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第6話 応援 






「あーぁ・・・」
月子と付き合って1ヶ月と1週間が経った。
・・・「月子」と心の中ではいつも呼んでいるけど、実際に口に出したことはない。
でもこの期に及んで「つき姉」はおかしいだろ!?
・・・一応というかれっきとしたオレの”彼女”なわけだし。
でも15年間呼びつづけていた「つき姉」という呼び方を急に「月子」に改めるのも中々難しい。
だからイメージトレーニングから始めよう! と思っていたけど、結局口に出すことは叶わないままここまで来てしまった。
・・・相変わらず情けないな、オレ。
1週間前に中学校の卒業式があって、オレは卒業生代表で答辞なんて読んだりした。
月子はなぜか母さんと一緒に見に来ていて、相変わらずイイコイイコをしてくれた。
オレはいっつもドキドキして、どうしていいかわかんなくて、戸惑ってばっかり。・・・なのに月子は相変わらず優しい大人の笑顔とイイコイイコをする。
これはこれで嬉しいんだけど、でもホンの少し不満がある。
付き合うことになったあの日だけ、月子は歳の差を感じさせない顔をした。
すっごい嬉しくて、一気に距離が縮まった気がしたのに・・・。
それ以降はガキなオレと大人な月子。という姉弟のような関係は変わらない。
オレの好きと月子の好きを天秤にかけると大幅に傾いていると思う。
そんな不満があるのに結局オレは月子が側にいてくれて、彼氏彼女という関係になっているという今の現状だけですっごく幸せ・・・だったりするのが悔しかったりする。








・・・けど幸せな時間は普通の時間と比べて何倍 も早くて、気がついたら明日がこの街を離れる日だ。
だからため息をついていたりする。
月子と過ごす当たり前の時間が当たり前じゃなくなる恐さをたった2週間味わっただけでもすごく辛かった。
なのに、明日からは月子が側にいないっていう今まで当たり前じゃなかったことが当たり前になるんだ。
会いたい時にすぐには会えない距離に行く。
声が聞きたい時にすぐには聞けなくなる。
ピアノも、イイコイイコもすぐには手が届かない距離に行ってしまう。
それが全部わかったうえで、オレは美並山学園に行くことを決めた。
正直な話、行くの止めてしまおうかなって思ったりもした。
好きになって、辛くて、思いが通じて、幸せで、その変化はたった1ヶ月と少しの間に起きたことなのにすごく大切で、かけがえのないものになったから。
でも月子は応援してるから、行って。そう言った。
この街を出たかったのは広い世界で自分の目標とか、新しい人たちとの出会いとか、そういうここでは出来ないことに挑戦したかったから。
それに何より自分に見合った学力の世界で勉強したかったから。
月子が応援してくれている。
それなら、自分が1度決めたことをコロコロ変えるのはかっこ悪い。
向こうに行って精一杯頑張って、自分の目標をきちんと見つける。
もっと自分を磨いて、カッコイイ大人の男になる。
それで月子が応援して良かった。と思える男になるんだ。
だからオレはこの街を離れて、月子と離れても美並山学園に行く。
恋愛経験もなくて、付き合ってたった1ヶ月足らずで遠距離になるなんて不安だけど、それでも別れたくない。
自分の月子への気持ちが本当に本物だから距離があっても繋がっていたい。
でもオレ自身の気持ちにはメチャメチャ自信があるけど、月子がオレを好きでいてくれるかは全く自信がない!!
離れることの1番の不安はそれだ。
月子が他の男から告白されるんじゃないか、他の男を好きになるんじゃないかとか。考えてもどうしようもないことに今から悩まされている。
これが噂の嫉妬っていう感情なんだな。
まだ見ぬその相手を想像しては落ち込むなんてなんてオレはカッコ悪いんだろうか。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・不安だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!









「タイちゃん? どうしたの、さっきからずっとぼーっとしてるよ」
「えっ、あ・・・えーっとなんでもない・・・」
「もしかして風邪かな? さっきからため息もついてるし・・・」
月子の顔が近くなっていつもイイコイイコしてくれる優しい手がオレの額に触れる。
ドキッ!!
おぉぃ!! かなり動悸が激しいんですけど。
こんなの昔から当たり前の光景なのに、好きになってからはこの行動にすら一喜一憂してしまう。
・・・悔しい。オレばっかり。
月子はこんな風にドキドキしたりしないのかな?
「熱はなさそうだね。良かった。せっかくタイちゃんの人生の第一歩の日に風邪を引いてたら辛いもんね」
「うん・・・心配してくれてありがと」
こういう月子の行動は昔から好きだ。
優しいし、温かくなる。・・・けど。
月子はやっぱりオレのこと男としてみてないのかな・・・。
イヤイヤ!! オレを男として見てると言った言葉を信じなくてどうする!!






「寂しくなる。明日から・・・」
あぁぁぁぁ・・・情けないけど、つい本 音を呟いてしまった。
この言葉が月子の言葉ならどれだけ嬉しいことか!!
それにしても男が言うことなのかな。
言うことなのかって言った後に考えてどうする!!
なんだろう、本当にオレ最近おかしい。
こんな矛盾したことばっかり考えているなんてオレは本当に一体どうしたんだぁ!?
「応援してる。タイちゃんが自分の目標見つけれるように。だから大丈夫だよ、あたしは」
月子は優しい笑顔を浮かべてオレの呟きに答える。
嬉しいけど、すっげーガッカリした。
催促して言わせる言葉じゃないけど、でもオレと同じ気持ちを持ってほしい。
これはやっぱりワガママなんだろうか?
本 気で”寂しい。行かないでくれ”って言われたらきっと困るのに、それでもどうしようも出来ないって分かっていることでも言ってほしい。
恋ってこんなに情けないもんなんだろうか・・・?





「寂しくないの? つ・・・つき・・・は」
あぁぁぁぁ・・・更に情けねー!!
月子っとハッキリ言葉にも出せない。
こんなんでオレは大丈夫なのか?
二人は遠距離を乗り切れるのか?
何もかもが全くわからない。
どれが正解で、どうしたら不正解になるのか。
どうしたら月子はオレと同じだけオレを思ってくれるのか?
正しい解答があるなら誰か教えてくれーーーーー!!
圭太ーーーー!! 兄ちゃーーーーーーーん!!
「寂しくないよ。タイちゃんが頑張ってるんだって思うから」
「そっか・・・」
やっぱりな。
まぁまぁ、そうくるとは思ったけどね!! ・・・予想通りすぎて悲しい。
はぁ・・・ため息が出てしまうよ。
最近クセになりつつあるけど、自分にとって都合の悪い言葉を月子から発せられると途端に顔を見れなくなる。
前のように、自分の思い通りに行かなくて月子に八つ当たりしそうだし、何よりお姉さんっぽい月子の顔を見ると弟なんだって思って虚しいから。
自分の気持ちをさらけ出すのがかっこ悪い気がして恐い。
だからってカッコつけることも出来ないから黙る。
情けないクセがついてしまった。
自覚してても直せないことってあるんだ。







「でも・・・月子って。タイちゃんが良かったら呼んでほしいな。あ・・・もし嫌ならいいんだけど」
・・・・・・・・・・・!?
オレの聞き違い??
あんなに上がんなかった目 が一瞬で月子を捕らえることに成功した。
成せば成るんだ!! 
「あ・・・ごめん! プレッシャーかけるつもりはないんだよ。でも何となく、そう呼んでくれたら嬉しいなって思ったから」
この顔・・・オレと月子が付き合った日と同じ顔。
ホンの少しだけ歳の差が近づいた気になれる表情。
距離が近づいたように感じられる表情。
気がついたらオレは月子を抱きしめていた。
だって、仕方がない。
メチャメチャ可愛いいんだから。









「月子って呼ぶ・・・」
これだけ一言呟いて、オレは月子にそっとキスをした。
オレにとって人生で初めてのキス。
小心者のオレが大胆な行動をできるくらいこの時の月子はめちゃめちゃ可愛かった!!
この気持ちを持っていけば、きっと遠距離恋愛大成功だ!!













「月子」はオレの好きな「お月さま」と同じ。
普段は優しい光を放っているけど、欠けていてどこか遠く感じさせる。
だけどやっぱり見上げると嬉しくて・・・。
たまに真ん丸の優しい光を放ってオレを幸せで温かで嬉しくさせてくれる。
この時ばかりは手を伸ばせばこのお月さまに手が届くような気がするんだ。
大好きな大好きなお月さま。
いつまでもこの満ち欠けをドキドキしながら見ていたい。
距離が遠くはなれて、中々会えなくなっても。
この気持ちはきっとずっと変わることはないのだと信じたいんだ。
大好きなお月さま。













第1部 中学生編終了です。
次回から泰希の美並山学園での高校生活がスタートします。


 

 

 

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2005.02.08

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