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第5話 身長 






「好き・・・だよ」




「え・・・?」
あれ? オレの聞き間違いか?
今好きって聞こえたような気がする。






「つき姉? それってどういう・・・」
「タイちゃん、大きくなったね」
つき姉は相変わらずイイコイイコしながら、オレの質問を遮って笑顔で呟いた。
一瞬つき姉の言葉をそのままの意味でとりそうになったし。
その遮り方・・・天と地を一瞬で味わった感じなんだけど。
「あの・・・それってオレにケンカ売ってる?」
このシュチェーションで、どうしていきなり身長の話になるのか??
しかも162センチしかないオレに大きくなったっていうのは、ケンカを売られている以外になんだっていうのだろうか。
たぶんつき姉にはオレの表情は??????っと映っているだろう。
実際オレもそう感じてるし。
「どうして?」
「え? どうしてって・・・オレ162センチしかないし」
・・・ん?
「それ測ったのいつ?」
「春の健康診断の時だけど・・・」
・・・あれ?
何か違和感を感じるけど。
「それならきっともう少し伸びてると思うよ。あたしと4センチしか違わないってことはないと思うな。ちょっと会わない間にまた伸びた気がするし」
「そうかな? 明日学校行ったら測ってみようかな」
「うん、きっと嬉しい結果になってるよ」
伸びたかなぁ。オレ。
あんまり実感ないけど、毎日見てるつき姉がいうなら間違いないかな。
「本当に大きくなったね」
「あんまり言うとウソっぽく聞こえてくるけど・・・」
「だって、あたしが初めてタイちゃんに会った時、このくらいだったんだもん」
一瞬笑った後、つき姉はイイコイイコしていた手を使ってオレの赤ちゃんの時の大きさをつくった。
「だって・・・赤ちゃんだし」
それから比べたら一応15年生きてるしね。
って・・・ん?
やっぱり違和感が。
「そうなんだよね。タイちゃん赤ちゃんだった。可愛かったなー、嬉しかったし」
この違和感は一体なんだろう。
何か大切なことを忘れている違和感だ。
「なのに、いつも間にかあたしの身長をついに追い越してしまったし・・・」
わかった!!
違和感!!
なんで、そもそもこの局面でこういう話をしてるわけ??
よく考えたら今日はオレの一世一代の告白の返事を貰いに来たわけで。
こんな昔話を、懐かしむために来たわけではないのだ!!
つき姉はオレのこんな気持ちを知ってるんだろうか?
いつもの優しい笑顔で昔話をする。
正直こんな話はどうだっていいって思ってるのに、そんな風に言えない。
判決を下される前の猶予期間を自分も持ちたいって思ってる。
普通にしてるつもりだけど、正直やっぱり恐い。
だから、今しなくてもいい話も少し嬉しい。
久しぶりにつき姉とのんびりした時間を過ごせているのも嬉しい。
出来たらこの幸せな時間がこれからもおくれるような結果がいい。
たとえ答えが弟でも、それでもオレなりに受け止めてきちんとしたい。
またピアノが聞きたい。







「あたしね、タイちゃんが産まれて自分がお姉さんになったんだと思って嬉しかったの。お兄ちゃんや泰広くんはその頃二人で遊ぶのが楽しい時期だったから、全然仲間に入れてくれなかったし・・・」
あー・・・これは。
「だから、タイちゃんが生まれたとき本当に嬉しかったんだ」
考えたくないけど、結果が見えてきた。
つき姉はオレに弟だと思っているって伝えようとしてる。
受け止めたいと思ったばっかりなのに、一瞬にして決心が揺らぎそうだ。
オレが思っていたような猶予期間じゃなかったんだ。この時間は。
やんわりとつき姉は自分の気持ちをオレに伝えようとしてるんだ。
あーぁ・・・やばいなぁ。
かっこ悪いし。
これ以上聞きたくない。
聞きたくないのに、つき姉の話にやっぱり普通な顔して返事してる。
前より少しは成長したのかな・・・オレは。
ちょっと前なら、逆ギレしてきっとこの場を飛び出してた。
・・・けど、今日はダメだ。
圭太と話してわかったけど、好きな人が自分の言葉で伝えようとしてることをきちんと聞かないと同じことの繰り返しになる。
諦められないし、後悔するし、・・・それにもう2度と話せなくなるかもしれない。
だから揺らぎそうな気持ちを揺らがないようにしっかり持ちたい。
・・・めちゃめちゃ恐い。
かっこ悪いけど、泣きそうだ。
けど・・・きちんと聞かないとダメだ。
今度こそきちんと聞かないと、本当につき姉に会えなくなってしまう。







「初めてピアノを弾いたとき、本当は止めたかったんだ。鍵盤もぜんぜん分からないし、楽譜だって暗号みたいだし、指だってどこにどう置いたらいいかもわかんなかったし。・・・でもその時、ピアノの音を聞いてタイちゃんが喜んでくれたから、あたしは一生懸命ピアノ練習したんだ。そのおかげでピアノが大好きになった。今あたしが、大学に行ってもピアノをやろうって思えたのはタイちゃんのおかげだよ」
ありがとう。っとつき姉はオレにまたイイコイイコしながら言った。
子ども扱いされてるように感じるし、弟扱いされているって感じるのに、それでもこのイイコイイコが好きだ。
安心できるし、落ち着けるし、本当の自分でいられる気がして子供の頃からずっと・・・大好きだ。
「毎年タイちゃんの成長が楽しみだったのに、気づいたらイヤだなぁって思うようになってたの」
「・・・? なんで?」
「・・・ずっと大事な可愛い弟のはずだったのに、あたしの中でそれが変わってしまったから。かな」
・・・ダメだ。
全く意味がわかんない。
普通の15才の男ならこういう時、相手の言わんとしていることがわかるんだろうか?
オレに対して弟って思ってるって言いたいんじゃないのか?
でも変わったっていうのはどういう意味?
もしこの言葉がつき姉がオレを諦めさせようとしているなら、気づいて気を楽にしてあげられる言葉でもかけるのが男として正しいのかな?
全然わかんない。
そもそも、こういう気持ちに正解とか不正解ってあるのかな?
「それに気づいた時、ダメだって思ったの。これじゃあ、タイちゃんに嫌われてしまうって」
「え・・・? ごめん、意味がよくわかんない」
どうしてオレがつき姉を嫌いになるの?
オレが鈍感すぎなのか?
全然話が見えてこない。
緊張しすぎてて頭はいつもの100分の1くらいしか働かないし、正解がわかんないクイズを延々出されている気分だ。
つき姉が何か言うたびにオレが1番聞きたくない言葉な気がして、耳が緊張してるのがわかる。
聞きたいし、聞きたくない。
けど、聞かないときっと一生後悔するんだ。









「・・・あたしが、タイちゃんを弟だと思えなくなったから」







「え・・?」







つき姉が真っ直ぐオレを見て、そうハッキリ言った。
オレは一瞬なんのことかわかんなくて、口からその言葉しか出なかった。
イイコイイコされてたから、つき姉の顔がすぐそこにある。
「タイちゃんのこと、弟だと思ってるっていうのは嘘。ごめんなさい」
え・・・??????
言われた意味がよくわかんない。
ウソ・・・わかる気がする。
わかる? イヤ、オレの考えがあっててほしいっていう願望かもしれない。
オレの頭の中にあることが現実であってほしい。
もしそうだったらオレはめちゃめちゃ幸せになれるから。
「つき姉・・・オレ、自惚れてもいい?」
あぁ・・・つき姉はオレの目を見て言ってくれたのに、恥ずかしすぎて顔を下げてしまった。
顔の温度が一気に上昇してるのがわかる。
「あたしこそ、本当にいいの? 3つも年上だよ? タイちゃんにはこれからたくさんの女の子との出会いがあるのに・・・」
!?
「そんな出会いなんて別にいらないし!」
つき姉の言葉でムキになって顔を上げる。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
うわぁ・・・つき姉、可愛いな。
申し訳なさそうな、恥ずかしそうな・・・とにかくオレが今まで見たことない顔してる。
「つき姉・・・?」
「ん? 何?」
「大好きなんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・」
本気で可愛いなぁ。
オレはあまりにつき姉が愛しくて、これが人を好きになるってことなんだなぁって改めて思った。
それに産まれて初めて出来た恋人という存在にドキドキした。
幸せすぎて、嬉しすぎて、このまま時間が止まればいいなんて自分の今までの人生では考えられないようなことを思ってしまった。






ちくしょーーーー可愛いなぁ。
この先つき姉以上に好きになる人なんて絶対に現れない。
本気でそう思った。







次の日さっそく保健室で圭太と身長を測ってみた。
つき姉の言った通り、オレの身長は5センチ伸びて167センチになってた。
気づかなかったのは、回りの男子がオレと同じように伸びてたから。
そして、圭太がオレと同じ5センチ増の179センチになっていたからだった。
やっぱりチビ??





 

 

 

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2005.02.01

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