屋の調度真上だから、もちろん見えない。
うーん、世の中マンガや小説のようにはうまくはいかない。
会いたいけど会いたくない。
今まで10年以上弟みたいに可愛がってもらっておいて、今さら姉としてじゃなく女として好きっていう感情を抱いたから、どんな顔してつき姉に会ったらいいかわからない。
すごく後ろめたい感情でいっぱいになってる。
こんなんじゃこの気持ちを諦めて今まで通りなんて無理なのかもしれない。
それにこの状態でつき姉に会って今まで通りに出来る自信なんてない。
じゃあ、つき姉にこの気持ちを伝える?
もし、幼馴染って言葉でハッキリ引かれている境界線を越えようとしてダメだった場合、もとの場所に戻れるんだろうか?
戻れたとして、オレの気持ちもその場所で元通りになるんだろうか?
ピアノの演奏が終わる。
弾いているつき姉の姿が頭の中にハッキリと浮かぶ。
何千回と見てきた姿だ。
幼稚園でピアノを始めたばかりのつき姉、小学生のつき姉、中学生のつき姉、今のつき姉。
たくさんのつき姉を見てきたけど、全部思い出せるのはそれだけ大好きな光景だからなのかな。
「はっくしゅん!!」
ヤベ、風邪引くかも。
部屋に戻ろう。












翌日、オレは風邪を引いて39度の熱を出し学校を休んだ。
午前中は半ば拉致のような形で病院に連れて行かれ、今はぐったりしたままベッドに横になってる。
やっぱり北海道の2月はベランダに30分も出ているのはダメなんだな。
せめて上着を着ればよかったんだけど・・・15年近くここに住んでいるのに、今までなら考えられないミスを犯してしまった。
恋って・・・人をおかしくするよな。
それより考え事の続きだ。
何せベッドに横になっている以外何もすることがない今こそ、結論を出す絶好の機会だ!



昨日の考えの通り自分の気持ちを諦められないなら、つき姉に伝えるしかない。
伝えてダメだったら? それを思うと伝えるのはすごく恐い。
なんとか伝えなくても良い方法はないんだろうか。
う〜ん・・・ん?
そうだ! 伝えなくても良い方法!!
自分の気持ちを悟られないように、気持ちを聞けば良いんだ。
例えば「好きな人いるの?」とかさらっといつも通りに聞けば良いんだ。
そうだ、それにしよう。
そうすれば伝えることなく気持ちの確認が出来る。
境界線から片足だけがはみ出すくらいなら、きっと簡単に引き返せる。
我ながら名案だっ!
「よっしゃーーーっ!!」
「タイちゃん。起きてて大丈夫?」
オレは今、自分の名案にベッドから飛び上がってガッツポーズをしているとんでもない姿をつき姉にさらしている。
「つ・・・つき姉。どうしたの?」
オレは固まったまま顔だけドアへ向けて言葉を発した。
「さっきタイちゃんのお母さんから熱出して学校休んだって聞いたから、お見舞いに来てみたんだけど・・・元気になったのかな?」
オレは固まったまま首を横に振り、まだちょっと具合悪い・・・っと言って再びベッドに横になった。
たぶん説得力は全然ないと思うけど。
つき姉はじゃあちゃんと横になること。っとお姉さんらしく言った後母さんから託されたらしい氷枕を代え始めた。
顔がめっちゃ近いんですけど。
あっ!! 目が合ってしまった。
「っ・・・ぁはははは」
あまりの動揺に言葉にならない声を発して目を逸らした。
つき姉はオレのおでこに手を乗せて、まだ熱あるねっと言いながらいつもの優しい笑顔を浮かべた。
良かった・・・。
熱があるおかげでもともと顔が火照ってたから、さっきより1度以上上昇したと思われる顔の体温がつき姉にばれなくてすむ。
オレとしたことが、熱のせいか肝心なことを忘れてた。
昨日は気づいていたのに、今日はすっかり忘れてたこと。
つき姉にあって今まで通りに接することができる自信がないって思ったこと。
昨日のオレの予想通り心臓はバクバクだし、つき姉の顔を直視できないし、触れられたおでこはますます熱を帯びた感じがするし・・・。
恋ってやつは・・・凄すぎる!!
昨日のオレと今日のオレが全然違う人間になるくらいのパワーを持ってやがる。
「そういえば試験どうだった?」
「えっ!? あっ・・・あぁ、うんバッチリ」
そうだ、すっかり忘れてた。
昨日受験してきたんだった。
なんだか悩みすぎて、昨日の出来事が何ヶ月も前の出来事みたいな気がする。
「そうなんだ。良かったね」
つき姉は優しく笑いながらオレの頭を撫でる。いわゆるイイコイイコだ。
これは兄ちゃんと同じクセだ。
子供の頃から兄ちゃんとつき姉の兄ちゃんの尚(なお)くんとつき姉は一緒に遊んでいたからか、みんなイイコイイコをオレにしてくる。
尚くんは兄ちゃんと同じ歳で今大学生だから、この街にはいないけど。
オレは昔から3人のこれが大好きだったし、みんなから誉められると勲章みたいで本当に嬉しかった。
けど・・・今の良かったね、はズキってきた。
昨日兄ちゃんのとこに行く前につき姉から言われた「頑張れ」と同じで、すごい胸に響いた。
つき姉はオレがいなくなって嬉しいのかな。
少なくともオレが合格するのが嬉しいんだ。
「タイちゃん大丈夫? おばさん呼んで来ようか?」
ううん、ってオレは首を振って返事した。
子供みたいだけど、いつもみたいに接することが出来ない。
どうしたらいいのか自分でもわかんないんだ。
熱で頭も回らないし、どんな風に接してたのかも今は思い出せない。
あ・・・けどそうだ。
オレつき姉に聞きたいことがあったんだ。
せっかく自分の考えに結論が出たんだし、今は良い機会だから言わないと。
「・・・つき姉?」
つき姉はん? っと返事をしてオレに顔を近づけてきた。
「ねえ・・・好きな人っている?」
「え? どうしたの? あ、やっぱり熱のせいかな?」
早くも作戦失敗ですか?
いいや、熱のせいだと思ってもらった方がいいかもしれないし。
「そうかも。ねえ、いる? 好きな人」
オレは直視出来ないつき姉の顔を決死の覚悟で見た。
「・・・うん、いるよ」
!? うわわわわ。
聞かなきゃ良かった。
すっごい心臓ズキズキする。
いるよ、って言ったつき姉の顔はいつもの優しい笑顔で、オレ以外の誰かのためにそんな顔したのかと思うと身勝手だけど、すっごいムカついた。
ダメだ。
熱でただでさえ頭がぼーっとするのに、この心臓のズキズキが加わって最強にフラフラする。
あーっ・・・この後どうやって話を続けたらいいのかな。
色々シュミレーションしないうちに、この話を切り出したのは良くなかった。
本当にオレらしくない。
「そう・・・なんだ」
こんなことしか言えないし。
もうつき姉の方も向けないよ。
オレは壁の方に向かって寝返りをうった。
露骨すぎだろ、って思うけど仕方ない。
人生で初めての経験で上手く切り抜けれるほど大人じゃないんだ、オレは。
「具合悪そうだね。ごめんね、お見舞いとか言って逆に悪くさせちゃったかも」
そうつき姉の声が聞こえた後、立ち上がってドアに向かう足音がした。
帰ってしまう!?
どうしよう、これじゃあ最悪の状況だ!!
今まで嫌われていなかったかもしれないけど、今日この時から嫌われたかも!
どしよう・・・どうしたらいいんだろう。
あーーーーーーーーーっ、わっかんねーよ!!
「じゃあ、帰るね」
お大事に、その言葉と同時にドアが開く音がした。
「つき姉!」
オレはベッドから立ち上がってドアに近づいた。
このまま帰らせたら嫌われる・・・なんとかしないと。そのことしか頭になくなってる。
「寝てなくて大丈夫? 顔色あんまり良くないよ」
その言葉が言い終わるか終わらないかでオレはつき姉を抱きしめた。
あーーーーっ・・・ダメだ。
どうしたらいいのかわかんないよ。
けど・・・つき姉良い匂いだな〜。ってオレは変態かよ。
「大丈夫? 立ちくらみ?」
つき姉のすっとぼけた声がオレの右頬のあたりから聞こえる。
「違うよ」
もうダメだ。
足に力が入らないし、頭もフラフラする。
こういう時人間の本性があらわれるのだろうか。
つき姉はきっと今困ってるだろうけど、絶対離したくない。
すごく華奢だな、とは思っていたけど実際に抱きしめてみるとすごく気持ち良い。
柔らかくて、すごくフワフワする。
誰だよ、つき姉の好きなヤツって。
あ・・・でも絶対渡さねーーーよ、オレのだもんつき姉は。
オレは幼馴染の境界線を越えたい。
どうしても越えたい、今すぐ・・・越えたい。





「つき姉・・・。月子って呼びたい、特別になりたい・・・。ダメ?」






 

 

 

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2004.12.12

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