<ホーム <小説 <戻る

 

第9話  第一印象






「福嶋・・・? おーい! 聞こえてる?」
チョコが目の前で手を振っている。
「え? ・・・あ」
「ちょっと、今どこの世界にトリップしてたの?」
生徒会室にいる役員達に一気に笑いが起きる。
どこの世界って・・・月子のいる世界しかないけど。
なんてバカみたいなこと当たり前だけど言えねぇし。
昨日久しぶりにゆっくり月子と電話で話ができたから、その会話を何度も巻き戻し&再生を繰り返してた。
ニヤついてたかも・・・かっこわりぃ。
けどすげぇ幸せな時間だったなぁ。
「文化祭の予算今のうちに組んじゃわないと、夏休みに苦労するって言ったの泰希だろ?」
会長の拓未(たくみ)がまだ笑いが収まらないらしく、小さく笑いながら言う。
「・・・その通りです。悪りぃ」
夏休みに生徒会で学校に来るのは1日でも短くしたい。
だって・・・家に帰って月子に会える時間は1日でも長くしたい。
やばい、また月子モードに入ってしまった!
「福嶋、早く終わらないと部活に行けないんだけどー」
相変わらずこいつはハッキリ言うやつだなぁ。
裏表のない性格だからわかりやすくて、いいけど。
「ごめんって、えっと前夜祭と後夜祭の予算だけど―――」
チョコの第一印象は冗談抜きですげぇ悪かったもんな。
GWのあの時はまさかたった2ヶ月で、こんなに仲の良い友達になるとは想像できるはずもなかった。
むしろ2度と会いたくないと思ったし。
世の中狭いというかなんというか・・・。
オレの高校生活がやっと動き出した・・・そんな感じがする、今日この頃。




















チョコと出会った、というか再会したのは今から2ヶ月くらい前、GWに月子を空港まで送った帰り道。











寂しい・・・。
すげぇ寂しい。
しかも気づけばまた歩道のブロック線踏まないように歩いてるし。
しまいには一個づつ飛ばしてるし。



「歩幅だけだって言われないように、心も体ももっと成長するから。もう少し待ってて」


なんて言ってみたのに、早速泣きそうって・・・オレはいつになったら大人の男になれるのかな。
このまま真っ直ぐ家に帰るのもなぁ・・・家に着くなり泣き出しそうだし。
兄ちゃん・・・まだ帰ってきてないよなぁ。
と思いつつもなんとなく学校の方に足が向いてしまう。
とにかく今一人になるのだけは嫌だ。
・・・あれ?
大学のアメフトグラウンドで練習してる。
帰ってきてんのかな?
いや・・・違う、と思う。
なんか前にちらっと見たときと違ってなんか体が小さいようんあ気が。
まぁ、だからってオレの痩せっぽっちの体とは比べようもないけど・・・。
・・・あ、あいつ同じクラスの檜山寛治(ひやまかんじ)じゃないか?
アメフト部だったんだ。
出席番号1番違いなのに、あいつとはほとんど話したことがないから知らなかった。
ってことはここで練習してるのは高校生か?
美並山学園のアメフト部といえば全国でも有数の強豪校だ。
入学してたった2ヶ月で、こんなに大変な練習してんだもんなぁ。
オレなんて高校に入ってからやったことと言えば、3日間のバイトだけだ。
あいつ、特進で入学した上にこんな厳しい練習も頑張ってるんだ。
月子は頑張ってるって言ってくれたけど、オレってその言葉に足るだけの行動してんのかな。
ただ黙って高校通ってるだけで頑張ってるって言えるのかな。
かと言ってオレにアメフトは無理だ。
何か自分にあったことで、何かを始めないとせっかくこの街に来た意味がない。
オレに合ってることってなんだろう。







「見学ですか?」
・・・?
しばらくグラウンドの横の芝生に座り込んで練習を見ていたみたいだ。
あんまりにもぼーっとしてたから、声かけられるまでそのことにも気づいてなかった。
「ねぇ君、見学したいの?」
おぉ・・・忘れてた。
ん? この声、この感じの悪い話し方・・・どっかで聞き覚えが。
”ちょっと、そんな顔してるんなら休憩したら?”
あの声に似てる気が。
いやいや・・・まさか、そんな偶然あり得ない。
「いえ、あのただ通りすがりで・・・」
立ち上がりながら振り向いて返事をする。
振り向いても目線が合わない。
オレよりも背が高い・・・。
まさか!!
「「あ!」」
こいつ・・・あのデパートのバイトの時の感じの悪い女!!
相手も気づいたらしく、オレと同じタイミングで声を発した。
「君! えーっと、ふく・・・福沢くんだっけ?」
「・・・福嶋です」
相変わらず感じが悪い。
そして遠慮のない感じの話し方だ。
大体うる覚えならわざわざ声に出すんじゃねーよ!
ん、このジャージ見覚えが・・・。
!? ・・・絶対に的中させたくないすっげぇ嫌な予感がする。
「もしかして福嶋くんも美並の生徒? あたし、今年入学したんだ。福嶋くんは何年生?」
やっぱりーーーーーーーー!!
美並は(芸能科以外)学年ごとにジャージの色とネクタイの色が違う。
この朱色のジャージはオレと同じ学年、つまり今の一年生の色だ。(持ち上がっていくので3年間同じ色。今の2年生は緑色、3年生は藍色だ)
「聞いてる? おーい!」
「え、あ・・・オレも1年です」
迫力と予感的中で同級生になぜか敬語を使っている。
情けない・・・情けなさ過ぎだーーーー!!
「そうなんだ、何組? あ! そうだ、福嶋くん大丈夫?」
「・・・は? 何が?」
あんまり耳に入ってなかったから意味が全くわからん。
むしろお前こそ大丈夫かって感じだ。
「あのバイトの日、体調悪かったでしょ? あ、でもあれから5日経ってるし散歩出来るくらいだから元気になったんだー」
「?・・・あ、うん」
よく覚えてるな、そんなこと。
オレは月子との楽しい時間ですっかり忘れていた。
「そっかー。休憩の後もずっと具合悪そうだったから気になってたんだ。忙しくて気が回らなくて話も出来なかったから心配してたんだ。良かったー」
「いや、ごめん。あの日なんかすげぇ迷惑かけたよな。休憩変わってくれてありがとう」
自分の気持ちに罪悪感がわいてきた。
人の表面の印象だけで相手のことを決めつけて・・・オレのがずっと感じ悪いよな。
「全然、具合悪いなら仕方ないよ! あ! でも、お客さんは体調のこと分かんないし感じ悪い店員だなって思うかもしれないから、具合悪いなら無理しないで社員の人に言った方がいいよー」
あの時思えばオレの体調に気づいてくれたのって、こいつだけだったよな。
オレですらあんまり分かってなかったのに・・・。
実はこいつって、すっげぇ良いやつなんじゃ。
「うん、そうする」
確か千代田って名前だったっけ。
目の前で嬉しそうに笑ってる。
あの時きちんと顔を見てたら、こいつの印象も全然違ったかも。
やっぱ、まだまだガキだ。
「あ、改めてあたしは千代田小雪(ちよだこゆき)。E組だよ、ちなみに今はアメフト部のマネージャーをしてるんだ」
小雪・・・?
「・・・あ、今名前負けだとか思ったでしょ!? やっぱりなー。あ! でも千代田小雪でチョコって子供の頃からの呼ばれてるから福嶋も良かったらそう呼んで。日に焼けてるから我ながらピッタリになってきたなって思ってるんだー」
なんというか・・・爆裂だな。
月子とは正反対の性格してる。
髪の毛も短めだし、日に焼けてるし。
確かに小雪って感じではない。
「あははははは」
ダメだ、こいつ面白い。
いきなり福嶋って呼び捨てで馴れ馴れしいのに、なぜか人のことまで気が回るんだもんなー。
「あー、笑った! 酷いなー」
「ごめん、けど面白い。あははははは」
全然女子っぽくない。
というか、こいつは女子なのか!?
オレの笑いにつられたのか、いつの間にか一緒になって笑ってるし。
こーいうタイプの女子って見たことないかも。
第一印象では2度と会いたくないって思ってたのに、今は全く逆のことを思ってる。
こいつがいる学生生活は中々面白いかも。
かといってアメフトは無理だけどね。
「福嶋泰希。B組だよ。よろしく」


















あの日チョコがあそこにいたのは、1年生達が自主練のために空いてる大学のグラウンドを使って練習していたかららしい。
だから滅多に大学をうろつかないオレと、チョコがあそこで出会ったのは本当に偶然だったわけだ。
あんな風に言ったもののクラスも違うし中々会わないんだろうな、と思っていたらその翌日から始まった体育祭の実行委員にチョコもいた。
その後体育祭直後に行われた生徒会の選挙で自分探しの意味もこめて会計に立候補したら、なぜか当選し、そこにもチョコがいた。
アメフト部の代表で運動部部会に出ていたチョコは(どの部活も選手は忙しいので、マネージャーがやるのが伝統)、さらにその中の委員長になったらしく運動部長(正式名称 運動部部会委員長)として生徒会の一員になった。
そして現在に至るわけだ。


「お疲れー」
なんとか文化祭の予算案が出来て、来週ある生徒総会で議決されたらこの案で動き出せる。
オレと拓未以外はみんなバイトやら部活やらやってて生徒会が終わってからも忙しい。
だから次の議案の作成とか片付けはオレと拓未の仕事だ。
みんな忙しそうだけど充実してるよなー。
「あーぁ、福嶋がぼんやりしてるからこんな時間だー!」
「聞こえねーな」
チョコとオレは何かこういう不思議な会話が多い。
どっちも悪態をついて、どっちも譲らない。
けどこの微妙な空気が男友達みたいで心地良い。
「あ、そうだいつもありがとー。相原に片付けとか次回の議案とか作らせてて」
「別にいいよ、気にすんな」
そう言われた拓未の対応は同じ歳には思えないくらいクールで、大人で優しい。
学年主席で入学(つまりA組)の頭脳で、身長はオレより20センチ近く高い。
おまけに顔は小さくて、美形で欠点が見つからない。
オレの目標とする大人の男を遥かに越えるといい男だ。
このくらいになると、理想というより妄想の世界の住人だ。
ただたまーに歳相応の顔になる。
女子曰くそれがまたたまらないらしい。
・・・ん? チョコ、今オレの名前言わなかったような。
「おい、オレにお礼はないのかよ?」
「え? 福嶋って何かしてくれてるのー?」
「お前なぁ!! あ、そーもう何もしてやらん」
「あっそー。あー相原は優しいなー。本当にいつもありがとうねー」
オレ達の会話を聞きながら生徒会のみんなが笑ってる。
拓未もいつも一番近い場所で、クールな笑みを浮かべている。
高校に入ってから、何か自分にあってることをって考えて探して。
今すごくオレなりに充実してる。
1年間生徒会を真剣にやって、楽しい仲間といるこの時間の中で自分の道をみつけられたらいい。
「じゃ、部活行くねー! 二人ともお疲れさまー」
「「お疲れー」」
チョコの声にオレと拓未は同じタイミングで返事をした。
ただ反応の仕方は拓未は顔を上げて手を振って、オレはパソコンから顔も出さないで手だけ振るって具合に全く違うけど。
チョコが出て行って生徒会室の中にオレと拓未の二人になると一気に人間の数が10人分減ったんじゃないかってくらい静かになる。
その位ウルサイっていうか・・・存在感のあるやつだ。
「あははははは」
「!? ・・・何? どうした?」
拓未がめずらしく思い出し笑いしている。
しかも結構な爆笑だ。
「泰希とチョコ見てる、と楽しい、よなぁ。まだ知り合って、2ヶ月くらいだろ、幼馴染、みたいに仲良いよな」
笑いながら一生懸命拓未は言葉を発している。
区切り方がめちゃくちゃだ。
「出会いは最悪だったけどね」
オレはパソコンに向かいながら声だけで返事した。
「あ、バイトが最初とかって言ってたっけ? そん時にでも仲良くなったの?」
拓未はようやく笑いが収まったらしく普通の声で会話を続けた。
「全然! むしろむかついて2度と会いたくねぇって思ったよ。しかも幼馴染ってあんなに暴言吐かないよ」
”ちょっと、そんな顔してるんなら休憩したら?”
チョコとの出会いのことを思い出して、オレも少し思い出し笑いしてしまった。
最悪だったけど、今思えば中々幸運な出会いだったかもしれない。
あんな面白い女子も中々いないしな。
「第一印象悪かったんだ。・・・なるほど」
向かい側のパソコンのキーボードの音が鳴り始めた。
ようやく爆笑で起きる手の震えが収まったんだな。
「え? 何がなるほどなわけ?」
拓未はかなり頭が良いから、なんかすごい話でもしれくれんのかな。
期待しながらも手を動かしながら聞いた。
「第一印象が悪い場合、第二印象がそれより良かったらその相手の印象がすごく良くなるっていう話を聞いたことがあって」
なるほど!!
「・・・それ結構当ってるかもな」
「ぶっ、あははははははは」
「!? 何? 今度は何が可笑しかったわけ?」
また意味不明に拓未が笑い出した。
しかもさっきよりもグレードアップしてる。
オレがさっき妄想だ、まで思った気持ちを返してくれ。
笑いが当分収まらなさそうなので、生徒総会に提出する予算案の表紙の作成をしてよう。







あれから10分、拓未はようやく笑いが収まったらしく爆笑で出た涙を手で拭っている。
「あー、笑った。いや、さっきの話続きがあるんだ」
「お疲れ・・・。で、続きって?」
オレの拓未像をすっかり壊しやがって。
「その第一印象の悪い相手が異性だった場合恋愛に発展することが多い・・・らしいよ。ぶっ、あははははは」
「・・・はぁ!?」
「あーははははは、ダメだ、止まんねー!すっげ、笑えるん、だけど!! しか、も結構、当たってるんだろ? あーはははは・・・」
また大爆笑が始まった。
しかも区切りめちゃくちゃ。
って、待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!
「そんなわけねーだろーが!! おい! 拓未、笑いすぎだっつーの!!」
「あーはははははは、当たったら面白いのになーはははははははは」
「全然笑えないっつーの!! オレには月子がいるんだーーーーーー!!」
笑いが響きっぱなしの生徒会室から、拓未の大爆笑が止んだのはそれから20分以上経ってからだった 。






<前 次>
 


<ホーム  <小説  <戻る

2005.04.03

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送