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第10話 聞いちゃいけない 






オレの名前は相原拓未。
初登場からたった2話目で主人公の座についてしまった。
泰希・・・悪いな。
そうそう、そんなことはどうでもいい。
オレがこの場に出てきたのには重要な意味がある。
つい1時間31分前、聞いちゃいけない言葉を耳にした。
そうそれがオレがこの場に出てきた理由。
その言葉は聞いちゃいけなかったような、良かったような・・・いや面白い。
聞いた直後は笑いすぎてスルーしていたけど、空にうっすらと出ている月を見て思い出してしまった。
下校途中にうっすらぼやけて出ている月。
泰希と一緒に帰るようになってから、変にクセになってしまったこと。
何を考えるでもなくただ空を見上げること。
今日もなんとなくつられてやっていて思い出したわけだ。
・・・そもそもどうしてこんな空を見上げるのが好きなんだろう?
きっと泰希の育った街の空の方が何倍もキレイだと思うんだけど。
不思議で仕方ない。
!! ・・・それは置いといて、オレが1時間32分前に聞いた言葉が重要なわけだ。


「オレには月子がいるんだーーーーーー!!」


えーっと・・・ツキコ。って誰?
普通に考えると彼女だよな。
そもそも泰希の口から女の名前が出てくること自体ちょっと不思議だ。
チョコは・・・名前に入らないし?
確かに泰希の外見上は彼女がいてもおかしくはない。
顔はまだ少し幼い感じを残してるけど将来に期待できるような気がする。
運動は・・・まあこの学校の運動部の人たちを前にすると当然かすむけど普通よりはたぶん出来る。
成績は特進クラスだけあってかなりいいし。
まぁ、1位のオレには言われたくないだろうけど。
とにかくそんなに不思議でもない。
でも泰希と生徒会で知り合ってもうすぐ2ヶ月経つけど、なんというか・・・そんな感じがしなかった。
チョコとの会話や普段の様子を見てても、そんなに女に興味がある感じじゃない。
普通の高1男子よりちょっと幼いくらいかもしれない。
ちょっと・・・いや、かなりかもしれない。
悪い、泰希。
オレはウソをつくのが苦手なんだ。
そんなガキ・・・幼さの残る泰希に彼女かぁ?
チョコとの子供同士みたいなケンカの方がよっぽど似合ってるような気がするけど。
それに・・・オレの思い違いだろうけど、チョコは・・・。
ま、それはいいか。




「泰希。さっきの・・・あれ」
「え? さっき?」
泰希のアパートの前を通って電車に乗るのが下校通路のオレは、いつも生徒会のある日は一緒に帰っている。
お互い部活もやっていないし、バイトもしてないし、彼女もいないから予定もない。
・・・と昨日まで思ってた。
「ツキコって言ってたあれ」
「? 月子がどうしたって?」
「は?」
「え?」
・・・何なんだ。
この別に気にも止めてないし、むしろオレに対して「何言ってんの?」的な目は。
「いや、初めて聞いた名前だったし」
オレは泰希の変な視線をスルーしてそのまま聞いた。
数秒?という顔をした後、本気で驚いたような顔をしてデカイ声で言った。
「・・・え!? そうだっけ?」
・・・そうだよ。
あ、なるほど。
さっきの「何言ってんの?」的な目はすっかり言ったつもりになっていた目か。
「そっか。オレ拓未達にはてっきり言ったつもりになってた」
今度は「だから拓未?な顔してたんだ」的な顔に変わってる。
どうしてこんなにその時の思考が直球で表情に出てくるんだろう。
よくこれで今までの人生を平和に生きてこられたな。
何かに守られて生きてきた感が全面にあるな。
・・・やっぱ泰希ってオモシレー。
「あは、あはははははははははははははは」
こいつといると腹筋が鍛えられていいな。
どうしても運動部の男子に比べるとなさけない身体だし。
泰希といるだけで爆笑する機会がたくさんあるし、かなりのトレーニングに相当する気がする。
「拓未! 何笑ってんだよ!」
そのムキになっている顔がおもしろい。
自分と同じ年で、どうしてこうも素直で単純な性格でいられるのか。
不思議すぎてさらに笑える。
「あーははははははっ・・・で、ツキははははは、コってダはははははレ? はははははは」
この言葉を発して5分後やっとオレはこの腹筋強化の時間から開放された。
泰希はその間ずっと「大丈夫かこいつ」という視線を送っていたけど、気にしない。
「月子はオレの彼女・・・って言ってなかったっけ? てっきり言ったつもりになってた。ごめん」
そこでどうして「オレってば隠し事してたのか・・・」という顔をするんだ。
これはチョコじゃなくてもからかいたくもなるよ。
「いや、別に謝ることじゃないし」
「そっか」
オレの言葉に嬉しそうな安心したような顔になる。
あ、こいつ実は結構もてるかも。
あれだ、母性本能くすぐるとかいうやつ。
なんか、おそらく何かに守られていただけあってほっとけないオーラ出まくりだし、身長だってまだ成長期だろうけど、そんなに高くないし。



「で、ツキコとはどこで知り合ったの?」
なぜか泰希はすっごい不思議な視線を向けた後、真剣に悩みだして意味不明の言葉を発した。
「えっと、家? いや病院?・・・」
・・・は!?
そんなに悩むようなことなのか?
実はかなり長い付き合いなんじゃ。
「やっぱよくわかんない。だってオレ赤ちゃんだったし」
「・・・赤ちゃん?」
「あ、向かいの家に住んでる幼馴染なんだ。だから月子はオレと会った時のこと記憶にあるみたいだけどこっちにはない」
なるほど、やっと一本の糸として泰希の話が通じた。
あ、そういえば「しかも幼馴染ってあんなに暴言吐かないよ」とさっき言っていた気が。
オレってば結構『泰希重要語録』をスルーしてるな。
今までもそうやってスルーしてて泰希の言葉に気づいてなかったんだな。
こいつの表情と言葉を聞いてると色んなことが忘れてしまうんだよな。
面白すぎて。
「じゃあツキコは年上なんだ」
「そう、3つ上」
「ふーん」
年上ってことはやっぱり母性本能くすぐりタイプらしい。
オレの分析も中々当たるな。
あ、ってことはこいつを今まで守ってすごい人間に育てたのはその人か?
それにしても3つ上・・・。
ってことは今学生か社会人か。
「月子は家から大学に通ってるから遠距離なんだ。だから言いそびれていたのかも」
高校1年で遠距離。
意外に苦労してんだな。
「そうなんだ。でも上手くいってるみたいだな」
「まぁ、上手くいってるかも」
・・・にしても嬉しそうな顔だな。
そういえば今まで白昼夢にかかっている時にもこんな顔してたかも。
ツキコのことを考えていたからか。
「こういうこと男同士で話すのもなんかキモチ悪いよな」
「あー・・・そう?」
泰希って案外秘密主義?
別に言葉だけ聞いてたらそんなにキモくないと思うけど。
ただ口ほどに物を言っている顔がちょっとな・・・。
ひょっとしてこのニヤけた顔も女子達にとっては案外うけるのか?
「なんかオレこういう話するのが苦手っていうか・・・罰ゲームみたいじゃね?」
「罰ゲーム・・・。そうか? あんまり今まで経験ないしよくわかんねーや」
正直今まで誰とも付き合ったことないし。
「え? 拓未って彼女いないの?」
なんだその「ウソだろ!?」みたいな目は。
「いない・・・けど。変?」
「や、別に。ただ拓未くらいカッコ良かったらモテるだろうと思ったから」
こいつってホントに・・・。
「モテねーよ。それは泰希だろ?」
聞いてはいけないことを聞いてしまったって顔してるし。
「オレは全然モテないよ。月子が初めての彼女だし」
「オレは今まで一人もいないし。だから泰希のがモテるだろ?」
ついからかってしまいたくなって意地悪なことを連発してしまう。
この素直さ。
ある意味天然記念物。
オレの言葉にさらにフォローすべく何かを一生懸命考えてる顔をしてる。
うーん。もう少しいじめてみたい。
「恋愛の先輩泰希さん」
「え?」
「彼女とはどこまで行ってるんですか? 後学のために是非」
横目でチラっと泰希を見る。
オレよりだいぶ低い身長で見上げている顔がみるみるうちに赤くなる。
目を真ん丸にしてさらに口をぱくぱくさせてる。
マンガみたいだ。
こいつ・・・。
「そっ・・・そんなこと聞くもんじゃないだろ!!」
そっか・・・聞いちゃいけないんだ。
それにしてもオモシレーやつ。
「はは・・・あはははははははは」
また腹筋強化タイムだな。
来月あたりには8コに割れてるかも。





 

 

 

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2005.04.13

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